54 吸血鬼の洞窟1
ほんっっとうにすみません!!
忙しさに目が回っておりまして気づけばこんなに日がすぎてしまって……。
もう少しで落ち着く……はずです。
「うわー!! 流石女性に人気スポット。キラキラしてる!!」
洞窟に一歩足を踏み入れると、そこは女性なら誰もが夢見る別世界。
"洞窟"と聞くと薄暗いイメージをしがちだが、全然そんなことない。
化粧品を専門としている店や、お洒落な洋服、可愛らしいカフェなどが揃いに揃っていて、種族関係なく多くのヒトで賑わっている。
そしてその殆どが"女"である。
「ねえ、僕達やっぱりいかなきゃいけない?」
「何を今更。もう入っちゃってるんだからしっかりしなさいよ」
「ねえねえレーイン、あっちのビッグパフェ食べてきていい?」
「お前はちょっと大人しくしてろ!」
ぐいっとトウカに引っ張られる。
いやー、ここには誘惑が沢山ありすぎて困るな。
「ヴィスタ、どうしたの急に?」
さっきまで大丈夫だったのに急に顔色が悪くなったように見える。
「僕、あんまりヒトが多いのに慣れてなくて。それにさっきから物凄く見られてる」
ヒトが多いのに慣れていないのは初耳だ。私は……なれてるわけじゃないけど、こう見えて前世の通学路は人でごった返してたから耐性はある。
視線を感じるのは……確かに。
すれ違ヒト達全員に見られてる。まあこんな顔面偏差値高すぎ軍団が歩いてたら嫌でも目につくわな。
「そんなの気にするだけ無駄よ。それに全部が全部あなたへの視線ではないわ。私がここにいることが珍しいのよ」
えっ! そうなの!? と一人驚いていると、レーインは笑顔で詳しく説明してくれた。
レーイン曰く、自分はこの洞窟にこそ住んでいるが、あまり外には出ないらしい。なんでもいるものや欲しいものは言わなくても次の日には必ず部屋に届いてるんだとか。いや、普通に常識の枠超えてるでしょ。だって欲しい物が言わなくても届いてるとか誰かがエスパー並に心読めるってことでしょ? まあうちも似たようなことはたまにあるが……。
このあとも何度かドーナツやクレープ、シュークリームなどを見つけては食べたいと願い、トウカに駄目だと言われ引きずられていった。
そして歩くこと約30分
「ついたわよ」
目の前にそびえ立つのは白亜の城だった。
魔王城とは違い、全体的に白く、繊細な雰囲気を醸し出している。が、決して小さくはなく威圧しているような存在だった。
「連れてきたわ。お母様は今どこに?」
つくやいなやすぐに近くにいたメイドらしきヒトに尋ねている。するとそのメイドはいきなり現れた私達に驚くこともなく、平然とレーインに返答していた。
なんか……出来るメイドって感じ……。
「おかえりなさいませ、レーイン様。イリアス様はご自身の部屋にいらっしゃるのですが……」
「ああ、また男たちを連れてきてるのね。私が来たと言ったらすぐに飛んでくるわ」
「はい、かしこまりました。それではレーイン様、ミア様、トウカ様、ヴィスタ様は応接間の方でお待ち下さい」
深々と頭を下げて城の中へ入っていくメイドさん。
てか普通にしてたけどトウカとヴィスタのことさらっと言ってたよね? バレてるけど大丈夫なの?
それにさっきのメイドさんとレーインの会話には気になる点が沢山ありすぎてたんだけど……。
「さ、行きましょ」
「おいレーイン。俺たちのことバレてんぞ」
やっぱり突っ込むところはそこだよね。
「あのヒトはお母様の唯一の侍女なのよ。知ってて当然でしょ?」
「当然とかそういう問題なのか? それに知ってるなら迎えに来てでもくれれば俺たちはこんな格好にならなくても良かったんじゃないか?」
そうだそうだと、珍しくトウカに同意しているヴィスタ。
私的に女装は……見れて良かったなと思ってるんだよねえ。心の中の何かを失った気がするけど。だからやっぱりこの件についてはフォローできぬ……。
「あなた達何言ってるの? 公に私の家の者が男迎えに言ったら違法よ、い・ほ・う!! それくらい分かりなさいよ」
「その法を堂々と破らせてきてんのはお前とお前の母だけどな!」
「まあまあ落ち着いて。応接間に……ってレーイン。イリアスさん、今男のヒト連れてきてるって言ってたけど大丈夫なの?」
触れてはいけないような話だったかもしれないと思い、慌てて口を塞ぐ。そんな私を見てレーインは軽く笑って答えた。
「大丈夫大丈夫。そんなの触れたらいけないよなことじゃないわよ。吸血鬼の本性は知ってるでしょ? それに私達は従ってるだけ。ちなみに私の父親はもういないわよ」
「え!?」
ちょ…っと情報量多すぎてミアさんの頭パンクしそう。
レーインの父親がいないって……事故か何かで亡くなったのかな。レーインはそれ以上聞くなとでも言うように静かに微笑んでいる。これでは……私は口を紡ぐしかない。
「さ、こんな茶番してる間にどうせお母様の方が先に準備出来ちゃってるわ。早くいかないとほんとに一ヶ月は出られないわよ」
むりやりに話を切り上げて私達は白亜の城へと足を踏み入れた。
その時にちらりと見えたレーインの横顔は……少し、寂しそうだった。




