37 魔王という恐怖
「魔王……だって……?」
ヴィスタが恐る恐る尋ねてきた。
私の鑑定がおかしくなかったら称号には「魔王」があった。ゲルさんにもあったから間違いないと思うけど……。
「称号に、魔王があった」
それを聞いた瞬間、ヴィスタは苦虫を噛み潰したよう顔になる。どした!?
「何かわかったことがあるの?」
「うん、たぶんね。じゃあミア、もう一つ分かる? 彼の名前は?」
「グレイアム」
ああ、っと今度はその場で崩れだした。
さっきから一人でどうした!? 私もだけどレーインとトウカもびっくりしてるぞ!
「この戦い……難しいかもしれない。相手は、彼は……四代目魔王、グレイアム様だ」
「「「四代目魔王!?!?」」」
えっ、ちょっとまってちょっとまって。
四代目魔王とな?
いやいやいやいや。どえらい相手じゃん!?
ていうか何で一番トップのはずの魔王様が闇堕ちしてんのよ!? そりゃあ強いわ!!
「彼は、、今から約1500年前に魔王として君臨していたんだ。でもその時急激に闇堕ちが増えた」
「急激に? 今よりもか?」
「うん。今も少しずつ増えていってるけど比じゃなかったんだ。今は大まかに数えて月に100くらいだけど昔は、いや、その一年だけは月に1000ほどに増えていたんだ」
「1000!? 今の十倍じゃねえか!? 何でそんなに増えてたんだよ」
「わからない。でも当時魔王だったグレイアム様が急に姿を消した途端、闇堕ちは数年間パタリといなくなった。そしてその後のグレイアム様の姿をみたヒトは誰も居なかったんだけど……」
「闇堕ちしていたと」
「そう。僕も正直今、物凄くびっくりしている」
なるほどなるほど。
グレイアム様のことはよく分かった。その1500年前の闇堕ち急増事件は気になるけどそれについては後でもっと詳しく聞こう。
それにしても、、ヴィスタってよく知ってるな。
私なんて関わり持った人とトウカから聞いた3代目魔王アヤメ様しか知らないのに。(アヤメ様も名前しか知らない)
パシュッッッッ
…………………………??
何が……起こった?
あれ? 頭上にあった木の枝、幹が全部なくなってる。いきなり過ぎない? まだ私の頭の中混乱してるからなかなか戻ってこないよ?
でもそうも言ってられない現状に送り込まれました。
いきなりすぎるけど、戦闘開始か!!
◇◇◇
「レーイン、右避けて!!」
「っ!!」
レーインの横腹をグレイアムの右手がかする。
やっぱり彼らのスキルだけでは攻撃が避けきれない。見切れてないんだ。
初めの方はまだよかった。ただどんどん瘴気に当てられて私達の体力も底を付きかけている。
無謀、だったか……。
今逃げても必ず追いつかれてしまう。そしてとどめもさされる。
それほどまでにこのグレイアムは強いのだ。
なら、もうこの方法しか残ってないじゃん!!
「トウカ、レーイン、ヴィスタ、逃げて!! できるだけ私が時間をかせぐから!!」
「ミアをおいて逃げれるわけないでしょう!!」
「そんなこと言ってると全滅だよ!! 逃げてゲルさんを呼んできて!!」
「なら俺も残る!」
「ヴィスタ!! 頼んだ!!!」
「…………分かった。死んだらだめだよ……」
「ありがとう!」
そう。これが一番いい。
ゲルさんが来るまでに一時間以上はかかるだろう。それまでに私がもつか……。
いや、倒せる。
まだ総合値は半分もきってない。それに3人がいなくなった分体力の消費はえげつないけどウィスター達が使える。
「何で……!! ヴィスタ、お前ミアが心配じゃないのかよ!!」
「そうよ!! こんなところでミアを一人にしておけるはずないでしょ!!」
二人は……そうだろうな。
私だってこんな窮地に仲間がおいやられたら絶対においていけない。でも……今回は聞き分けてくれなきゃ困る!!
するとヴィスタが珍しく声を荒らげた。
「僕達がここにいたってできることはもうないだろう!? 僕だって、、残りたいのは山々だよ!! でもミアもいっただろ? ここに全員が残って全滅するよりもゲルディアス様に助けを求めるほうが何倍も上だって」
「…………っっっ」
「それに僕はミアに頼まれたんだ。ちゃんと役目は果たすよ」
ありがとうヴィスタ。
まだ納得が行かない様子だけれどトウカとレーインは渋々ここを離れていった。
よしっっ!!
むこうにはいかせないぜ!!
十分で蹴りをつけなきゃ後はない。
前みたいにウィスターとチェスターにそれぞれ光と闇の魔力をこめる。
肩から腰にかけてえぐるようにっ!!
…………やはりそう簡単にはいかないようで。
硬い。確かスキルに闇魔法無効があったよね。ならチェスターの方はもしかして効いていないんじゃ……。
恐らく予想はあたってる。ウィスターの方は手応えがあったけどチェスターは全くと言っていいほどなかった。
ならば、、少しチェスターにはきついかもしれないけど、我慢してもらおう。
残り5分
両方に最大まで光の魔力をこめる。
くっっ!!
MPが物凄い勢いで減ってきている。
残り三桁を切ったところで止めた。残りは切ると同時に一緒に込めるつもりだ。
狙いは横腹。
綺麗に横から切れることを願う!!
自分のできる限りのスピードでグレイアムの横腹へ突進する。
これで……も…………く、らえええええぇぇぇぇ!!!!!
ザンッと手に肉を切る感覚だけが残った。
『あとは頼む…………』
かすかに声が聞こえた気がした。
お互いが倒れる。
グレイアムはどうなった? わからない。
もう私も動けない。
魔力、切れ、だ…………。




