172 最期
長めです。
「ミア、私に、、やらせてくれないか?」
出陣する前、魔王城で準備をしているときだった。唐突にゲルさんが私に話しかけてきた。
「ミファエラとの戦い。勿論、ミアの力を疑っているわけではない。心配ではあるがお前なら十分な戦いを繰り広げられるだろう。しかし、、私はミファエラに、魔族すべての借りを返さなければいけない」
思い詰めたような表情だった。そりゃそうだ。私なんかよりもゲルさんのほうがミファエラに対して思うことは沢山あるはずだ。
「勿論。でも、無理はしたら駄目だよ。危険だと思ったら問答無用で飛んでいくから」
「それはお前にも言えることだぞ。ミファエラの力は未知。お前は確かに魔族の中でも一位二位を争うほどの実力の持ち主だ。けれどそれがミファエラがミアより弱いという理論には辿り着かない」
「それはそうか。だったら尚更、死んじゃ駄目だよ」
「ああ。まだお前から父という言葉を聞いていないしな。死ぬ訳にはいかない」
さて時間だ、とゲルさんと共に残っている全ての魔族と連れてきた人間を連れて出陣する。
ていうかゲルさん、なんで私に父って呼んでもらうことに執着を持つのだろう。まあどっちにしろこの戦いが終われば全てが終わる。ひとつの、区切りになるだろう。別に抵抗があるわけじゃないし、、この戦いが終わったらいいか。
◇◇◇
「こんにちは、ミファエラ。久しぶりだね。どう? 今の気持ちは」
多くの天使を連れてミファエラが目の前に現れる。ここから数十メートル離れていてもびっくりした表情は隠せてないね。うん、予想通り。
「そうだな、最悪、、とまでは行かないだろう。こちらもこちらで対策はあるのでな。対して強くもない人間が、少しそちら側についたとしてもこちらは痛くもかゆくもない。強いて言えばアリエルくらいだろう。よく私の洗脳を解いたものだ」
「あれ、ほんとに苦労したのよ。なんなら今まで一番きつかったわ」
マジで苦労した。いやほんとに。まあでも副賞で神様たちと通話みたいなのが出来るようになったし洗脳も解けたから結果良かったんだけどね。
そこから会話が途切れる。元々会話なんてする気は無かったんだけど、、挨拶は大事だからね。それに今回ミファエラと対戦するのは私じゃない。だから、、たぶんこれくらいの挑発でちょうどいいはず。
お互い不敵な笑みをこぼす。
突如突風が吹いた。ただの自然の現象か、どこからか見ている神様達の仕業かは誰も分からない。けれど風向きがこちらに有利になったとき、ミファエラのもとにゲルさんが飛んでいった。
戦闘開始のゴングがなったような気がした。
ミファエラは私じゃなくてゲルさんが飛んでいった事に驚いている。が、流石ミファエラ。もうすでにそれ仕様の戦闘隊形になってるわ。
よし、じゃあこちらもこちらで全ての天使を殲滅しますか。出来るだけゲルさんにはミファエラと一対一で戦ってもらいたい。だって他の天使とかがいても邪魔なだけでしょ。ということで突然指揮が魔王から私に変わったため驚いている魔族達に声をかける。
「魔王ゲルディアスはお前たちの、魔族すべての敵を撃つために戦っている。私達も共に続こうじゃないか!!」
おぉぉぉおおおぉ!!! と地面が揺れるほどの歓声が響き、皆一斉に天使に向かって飛び立っていった。よし、士気向上はうまく行ったかな。あとは私も参戦するか。
ふと、みんなはどうなっているのだろうとLineをみる。するとなんということでしょう。数分前にレーイン部隊はすでに終わっているではありませんか。早すぎる……。
どうやらここにはアリエルが来るようだ。ガリレイド国王城からここまでどれくらい時間がかかるだろう。私特性の道を使ったら、、2時間、かかって3時間くらかな。それまでみんなが持つか……。いやいける。そもそも私も回復魔法使えるし、どうにかなるでしょう。
スマホをとじ、ゲルさんの方へ向かっている天使達をすべて薙ぎ倒していく。もう、倒しても倒しても湧いてくる。
1時間、もしくは数分だったかもしれないけど、永遠にウィスターとチェスターを振り回す。しんど……!! ゲルさん大丈夫か? さっき途中でミファエラ光ってたけどこっちくるなみたいな視線送ってきたし……。でもそろそろ変わったほうかいいんじゃないか、とそう考えたときだ。
突如ミファエラがまた光出す。しかもさっきのような目が潰れるような光ではない。なんだかこう、、今にも爆発してしまいそうな……。
ん? 爆発……?
「ウィスター、チェスター!! あれどうなってんの!?」
『詳しくはわかんないけどやばいかも!』
『破裂しちゃいそうだね!! もしあの温度のまま破裂しちゃったら、ここらにいるすべてのヒト達は無事じゃ済まないよ!!』
なんてこった。ミファエラ、最後の最後になんてことしてくれてんだ。足掻き? 自分とともにここにいるすべてのヒト達を殺そうとしている……?
そんなことさせない。それに一番近くにいるのはゲルさんじゃないか。直で食らったらひとたまりもないだろう。まだ父と呼んでないんだぞ。ここで死んでたまるか。
「ウィスター、チェスター、お願い。私をあの近くまで連れて行って!」
『でもそうしたらミアが……』
「ここにいても一緒だよ!! だったら、、今できることをしよう」
私の願いにこくりと頷きミファエラの、ゲルさんの元へ行く。
「お前……なんでこんなところにいるんだ!! ここにいると危険だ!! 早くここから離れろ!! 私が出来るだけこの爆発の被害を小さくするから!」
「何言ってるの!? ゲルさん、もうボロボロじゃん。ずっとミファエラと対戦してきたんだからもう力残ってないでしょう!?」
ぐっとゲルさんの言葉が詰まる。図星みたいだ。
「ほら、後は私に任せて」
そう言ってウィスターに無理やり離れたところに転移してもらう。数秒後、ウィスターが手元へ戻るのを待ってから、、
「ミファエラを連れていける場所なんて何処にもない。魔界にも人間界にもどこもかしこもヒトがいる。だったら、、ここで食い止めるしかないよね」
今までで一番高度な魔術を展開する。これは念の為作ってたやつだ。こんなの発動するようなことになったらそれこそ世界の終わりだと思ってたけど、、考えてて良かった。
「ウィスター、チェスター、最期のお願い、聞いてくれる?」
『『もちろん』』
多重結界でミファエラを包み込む。彼には、、もう自我が残っていないみたいだ。
これで本当に最後。長かったような短かったような。でもやっぱり皆にあえて良かったな。
ゲルさんが叫びながらこちらに向かってくるのが見える。まだこの距離なら大丈夫。早く、爆発してくれ!!
私の願いが届いたからかもしれない。ほんとにミファエラが限界だったからでもあるだろう。ドンッと、まるで聞いたこともないような地響きとともに目の前が明るくなって、私の体が吹き飛ばされた。
あ、これまずいと思ったのも束の間、ふっとばされるときに皆の無事な姿を見て、ああ良かったという気持ちがまさり、他の事はどうでも良くなる。
どんと、落ちる衝撃に身を構えていたがいつになってもその衝撃は訪れてこない。おや、と今持っている力の全てを使って目を開けると、ゲルさんがいた。
安心したからか、思わず笑みが溢れる。
「ふふ、終わったね」
「……ああ、終わった。だがミアの体は……」
「大丈夫……って笑い返したいところなんだけどね、ちょっと難しいみたい」
急いでゲルさんがアリエルを呼んでいるのが目に入った。ああ、いつの間にかアリエル来てたんだ。それによく見るとみんなの姿も見える。
「皆、無事に終わったんだね」
温かい水が顔に降ってくる感覚がした。
「じゃあ全部終わったからゲルさんとの最後の約束、言わないとだ」
「お願いだミア、もう喋るな。それ以上喋ると……」
「今までありがとう。父さん」
最後まで言えただろうか。最後の方は本当に聞き取れないくらい小さくなっていたかもしれない。でもまあ……これで心残りはないや。
そう思って私は本当に意識を手放した。




