170 《予想外》ヴィスタ視点
「ねえ、相談があるんだけど、、聴かない?」
2発目の魔法を放そうとしたときにセシリアの口から予想外の言葉が出てきた。
セシリアと、、天使族幹部との話し合い……。
セシリアを見るに彼自身はもうこちらに攻撃を加えるつもりはらしい。
何を考えているのか正直分からないが、舐められたらおしまいだと、余裕そうな笑みでセシリアを見返す。
「今、この状況で天使からの相談か。正直なんで今を選んだか聞きたいな」
「単純な話だよ。僕は勝ち目がないと思ったから。それに力は全部返されたけどもうミファエラ様に仕える必要もなくなったしね。だったらわざわざ身の危険を晒してまで戦う必要なんてないじゃん」
僕の予想に反してかなりセシリアは自分中心の考え方の持ち主だったようだ。もっとミファエラ様一筋だと思っていたけど、、正直こちらも方が話しやすいか。
「それで? 剣をおいてどんな話?」
この場には出番がないと判断したのかミナギは黙り込んで僕が使っていた弓矢をいじり始めた。こうするときの彼は大抵新しい魔法について考えているときだ。まあ端から話はしないだろうなとは思っていたしいいけど。
「僕さ、ミファエラ様との関係を絶ちたいんだよね。だって今はどうせ利用されるだけだし、僕も欲求としてはただ眠っていたいだけ。こんな戦地に向かわされるとか聞いてないし、死と隣り合わせとか以ての外なわけ。だからそれならこっちについたほうがいいなって思ったの」
相変らずずっと芯が通ってない声色で喋る。このヒト、本当にこれで幹部としてやって行けていたのだろうか。
セシリアの提案は悪くない。悪くないけど、良くもない。
だってこの提案を受けたとして僕達にどれほどの利益があるのだろうか。少なくとも今すぐにミアのところに行けるというだけで、必ずしもこいつを完全に信じ切っている訳じゃないし、裏切る可能性だって十分にある。デメリットの方が多いんじゃないだろうか。
「それに君たち、知らないと思うけどさ。僕達が取った総合値って全部ミファエラ様のところに行くの。幹部以外の天使も同じね。だから僕さっき放ってきた弓矢を魔法で落としたでしょう? あれ僕の魔力半分くらい持っていかれたからたぶん結構な量の総合値がミファエラ様のところに行っているよ」
予想外の言葉にびっくりする。なん、、だって?
て言うことは今ここで戦っている天使は勿論、セシリアと対戦することになったらセシリアが得た総合値は全てミファエラのところ。すなわちミアの負担が馬鹿にならないくらい大きくなる……。
「どう? 混沌の魔人ちゃんを心配するのなら僕とここで対戦しないほうがいいんじゃない? まあ僕は戦うつもりも反撃するつもりもさらさらないんだけどね」
「何故そんなにも戦うことを嫌がっているの?」
「だから言ったじゃん。もう動きたくないんだって。どうせ今の僕の力だったら君たち二人がかりで来られたら勝算はびっくりするくらいに低いよ。仮に僕が勝ったとしても総合値は全てミファエラ様に行く上に、これから一生ミファエラ様に使え続けるか、追われ続ける運命の天使でいるかしかない。だったら今ここで協定でも結んでいる方が僕の身のためでもあるしね」
セシリアの言葉に再び考える。
確かに僕たちを攻撃する気はもうなさそうだ。今にも寝てしまいそうま勢いだけど。それにミアのところへ早く行きたいのも事実……。
これからの天使族のことはほぼ全てをアリエルに任せようとしている。戦場に向かわされていたものは先程ちらりと見てもほとんどが大人の男ばかりだった。中には女性もいないことはないが圧倒的に少ない。ということは天使界に残されている者の多いだろう。
アリエル一人で全てを収められるのか、、それは正直不安ではある。
「セシリア、君はアリエルやガルヴィンのことはどう思っているの?」
暗にアリエルのことを悟られないようにガルヴィンのことも聞いておく。
「アリエルは特に何も。ミファエラ様のいう通りにいつも動いてて凄いなーくらい。ガルヴィンは戦闘能力は一番高いけど同時に極度の馬鹿だからあんまり話したくない」
無関心。無関心だけど、特別嫌いではない。まあ、、そこはアリエルがどうにかするか。
「……分かった。デメリットがないわけじゃないけど、、今のところは君と手を組もう。それで? 君は僕達と手を組んで何を望むの?」
「特に何もないけど、、強いて言えばミファエラ様を倒してほしいくらいかな。ミファエラ様が生きていたら今こうして手を結んでいてもほぼ無意味に終わっちゃうだろうし。あとは、、この戦いが全て終わったら一応僕の居場所はほしいね」
後者の願いは、、大丈夫だろう。彼自身がアリエルと上手くやれるかだ。前者は勿論そのつもりだが……
「じゃあこの戦いで君が僕達に渡せるものは?」
「協力。君たちはここじゃなくてミファエラ様のところ、詳しく言えば混沌の魔人ちゃんのところに行きたいんでしょ。だったら僕は今ここにいる全ての天使を天使界へ送ることができる。だから君達はここをすぐに離れることができる。どう?」
分かった、とセシリアと握手をする。
これが吉と出るか凶と出るかは分からないが、、その時はその時でどうにかしよう。
「ならばいますぐ天使族の撤退を。セシリア、君自身は、、まだ信用できたわけじゃないからエルフ族と龍人族に見張りをつけておくね。暴れたらすぐに僕達が駆けつけるから」
「寝ててもいい?」
「……お好きにどうぞ」
セシリアは飛んでいったかと思うと、少しして戻ってきた。向こうの方を見てみると、、天使族が撤退しているのが見える。
本当に天使を天使界に移動させたのだろう。
そしてセシリアをエルフと龍人の中に連れていき、事情を説明している間に、、彼は眠りこけていた。




