58 そういうのは卑怯だと思うな
最後にここを訪れてからまだ一年も経っていない。が、前のように木々がなぎ倒されていたり、戦傷者がゴロゴロ転がっていたりと悲惨な様子は微塵も感じなかった。あの龍の暴走が嘘のように静かでのどかな風景になっている。
一応少しだけど関わった身としてね。気になるじゃん? 平和だったら言うこと無しよ。
とまあ私の主観はおいておいて、、久しぶりにやってきました耀黒山ー!!
あ、ちなみに龍の方々にはめちゃめちゃ恐れられてます。いやー、意外と暴走してても覚えてるもんなんだね。ヒト型じゃない下級龍と中級龍しかいないから誰か喋ることができる龍はいないのだけれど。
こう、、私達が降り立った瞬間にたぶん皆"あのときのやつだ"って認識してさーっと物陰に隠れていってしまいました。木の陰からビクビクしながら何匹かはこちらを伺ってる。
「……おまえ、どうしたらこんなに恐れられるんだよ。龍って俺たち上位種族を前にしても自分のプライドだけは捨てない種族だぞ? なのにどうだ。皆一目散に逃げていった」
「うーん……。一応仕事だったからねえ。これはしょうがないといえばしょうがないんだけど……。ここまでされたら流石に私でも傷つく……」
しかも耀黒山しか来たことないから肝心のラトーさんがいるところわからないし……。チェスターに頼んで瞬間移動でもしてもらおうか。でもあの瞬間移動って私好きじゃないのよ。気持ち悪くなるでしょ? 車酔いみたいになるからさ。
ちなみに、ここまでは歩いて来ました。吸血鬼の洞窟から4つくらい下位種族の群れを通り越して約3日。私達の脚力に自分たちでびっくりしてます。
歩き方を工夫すると歩いてるだけで総合値ぐんぐん上がっていくって……私も森にこもってる時にすればよかった。膝から下に魔力を集中させて脚を強化&スピードアップ。その勢いのまま一日中走り続けていたらSPとMPの上昇に繋がってくる。しかももともとの総合値が皆まあまあ高いからあまり疲れないと。
人間だった頃では考えられない化け物だなと感じました。
「ねえ、こんなところにいて肝心の族長はどこにいるのかしら?」
「それがね、私ラトーさんのいるところ知らないんだよね……」
「「え!?」」
なんでそんな驚くかな。言ってなかったっけ。私仕事では耀黒山しか来なかったから知らないのよ。ちょっと、、いや、だいぶ申し訳ないけど一番近い龍にお願いしてみるか。えっと、確か中級龍は言葉は理解できるんだっけ。ラトーさんの説明を思い出す。そして広い範囲に聞こえるよう、できるだけ声を張り上げた。
「龍のみなさーん!! お久しぶりでーす!! 今日は襲わないので安心してくださーい!!」
何匹かが少しずつ近づいてきた。おそらく中級龍だろう。
「お願いがあるんですけどー!! 誰か族長のラトーさんを呼んできてくれませんかー??」
言いたいことを言い終えると、しんっと静かになる。
ふーむ、、これで誰でもいいから行ってくれればいいのだが……。私は何時間でも結構待てる体質なんだけど、トウカとレーインがね。一応この子達いいとこの坊ちゃん嬢ちゃんだから待たされるのは好きじゃないみたいで。ヴィスタは何考えてるのかわからないけどどこか遠くを見つめてる。
すると、龍同士で少し話し合ったのか数分して一匹の赤い龍がどこかへと飛んでいった。
そして数分もしないうちにその龍に乗ってラトーさんがやってきた。
……びっくりするくらい早かったね。
「ミアさん!!」
ひらりと龍から降り、私達のそばへとよってくる。前と変わらず中性的なお顔で、腰抜かすほどの美形じゃないから落ち着く。
とりあえず三人は初めてなので軽く自己紹介。その後に私達のここに来た目的を話した。
「なるほど……、そうでしたか。蜘蛛の巣にある図書館は有名ですからね。ケリスナならいいそうです。魔石でしたね。ミアさんのお役に立てるのなら是非持っていってください。しかし魔石は本山の方にありまして……あ!! そうだ!!」
何かを思いついたようで、先程乗っていた赤龍に何かを伝える。伝え終えると赤龍はまたどこかへと飛んでいってしまった。
「あの……是非本山へ来ていただけませんか? あ、本山というのは私達上級龍が主に生活しているところなのですが……。前はミアさん、すぐに帰られてしまったのでちゃんとしたお礼も出来ずに……」
「いえいえ、きっちり報酬は貰いましたし充分お礼は頂きましたよ? 何なら今回魔石も頂く予定なので充分すぎるかと」
「いえ!! 是非! お越しください!! トウカさん、レーインさん、ヴィスタさんもご一緒にどうぞ」
ぐいっとせめられる。なんで急にこんなところで押しが強くなるのさ。さてはこいつ、私が押しに弱いこと知ってるんじゃないか?
「えっと……じゃあ、一日だけ……」
負けた。
最後まで渋っていたら急に捨てられたわんこみたいになって断れなかった。まあ……いいか。一日だけなら。
こうして私達はラトーさんとともに本山へと歩きだした。




