173 〈決着1〉ゲルディアス視点
突風と同時にミファエラのところへ一直線に向かう。彼には、、返しても返しきれない借りが沢山ある。今のこの戦いだけでも、おそらく返しきれない。が、今ここで倒さなければどうする。
「まさか混沌の魔人じゃなくてお前が来るとはな。魔王よ」
「私では悪かったか? ミア以上にお前の相手にふさわしいものは私しかいないだろう。それに彼女は、、十分に役目を果たしている」
「なんだ、てっきり前に出てくるのは混沌の魔人率いる魔族の若造共でお前たちはひよって出てこないものだと思っていたが、」
確かに、、全てミアに頼っていたのは事実だ。おそらく自分だったらここまで行動を起こすことは出来ていない。ミアだからこそ、出来たことは沢山ある。
「では無駄話はそろそろ終わりにしよう。私もあまり暇ではないからな」
余裕な笑みを浮かべているのを見ると本当に腹が立つ。今まで何故もっと早くに動くことが出来なかったのか。もっと助けられる命はなかったのだろうか。だがそんなことを考えてももう遅い。おそらく私はミアがいなければずっと行動を起こせていなかっただろう。本当に魔王失格だ。
ミファエラの一撃を受け止める。
そこからはお互い終始無言だった。力の差は同じくらいか、、私のほうが少し上だろう。この調子で行けば勝てる、そう思った直後だった。
いきなり目の前が真っ白になる。私の視力がおかしくなったのかと思ったが、そうではないらしい。どうやら目が開けられないほどの眩しい光はミファエラから出ているようだった。
なんだ、と考える暇もなく光の中からミファエラが出てくる。その姿はまるで光の中から生まれてくるようにすら見え、そういえば天使は神々と一番近い存在だったことを思い出す。性格はひん曲がっているが。
先程よりも翼が新たに2本生え、色味を失った瞳には何を映し出しているのかさっぱり分からない。すとんと表情も抜け落ちている。
「…………ああ、この姿になったのは実に何百年ぶりか。久しく感じていなかった心躍るような感覚。魔王よ、礼を言うぞ」
明らかに違う雰囲気。これはまずいと、おそらく先程の光を見て助けに来ようとしていたミアを視線で止める。
私の全ての力を使ったとしても止められるか……。いや、なんとしてでも止めるのだ。
そこからの戦いは先程と比べ物にならないくらい激しいものだった。互角か私よりも下だと感じていたミファエラはよもや私以上の力を持ち、押されているのが自分でも分かる。
だがお互い疲れてきているのだろう。それに今頃ミファエラは、進化する前に私が入れた攻撃が内部からじわじわと進行している。がくんと目の前の敵が膝から崩れ落ちた。
「な!? どうしてだ!!」
「私の毒が効いているのだろう。流石の天使の最高実力者であっても魔王である私の渾身の毒には抗えなかったようだ。おそらく持って、、数分というところか」
初めに毒を入れておいて良かった。これがあと少しでも遅かったら間に合わなかっただろう。
「くっ……! おのれ魔王め。私の計画が全て第無しではないか。……クソ、まあいい。今頃悔やんでも仕方のないことだ」
やけに物分りがいいと思ったのは気の所為ではなかった。
「魔王の渾身の毒で私がやられるのであれば、、私も最期にとっておきを見せよう。ここにいる全ての者よ、滅びるがいい!!」
そう言い終わるとまた先程とは異なった光を放ちだした。これはまさか……自爆するつもりか!?
そう思い、とっさにどうしたら被害を最小限に出来るか考えていたときだ。今一番目の前にいたらいけない者が私の前の現れる。
「お前……なんでこんなところにいるんだ!! ここにいると危険だ!! 早くここから離れろ!! 私が出来るだけこの爆発の被害を小さくするから!」
「何言ってるの!? ゲルさん、もうボロボロじゃん。ずっとミファエラと対戦してきたんだからもう力残ってないでしょう!?」
言葉に詰まる。確かに、、そのとおりだ。いくら毒の影響で倒せたからと言ってそれまでが無傷だったわけではない。現に今の私は誰がどう見ても傷だらけだろう。だがだからといってミアに任せるわけには、、
「ほら、後は私に任せて」
そう言うと同時に視界が一瞬ぐらりと揺れ、ミアとミファエラの姿が遠のき、まるで自分は蚊帳の外にいるような感覚に陥る。いくらミアだからといってあれ程の高エネルギーを感じるものが爆発したら近距離では耐えられるはずがない。
急いでミアの元へ向かう。向かってどうするのか。でも動かずにはいられなかった。
「ミア!! 駄目だ、離れろ!!! 転移魔法を使え!!」
自分はもうそれを展開する気力は残っていない。だがミアは、、ウィスターとチェスターがいる。
そう思い、叫んだときだ。
一瞬周りから全ての音が消えた。そして光があたりを包み込む。何が起きたかなんて誰が想像しても分かる。
爆発してしまった。
煙から一人の少女が放り出されるのが見えた。ポーンと、まるで効果音がなっているかのように。それはそうだ。あんなに近くにいながら、ただの子供が全てを受け止めたら放り出されるに決まっている。
急いでミアの元へ向かう。不幸中の幸いかそれほど遠くへは飛ばされず、落下する前に私の手で支えることができた。
切りが悪いですが、長くなったので次話に。




