163 〈私の存在価値〉アリエル視点
私が異変に気づいたのは数年前でした。
初めは小さな違和感。それは次第に大きくなっていき、決定的な出来事は混沌の魔人、ミアさんの演説でしょう。
彼女の言葉を聞いていて、自分のことが急に恥ずかしくなりました。天使族が良からぬことを企んでいるのは知っていたのにそれを見て見ぬふり。そして挙句の果てにはミアさんの下について被害者の顔をする。天使族の者達と同罪でありながら酷い有様です。
あ、でもミアさんの元についたのは後悔していません。ただミファエラ様にバレていないか、天使族である私がこの場にいていいのだろうかという気持ちは消えませんでしたが。
「貴方、何をしてるの!? そんなことやってて恥ずかしくないのかしら!?? 聖女が聞いて呆れるわ」
「はあぁぁ? うるさいわね!! 私は私のやり方があるの!! 貴方に言われる筋合いはないわ! 聖女だからといって勝手な偏見持たないでもらっても?」
……今もこの二人を止めることができません。
ミファエラ様から私に割り振られた仕事はガリレイド国王城付近の襲撃。勿論私は魔族側にいるため襲撃はしません。かわりに聖女であるサクラシアさんとレーインさんとともに私が連れてきた天使族を相手にしているのですが、、先程からお二人の口喧嘩が止まりません。
が、口論は続けたままサクラシアさんは攻撃性の高い光魔法を、レーインさんは得意とする魔眼を使って次々と天使を倒していきます。
私は参戦したい気持ちは山々なのですが、ミファエラ様から力は返されたものの、呪いのようにまだ私と繋がっているのが感じ取れます。おそらくミファエラ様のもとに私が得たすべてのスキルがいくとか、そういうものでしょう。ですので私は誰かを殺めることが出来ません。出来るだけミファエラ様の有利になるようなことはしたくないので。ですのでお二人に頼りっぱなしで、私は怪我をした者たちの救助に当たっているのですが。
「うちの子も大きくなったわねえ。聖女にまで歯向かうようになって」
「色々なところが大きくなったのは認めますが、仮にも今は仲良くしなければいけない人間族の聖女にあの態度はどうなのでしょうか。やはり頭は少し弱いのかもしれませんね」
「あら、あの子なりに考えているわよ。貴方みたいなお勉強しか出来ないヒトとは違って自分の事もよくわかっているしねえ」
こちらもこちらでとても怖いです。吸血鬼族の族長様はレーインさんのお母上に当たるのだと思うのですが、、どうやらアラクネ族の族長様とあまり仲がよろしくない様子。いつも少しぴりぴりとした空気を張り詰めらせ、向かってくる天使達をなぎ倒しています。
こちらは圧がある分、自分に言われているものではないとわかっていても正直身が縮こまる思いです。
初めは天使族のくせにと、とやかく言われるかと思いました。確かに初めは歓迎されている様子はありませんでしたが、あくまで私とは普通に接してくれる族長のお二人。これが天使族と魔族の違いなのかと、はっきりと感じさせられました。
天使族の数も半分をきっています。回復魔法を専門としているのは私とサクラシアさんだけなので、早くここを終わらせて他のチームと合流することになっています。王城を守るのはアラクネ族に任せて、残った人間と吸血鬼族は私達と共にバラバラになるでしょう。
族長のお二人、レーインさんとサクラシアさんが離れるのは、、いいことでしょう。でも喧嘩するほど仲が良いという言葉もありますし、実際にはなんとも言えません。
こちらの怪我人はあまりいません。重症者は先程運ばれてきた3人だけで、あとはかすり傷程度。それくらいなら数秒で治せます。重症者の方は応急処置はしたもののまだ完全な回復とは言えないので王城内部で休んでもらっています。
流石と言っていいほど怪我人は少ないです。勿論レーインさん達が恐ろしく強く、前線に出て戦っているというのもありますが、人間達が力を底上げしたからでしょう。今も6人1組になって天使1人を相手している姿をちらほらと見かけます。
天使族は皆ミファエラ様に力を返されて強くなっているはず。それなのにそれをものともせずほぼ互角(6人ですが)で戦っているとは信じられません。ミアさん達のお力は本当に素晴しい。
私が天使族の陣からこちらに移動したときは……様々な感情が天使から読み取れました。驚き、怒り、呆気にとられている者も沢山。でもやはり一番多かったのは絶望でしょう。理解したとき、その時はもう戦闘の指示を出す私は敵。素早く私の補佐官だった天使が指揮を取っていましたが、やはり襲いかかってくる天使達は皆、どうしてという疑問が沢山浮かんでいました。
予想はしていたことです。けれどもいざ目の前に来ると、、やはり辛かったですね。でもそれも仕方のないこと。
「アリエル、終わったわよ。次は移動じゃないかしら。ほら、もう怪我人はいないし、急ぐわよ」
いつの間にか近くによってきていたレーインさんに声をかけられました。あら、どうやら私が感傷に浸っている間にすべて終わっていたようです。
レーインさんは私が落ち込んでいる事に気づいたのでしょうか。彼女とともにいる時間は短いですが、少しぶっきらぼうな言い方は励ますときに似ています。
その優しさに、心が温かくなりました。
「はい、行きましょう。2日前に作っていた通路があるはずです。そこを抜ければ魔界。他の部隊は私達とは違って天使族の幹部がいるので、、急ぎましょう」
後はアラクネ族に頼み、私達は王城を後にしました。
私達の戦いは終わり、そして私の戦いが始まったのです。
ですます口調の人物目線は初めてじゃないか?




