13 許すまじマジ
物音ひとつしない部屋の中で私達は向かい合っている。
正直もっっの凄い気まずい。
さっきゲルさん半径10メートル以内に誰も近づけさすなとか言ってたからほんとに外からは何も聞こえない。
まあいつも静かなんだけどね。
だってここの人たちって足音しないんだもん。
ゲルさんは凄く真剣な顔でこちらを見ているのだが……相変わらず美しいお顔ですねー……っってそうじゃない!!
頼むから何か話してくれ!!
と、その願いが届いたのか重々しくゲルさんは口を開いた。
「突然なのだが……魔界を、救ってほしい」
………………??
なんて? 急にどうした。
「今、魔界の比較的治安は安定している。が、闇堕ちするものが増えて来ているのだ。それに行方不明者も」
闇堕ちって確かあれだよね。
私達が城下町に降りたときに出くわしたアウルベアーさん。私がお腹に穴開けちゃって大変だったヒト。
「ミアはこの世界の成り立ちについて知っているか?」
「詳しくは知らない」
「簡単に説明すると世界は大きく分けると上から神々が住む神界、天使が住む天使界、人間が住む人間界、最後に私達が住む魔界に別れている。神界以外は行き来が可能だが神界は踏み込めない領域になっているのだ。そして各界の中でお互いに干渉しないということは暗黙の了解となっていた。ここまでは良いか?」
へー、なるほど。
神々って私達をこの世界に連れてきた神様も住んでるのかな。
天使って日本人のイメージでは神様の遣いみたいなんだと思ってたんだけどはっきり空間が別れてるんだ。
まだまだゲルさんの話は続く。
「しかしだ。数百年前から人間と天使が同盟を組んでいるのだ。同盟を組もうが戦いをしようがここ魔界は下にあるために害はないと私達歴代の魔王はこの事を放っておいた。が、事態は急激に動き出した。……人間と天使が兵を上げて、魔界に戦を投げ込んできた。私はまだ子供だったから良くは覚えていないがそれは壮絶な戦いだったらしい。今でも"最悪の日"として語り継がれている。何人もが命を落とし、不意に攻撃を仕掛けて来られたから魔界のものは何も戦う準備ができていなかった。子供は容赦なく殺され、女は人間や天使の慰め者として使われ、男共は皆最前線で戦った。私達は平均能力値が高い。が、天使相手だと流石に分が悪い。魔族はあっけなく負けてしまった。戦場は血の海で、至るところから泣き声が聞こえた。もちろん私も例外ではない。私はその時に姉をなくした。まだ10歳だった」
戦争の話は何度も歴史の授業で習った。日清戦争とか第二次世界大戦とか。
正直その酷さ、怖さは実感が湧かない。きっとみんなもそうだろう。
へー、そんなことがあったんだーくらいにしか気にも止めてない。
でもゲルさんの話を聞いていると何かせり上げてくるものがある。
これは……何?
「そこで私達は次、このようなことが起こらぬようにと人間界と天使界に条約を組みに行った。だがその者たちは帰ってこず、未だ何年かに一度の割合で奴らは攻めてくる。使者を何回送っても結果は一緒だった。もちろん今でもその者たちのことは探している。だが見つからないのだ!」
どんっとゲルさんが机を強く叩いた。その拍子にミシッと嫌な音がして机にひびが入る。
彼は、、相当怒っている。
「しかもそれだけじゃすまない。さっきも言ったが今度は闇堕ちするものが増えたのだ。はじめはおかしいと思った。もちろん上の者達の仕業なんて疑ってもいなかったが、私達は気づいたのだ。""最悪の日"から闇堕ちするものが増えている"と。直接は関係がないのかもしれない。私達の八つ当たりなだけかもしれん。だが"最悪の日"から魔界が変わり始めたのは皆の目から見てもわかることだった。気づくと人間からは恐れられる存在となっていて、見つかると誰それ関係なく殺しにかかってくるようになった。いったい私達が何をしたというのだ!!」
もう一度ゲルさんは机を叩く。するとひびがミシミシっと広がっていき、机が綺麗に真っ二つに別れてしまった。
だがそんなこは微塵も気にならなかった。
私はゲルさんの言葉に静かに耳を傾ける。
「そこでだ。ミアには闇堕ちしたものの処理と人間達の監視を頼みたい。私達が怒りを露わにして攻撃を仕掛けると今度は"最悪の日"どころではすまなくなるだろう。まだしない。が、私達の怒りは常に蓄積されている。その時が来るまで、頼めるか?」
「もちろん。"その時"はちゃんと私も呼んでね」
そういうとゲルさんは少し驚いたような顔をして、静かに微笑んだ。
正直今の話からはどう考えても人間と天使が悪いようにしか思えない。不意打ちは一番良くないし、何故か私達が悪役にされているところも気に食わない。
正味私は関係ないのだが、この世界に送られた時点で関係ないではすまない。
何なら全部殺ってしまおうかな……。だめだ。それだと皆の怒りが晴れない。
やっぱり"その時"に私も一緒に殺るか。
きっと神さまなら私がこうするってわかってたはずだ。だからこそ魔界に、魔人として送り込んだのだろう。
二人の話は私の言葉で終わりを告げた。
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