53 普通に負けた。普通に悔しい
数時間経って、よりいきいきとした顔のレーインが出てきた。
二人を引き連れて入っていった店はレーイン御用達の貴族の人達が通うようなラウンジらしい。洞窟の外にあるのは誰でも気軽に入れるように、らしい。
それよりも、、元気になったレーインの後ろに影が2つ。
正直言って……これ、私ボロ負けじゃない?
皆覚えているだろうか、レーインがここに入っていった理由を。
そう。未成年は洞窟に入れないため、なら女装させてやろうとの試みでトウカとヴィスタをレーインが張り切っていた。で、出てきたのがこれだ。
トウカは鬼人というのを生かしてか、着物を着ている。淡いピンク色を貴重とした生地に、桜、牡丹、椿等が鮮やかに散りばめられ、トウカの白に赤のグラデーションがかかった髪の色によく合っている。
そして何より顔。もう出来上がってるじゃん。
長いまつげに縁取られた切れ長の目は決してきつい印象を与えることなく、妖艶さを持っている。薄っすらと赤みのさした頬に、艶のある唇。どれもパーツが一つ一つ整っているためか、ヒト離れした印象を受ける。
一言で言うと、吉原の花魁みたい。キセルいるかな。
ヴィスタは……神秘系美人?
ちょっと私の貧相な語彙力では表せられないけど……。
ドレスは流石に無理だったのか、真っ白のワンピースを来ている。
色素の薄い翠色の髪をどうやったのか肩より少し下の位置まで伸ばしてふわふわと遊ばせている。
こっちも同様で女子顔負けのお顔。
しかもヴィスタって料理もできて気遣いも出来て、極めつけにはお顔も破壊力満載でって……女子の鏡かな?
私が男だったら一度は夢に見る女性像だ。
二人ともどこからどう見ても男に見えない。逆にナンパされそうなほどのクオリティーで……。レーインの技術も勿論凄いけど、これは素材が整ってるからこそ出来る技ではないだろうか。
で、レーインも並ぶのでしょ?
……うわ……。私だけ浮くの決定じゃん?
確かに前世よりは比べ物にないほど美少女に生まれ変わったけどさ。これ見たあとに、ねえ……。
どうせ異世界に転生するんならレーインみたいな目を引くような金髪とか、絶対前世ではお目にかかれないようなヴィスタの翠色とか、科学的には証明されないだろうトウカみたいな地毛でグラデーションのかかった髪とかさ。
夢じゃん。私の髪に関する異世界チート? といえば、どんなに髪が伸びても毛先が傷まないってことくらいなのに。
今、腰まで髪あるからそろそろ切らなきゃいけないなと思ってるが、、面倒くさい。
「ねえ……僕達、ほんとにこれでいくの……?」
ヴィスタは恥ずかしいようで、いやいや尋ねてくる。さっき固まってたもんね。
「当たり前じゃない」
と、そこにレーインの強烈な一撃。
グハッとまるで効果音がついているようにうずくまるヴィスタ。
「似合ってるよ!!」
笑顔でナイスサインを送ると、もっと傷ついたようにヴィスタは小さくなる。あ、あれ? 褒めて安心させようとしただけなのに……。
「トウカは何でそんなに反応薄いのさ」
とりあえず傷ついてるヴィスタはほうっておいて、気になってるのはトウカの方だ。
流石花魁醸し出してるだけあって堂々としてるけど、逆に何故堂々としていられる? まるで恥ずかしさの欠片もないんだけど。どうせならヴィスタみたいに恥じらい(?)があったほうがこっちからしてみれば面白いのに。
「恥ずかしがろうが何しようがどうせこの格好で行くのは決定事項だろ? なら堂々としている方が恥ずかしくない」
「……そう。だって、ヴィスタ」
「メンタルが違うでしょ! 僕とトウカでは!!」
「それは何気に俺が傷つくのでは?」
若干涙目になってるヴィスタは、「化粧が取れる!!」とレーインに怒られてる。これはメンタルの問題なのかな? 本人たちがそう言ってるからそうなのだろう。
「ま、俺の場合は幼い頃によくレイナ達に遊ばれて女物の着物とか着てたからな。耐性はそこそこついているんだろ」
絶対それだ。メンタルとかいうもんじゃないわ。
「ま、メソメソしてても仕方ないか」
いきなり開き直ったヴィスタに若干驚く。そんな"はい"みたいな一拍おいたら何事もありませんでしたーみたいに出来るのね。「どうどう、かわいい?」なんて聞いてるくらいだからもう問題はない、、と思う。
見た目的に私が一番幼く見えるなーと思いながらも、これで無事洞窟に入ることが出来る。
一応、フェロモンに当てられない用に、と私が一肌脱いで二人の周りに結界をはる。
水魔法と光魔法を組み合わせた魔法で、薄くはっておくとどんな魅惑系の魔法が飛んできても全て跳ね返せるようになってる。見た目は何もないようにしてあるよ。
レーインで実験済みだから強度は問題なし。
とまあそんなこんなで準備は出来たわけですし、いざ、吸血鬼の洞窟に潜入!!
2日くらいで外に出れるといいな……。




