59 自分で迷宮入り
なされるがままに連行される。移動は中級龍達が本山まで乗せてくれるみたいで、一人一匹、計8人で移動中です。(助数詞はあっているか謎であるが)
ラトーさんは相変わらずのなよなよしい感じで、ずーっと私に話しかけている。ミアさんのおかげで闇堕ちの数が減ってきていてすごいーだの、闇堕ちを治す方法まで探し出すとはやはり素晴らしいだの、さっきから"すごい"の連発である。褒められてるから悪い気はしないんだけど。
後ろにいる三人はとてつもなく暇そうにだる~んとしている。あ、トウカ欠伸した。
ラトーさん曰くのお礼とやらに参加しなくちゃいけなくなった三人には申し訳ないんだけど、私にはラトーさんの押しという攻撃をかわしきることが出来なかった。ゆ、ゆるして?
ラトーさんの話を右から左に聴き流していると目的地へとついたらしい。ざっと2分くらいか。何かに乗って空を飛ぶっていう経験はなかなかないから面白かったな。たまに私に"普段空とんで移動してるでしょ"疑惑がかかってるけど、あれ飛んでるわけじゃないからね。飛び跳ねてるだけです。私の脚力よ。
本山は山というものの普通の集落に近い。さっきの耀黒山とは違ってヒト型の龍人達が慌ただしく動き回っている。私を見かけると遠くの方からでも笑顔で手を振ってくれた。
「すみません。まだ準備が出来ていないようで……。今日の夜頃には整うと思うので、私の屋敷でどうぞおくつろぎください」
言われるがままに案内され、他よりも少し大きい家についた。おそらくラトーさんの家だろう。魔王城やイリアスさんの白亜の城のように圧倒されるようなものはないが、やはり族長。上手く言葉では表せないけれどそれっぽいものをどこか感じさせる。
ま、いいよって言っちゃったもんはしょうがないし、せっかく部屋も用意してくれたんだから大人しく待っておきますか。
◇◇◇
「あの、、準備が整ったのでそろそろ……」
本山に来てから数時間、恐る恐るラトーさんが呼びに来た。
私達はというと、だるーんとまったりくつろぎモードに入ってて、皆夢と現実の狭間を行き来していた。この狭間に意識があるときが一番気持ちいいよね。今は感覚を常に研ぎ澄ませておく必要はないからこの状態になれる。この気持ちよさは人であっても魔族であっても変わらんよ……。
まだふわふわしている頭でラトーさんに返事を返し、しょぼしょぼする目をこすりながら部屋の外へ出た。
「「ようこそいらっしゃいました、龍人族へ!!!」」
突然の大きな声にビクッと体が跳ね上がる。
びびびび、びっくりした!?!? 何事!?
後ろの三人も同じようで、目をパチパチさせている。
「おまたせして申し訳ありません!! さあさあ、どうぞこちらへ!!」
見た目おじいちゃんの龍人がそう言うと、何人かが大きな椅子を4つ用意してきて私達はそこに座らされた。そして神輿みたいに担がれながら連れて行かれる。
「あの、ちょっ……!?」
……何も口を挟めません、と。
いや、おかげでばっちり目は覚めましたけれどもね!?
ふわふわしてたから余計に初めは現実なのか分からなかったよ。ラトーさんは向こうの方でにこにこしているので確信犯だっていうのはよくわかった。
普通に考えて数時間でお祭りの用意って凄いと思うけど、よくよく思い返してみると私が仕事しに来た日も終わった途端祭りだーみたいな騒ぎになってたっけ。……龍人族は祭りだの宴だのが好きなのかな。あんまり私の中ではそういうイメージなかったけど。
それにしても、どうして私はこんなに歓迎されてるんだろう。ラトーさんの敬い具合は尋常じゃないし、一回助けただけでこんなにも崇め称えられるなんて一周回って軽く恐怖でしかないのだが……。
やっぱり私、自分が知らない間に吸血鬼族みたいにフェロモンか何か出してるのかもしれない。無自覚っていうことある?
自分で考えて自分で迷宮入りしている間に、わっしょいわっしょいと担がれていた私達は祭りの中心らしきところに降ろされ、勝手に乾杯が始まり、勝手にどんちゃん騒ぎになっていった。
ふむ。たぶんあれだな。龍人族は私を崇めているっていうよりも何かと理由をつけて騒ぎたいだけなのかもな。
なにげにトウカとヴィスタは向こうの方で龍人の男のヒト達と力比べみたいなのを初めてるし、レーインはこちらで女のヒト達と美容について軽く女子会みたいなのを開いている。レーインの美容講座みたい。
私は……入れるところなさそう。……あれ? 私一応この祭りの主役だよね?
……ま、いいか。こうやって見てるだけでも何だか楽しいし。
夜が開けてくる頃に、ようやく疲れ果てた皆がお開きにしようと提案するのはあと数時間後の話。




