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31 〈少女〉トウカ視点

俺はトウカ。父に鬼ヶ里里長のジンを持つ。


父上は俺が一番尊敬している方だ。

強くて、領民の事をよく考えている姿は俺の自慢でもある。そんな父上を見て育った俺は、他の同世代の子供よりも実力の面でも思考の面でも抜き出ていた事は自覚している。


そして周りの奴は何を言ったて話が通じないため多くの者は俺の中で"鬱陶しい存在"になった。


幼い頃からやれ自分の娘をだの、やれ自分の息子を側近になど、面倒くさいことこの上ない。そのおかげかいつしか僕の周りには打算を抱えた子供達しか集まらなくなっていった。


そんなこともあり、俺の気の許せる相手は両親とツキミ、櫻嵐亭のレイナだけになってた。

俺は別に困りはしないのだが両親はまだしもツキミとレイナが必要以上に心配してくる。ツキミもレイナも父上の腹心であり母上とも仲がいいため、産まれたときから俺の家族のような存在だった。




今回も自分の子供を押し売りしようとしてくる鬼人が訪問してきたために家を抜け出して来たのだが…………怪しいやつに出会った。


上から下まですっぽりとフードを被っていて男か女かもわからない。背丈は俺と一緒くらいだが種族が何なのかわからないため初めはヒトには言えないような商売なんかをしてるやつかと思った。しかも何処か探しているようですキョロキョロと辺を見渡している。


危ないやつだったら捕まえなくてはと思い、怪しいやつに声をかけた。



「おい!! お前、何者だ?」


少しびっくりしたようにこちらを振り返った。

そしてジーっと俺のことを見ている。目は黒いし魔族ではあるようだが……何故か一言も喋らない。



「おい!! 聞こえないのか? 俺の質問に答えろ!!」


つい切れて大きな声を出してしまった。

泣き出すかと思ったがそいつは俺の予想の斜め上をいった。


「名前を聞く前にまずは自分から名乗るのが礼儀じゃないの?」


……っ!!

その声は女のものだ。

だがしかしだ、こんなこと言われたのは初めてで戸惑ってしまう。



「な……!! お、俺はトウカだ。名乗ったからお前も名乗れ!」


俺を知らないやつなんていないと思っていた。俺はそこそこ他の奴よりも強いしなんて言ったって里長の息子だ。だから他の種族の長にも時々会う。

でもまあよく見たらこいつは鬼人じゃない。それならば仕方ないかもしれんなと思っていると、


「私はミア。ツキミさんっていう人の家を探してるんだけど……あなた知らない?」


ツキミを探しているだと……!!

こんなやつツキミの知り合いにいたか? どう見たってこのミアとかいう女は俺と同じか、少なくとも俺よりは下に見える。

疑わしげに尋ねる。


「お前、ツキミの所に行きたいのか? 何故?」


「ヒロさんから巾着と伝言を頼まれててね。私ここにきたの初めてだから場所わかんなくて。」


訳のわからないことを言い出した。

ツキミの居場所も、旦那がヒロだと言うことももちろん知っていたが何故こいつがこんなことを知っているのか理解できない。しかもヒロの事はツキミに親しいやつしか知らないはずだ。


でも、どうしても行きたそうだったから連れて行ってやることにした。何故かわからないが少しこの少女の事を知りたくなり、後で里を案内する約束までしたのは俺にとっても驚くべき事だった。



◇◇◇


ツキミとミアの会話はよくはわからなかったが、何やら今までと違うという事とミアが普通ではないという事だけ理解できた。


こいつは一体何者なんだ?

聞いても教えてくれる気配はない……。





櫻嵐亭でミアの着飾った姿を見たときは一瞬胸が高鳴った。初めての感覚だ。

何やら自分でもよくわからないが少し恥ずかしくなり、無理やりミアを連れ出してしまった。

さっきからミアの手を引っ張ってばかりだ。自分からいくことはあまりないから今の俺の行動は俺自身も戸惑っているところがある。




甘味屋での時間は今までにないくらい楽しかった。


アヤメ様の話や父上の話を嫌な顔一つせずに聞いてくれる。俺やミアくらいの奴はこの話をするとすぐに俺の話題へと持っていこうとしていて、全く面白くないのだが。

だがミアは話しやすい。むしろ楽しいと感じるのは初めてかもしれない。


それと、ミアは全くと言っていいほど魔界のことを知らないということが今日一日でよくわかった。

先ず常識がなさすぎる。


アヤメ様の事を知らない者はこの世界にまずいない。それに現魔王様、ゲルディアス様のことをあれだけ言っているのは正直肝が冷えた。こんな小さな魔人が何故ゲルディアス様の対してあんな事を言えるのか、その答えはすぐに分かった。


甘味屋に、予想外の父上とゲルディアス様が来られた際のあのミアの態度、そしてゲルディアスがミアに接する態度はどう見ても"家族"だった。

全て謎が溶けたような気がした。


あの時びっくりしすぎて少し意識がどこかへいってしまっていたみたいで、別れの挨拶ができなかったが、数日後にまた父上が登城する際に俺も連れて行ってもらう事になった。



ミアは不思議な少女だった。

ツキミやレイナと話しているときはまるで、父上やゲルディアス様のような"支配者"のような顔をして話す。本人は無自覚のようだが。そして誰もそれに逆らえない。これはミアの強さが他の者よりも飛び抜けているからだろうか。


かと思ったら、みたらし団子の前では年相応の姿になる。

美味しさに顔をほころばせている様子は俺の胸をざわつかせるには十分な威力があった。



自分は今まで何を見てきていたのか。

何故今の自分で満足していたのだろうか。

ミアを見ていると自分の奢りが急に恥ずかしくなる。


強くなりたい。

せめてミアの足手まといにはなりたくない。


そのためには先ずは何が必要か……。後々考えなければいけないな。

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