133 交渉
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「失礼します!!」
何を話しているかは分からなかったものの何やらごちゃごちゃと聞こえていたのが、数分前からしんっと静まり返った。
これは今が行くチャンスだと思い、まだいやいや言っている3人を引き連れて中へ入る。
ちょっと勢いが強すぎたかもしれないけどこれくらいがちょうどいい。そう思うことにしよう。
皆さんの目が一斉に私達へ集まる。どれもなんでここにいるんだと言うのが隠せていない。とくにゲルさん。
「……噂をすればなんとやらとはまさにこのことだな。ミア、何しに来た?」
私の噂をしていたと? とても気になる。あ、そういえばここにいる人たち皆顔見知りだった。共通の話題でということかな? あんまり私の恥ずかしい話暴露されてないといいな。ここはそれっぽく登場しておこう。
「なんだか今登場するべきだと思ってね。あと、私達のお話を聞いてもらいに来たの。今大丈夫?」
「お前たちの話? 今大丈夫かと言われても会議中だから大丈夫ではないんだが、今この場を選んだということは私達全員に話があるということか?」
そう、と頷く。
流石はゲルさん。話が早い。
「いいわよ。ちょうど私達も案が行き詰まっていたところだし。それにしてもレーイン、ジンやヴィルクの息子君たちもいるとは思わなかったわ。まあ座りなさい」
椅子を進められたため私達は一列に並んで座る。なんかちょっとした授業参観みたいだ。いつも以上に緊張している。
「私達の話は魔族、人間族、天使族についてです」
どうやら先程までそのことについて話していたそうだ。それで案が行き詰まっていたらしい。
「最近天使族の拉致問題、ひいては闇堕ちの増加問題が勃発してますよね。私達はその被害者の救出を行っていましたがこれでは拉致があかないと考え、根本的な問題を解決しようと考えました。そこで出た案は2つです」
一つ目、とぴっと指を一本上げる。
「人間族をこちらに引き込もうと思います。私が人間界に行って人間を見たところ、おそらく人間族は天使族による洗脳にかかっていると思われました。二つ目は人間族をこちらに引き入れる寸前に天使族へ行ってきて少し暴れてこようと思います。それによって多少の混乱が天使族の中で生まれ、少し意識が向きづらくなるはずです」
私の案にびっくりしたような目で見られる。なんだか最近こういうこと多い気がする。
「……人間族をこちらに引き入れるというのは具体的にはどうやってするつもりなのだ?」
「勇者パーティーはご存知でしょうか」
ああ、と皆が一斉にうなずく。流石に自分を殺しにかかってくる相手は知ってるだろうな。
「勇者パーティー、実は私の知り合いでして。ゲルさんならわかるでしょう。それに勇者パーティー全員、昔はそこそこ私と仲が良かったので。勇者パーティーの一人、魔導師は確実にこちらに来ます。これだけでも結構人間側はこちらに引き入れたと言っても過言ではないでしょう」
勇者パーティーの3人だけなんてたかが知れてると思いだろう。けれど大違い。勇者、聖女、そして国一番の魔導士とくればその発言力は桁違いに上がってくる。(全て美凪情報である)
「……人間を引き入れるというのはわかった。けれど何故人間を引き入れる必要がある。私達は天使族だけじゃなくて人間にも苦しまされてきたのだ。何故そんな奴らと手を組まなければいけない」
ゲルさんが静かに反論する。来ると思った。
「確かに人間が魔族にしてきた仕打ちを全部許して水に流し、なかったことにしてほしいなんて思っていません。それこそ先祖が、私達が苦しめられてきたから人間も苦しめばいいと思うことは分かります。けれども何も知らない、ただただ生きている人間はどうでしょう。上の者がした仕打ちで何もしていないのに私達に殺される。知識がなかった。それで許される話ではないとは分かっていますが、仕方がないことではないですか。だって教えてもらえる相手がいなかったんだから。このままでは私達魔族も人間族、天使族と同じ事を起こしてしまいます。多少の妥協は必要でしょう」
それに、と話を続ける。
「私自身も多くのものを殺してきました。もしかしたらただ天使族の言いなりになって戦いに参戦しただけかもしれない。天使族の中にだって誰しもがそう思って出陣していないかもしれない。けれどそこは私は魔族を守るために殺ります。あと、とても個人的な事になりますが、私自身人間が嫌いではありません。あまり敵対はしたくない。だから出来ることならこちらに取り込みたいと思いました。私からの話は以上です」
長すぎるくらいの熱弁をじっと最後まで聞いてくれている。そして考えてくれる。ほんとはそれだけで今日は充分だった。本当は最後まで聞いてくれないと思っていたから。
「…………ミアの言いたいことはわかった。だが……」
「あら、いいじゃない。こんなに私達のことを考えてくれてるのよ。それに悪い話ではないわ」
「私もそう思うな。やってみる価値はある。このままの状態ではずっと平行線だ。変化は必要だろう」
イリアスさんとジンさんの人押しでゲルさんが悩みこむ。皆の反応を見た感じ多分そこまで強い反対のヒトはいない。これも私がこつこつ積み上げてきた信頼度の違いか?
「………………分かった。一ヶ月だ。それまでの間に引き入れ込めたらその次を考えよう」
やった!!
一ヶ月もあればおそらく大丈夫。ゲルさんに感謝を伝え、この場にいる人全員に挨拶をしてから4人で会議室を後にする。
よし。これで次のステップに進めるわけだ。また考えなければいけないことは沢山ある。
ゲルさんに自分の案が認めてもらえたことに少し嬉しさを覚えた。




