176 生
重たいまぶたを開けると、見慣れた白い空間ではなく、ちゃんとした天井が目に映った。
戻ってきたんだと、半ば朦朧とする頭でそんなことを考える。
ガシャンと隣で何かが割れる音がした。
「ミ、ミ、ミア様……。お目覚めに、なられたのですね……!!」
わなわなと震えているメイドはいつもお世話になっているフリータ。フリータがこんなにも動揺するなんて珍しい。
「うん。おはよう」
「ああ!! 皆様にお伝えしないと!! サリーネ! ウラル! 早くこちらに!」
そこからは早かった。いや、早かったというレベルではない。まず初めにたぶんフリータの水差しが割れる音を聞いて、もしかしてと思って来たゲルさんが私の側で静かに涙を流す。
そしてどうやって知らせたか分からないがものの数分でトウカ、レーイン、ヴィスタ、玲央、桜子、美凪が飛んできた。
あとから知った話、どうやらヴィスタはもうスマホを普及させようとしているそうで、メイドズ達にも持たせていたらしい。それでトウカ達は独自の持つ転移魔法、玲央達は美凪が使える転移魔法を使ってこちらに来たそうだ。
「皆、おはよう」
「……ああ、おはよう。ミア、お前、、約6ヶ月もの間眠ってたんだぞ」
トウカが教えてくれる。そうか。ちょうど神様達が言ってたのと同じくらいか。皆には……心配かけたなあ。
「ごめんね、長く眠っちゃって。もう大丈夫だから」
そして私はゆっくり神界で言われたことを話した。勿論言わなくていいところや、たぶん言っちゃいけないことは言ってないけど、ウィスター、チェスターのことや私が6ヶ月も眠っていた理由など、皆には今までにないくらい長い時間をかけて。
そしてゲルさんやトウカ、玲央を始めとして、この世界で6ヶ月の間に何が起こったかも話してくれた。
まず一番変わったのはアリエルが天使族の王になったということ。そしてびっくり、ヴィスタ達が交渉していたらしく、元幹部のセシリアもアリエルを補佐する役割についていた。ほぼ寝てるらしいから形だけらしいけど。
私は前と半分も同じ体勢だとまた同じような過ちが起こるんじゃないかとも思ったのだが、どうやらいきなり上が変わると下が混乱しすぎて内乱に発展するようだ。そこらへんはよくわからないが、今はようやく落ち着いてきているらしい。
それと今回の戦いの影響で世代交代が多く行われているらしかった。
魔族はまだまだ現役で仕事ができる人も多いため、あと数十年はそのままだろうが、私、トウカ、ヴィスタ、レーインはもう今から引き継ぎなどを行っていくらしい。
ていうかトウカとかは分かるけど私って何の引き継ぎするの?? と思ったら、さも当たり前のように魔王だけど? って返された。
いや、私の知っている魔王ってさ、実力主義なわけよ。ゲルさん曰く、前魔王を倒すと次の魔王、、みたいに移り変わっていくって聞いたけど。私はゲルさんをさらさら倒すつもりはない。そもそも命かけて守ったのに倒すとかありえないしね。それにこれと言って魔王の座に興味があるわけではない。
だが此度の戦いで私が眠っている間に、どうやら私が救世主として特に魔族に崇め称えられているらしい。私の足にある紋様も魔王を後押しするかのような存在感を放っている、そうだ。これらはあくまで皆の話を聞いているだけだから、本当に私が見聞きしたものじゃないからなんとも言えないけど。
ゲルさん曰く、引き継ぎ間の数十年でミアに歯向かって勝てるやつは現れなければ大丈夫とのこと。大丈夫ってなんだとも思ったけど、今すぐじゃないしいいかと流した。
で、一番は玲央。
どうやら王族に養子として入るらしい。ということは、、桜子と義兄妹になるということなのでびっくりびっくり。
どうやらガリレイド国はやはり男児が家を継ぐという考え方が強いらしく、桜子は聖女であるが国王にはなれないそうだ。桜子が女性進出の社会を目指そうとしていたし、これから変わっていくのかなぁとも思ったりする。
私的には桜子と玲央がくっついちゃえば? とも勝手に考えたのだが、たぶんあの二人はない。それに他人の恋心については私がとやかく言う筋合いはない。
ああ、あと、ゲルさんが目覚めたときからやけにこれからも父親呼びにしてほしいと訴えてくる。前に言ったのがおきに召したのかな。あのときはほぼ私死んでたけど。
後は、、何かあるかな。
あ、皆からウィスターとチェスターがいなくなったって話をしたら生還祝に双剣をくれた。
龍の鱗が使われているらしく、この世のものとは思えない輝きを放っていた。とても嬉しかったし、これからはずっとこれらを愛用していこうと考えているけど、、やっぱりウィスターとチェスターがいないのは寂しい。
小さい頃から戦いを共にした仲だったから。
この双剣にはたぶん私がそう考えるだろうと思ってはめられたウィスターの緑の瞳と、チェスターの金の瞳を模した宝石が埋め込まれている。気づいたときは皆の温かさにまた涙が出そうだった。
次が最終話。明日の朝に投稿します。