115 《疑問》
「では、健闘を祈る」
そうして送り出された僕たちは、まずミナギがよってくれと言っていたアナガリス教会へと向かう。
「そういえば、ミナギとアナガリス教会ってどういう関係なんだ?」
「アナガリス教会の教皇いるだろ? あの人が俺の育て親なんだよ。こっちの世界に来たときにどうやら教会の前で捨てたれていたらしくてな。拾ってくれたのが爺さんだったってわけ」
ミナギもミナギで壮絶な過去があるらしい。本人は気にしていない様子だったけど。
教会は王城とそう遠くないところにあり、歩いて3時間ほどで到着した。
「ようこそお越しくださいました。サクラシア様もお元気そうで何よりです。どうぞごゆるりとなさいませ」
グレイス教皇はサクラにとって親族に当たるわけだ。幼い頃に少し顔を合わせたことがあるらしい。
どうぞと進められ、僕とサクラは客間のような場所に案内される。ミナギは教皇と別の場所へ行ってしまった。
少し時間が経過したときだ。
「ねえ、レオン」
神妙な面持ちでサクラが立ち上がった。
「どうした?」
「この部屋、というかこの教会。レオンは感じない? いたるところで闇の魔力の気配がするの。魔族と同じ……」
サクラの言葉に息を呑んだところでミナギが帰ってきた。そして僕たちのなんとも言えない空気感に一瞬言葉をつまらせる。
「…………どうした? なんかあったか?」
「ミナギ。あなた、何か知ってるの? この教会、特にこの部屋からは闇の魔力が強く感じられるの。こんな場所にあるはずないのに……」
すっとミナギの顔から笑顔が消える。
「……気づいたか。俺には分からなかったから大丈夫かとも思っていたが、やっぱり光の魔力を持ってると違うのかな」
「ミナギ、どういうことだ? 説明してくれ」
まるで闇の魔力があるのを肯定するかのような、さも当たり前のような言いぐさである。闇の魔力とはすなわち魔族。アナガリス教会は魔族と繋がりがあったということか?
「どうせ後々言わなきゃいけねえなと思っていたが、、まあ全部言う必要はないか。ひとまず、」
というとミナギは自分自身のステータスを僕たちに提示した。
そのステータスを見て、僕もサクラも絶句する。
だってありえない。何故こんなにも数値が高いのだ? 僕よりも桁が一つ違う。
「これでもまだまだ下の方なんだがな……。あいつら、俺よりも0一個多いし……」
「これは……どういう……」
僕は勇者であり、他の人たちよりも数値が高いし、上がるスピードもはやい。そして死ぬ気で努力してきてやっと千の位を越えた。が、同じ年齢でありながらレベルも、総合値に至ってはミナギは万を超えている。
「たぶん俺は一回死んだな。何度川をわたりそうになったか……。あれは普通耐えられん……。……まあそんなわけだ。俺にも色々事情があんだよ」
それってどういう……ときこうとしたが、そういえばと少し前のことを思い出す。
パーティーを組んでからはじめて魔族の討伐に出向いたときだった。
ミナギはずっと後援だけで決して直接魔族を相手にしない。ただ怖いのかとも思ったが、その顔には申し訳無さと何もできない不甲斐なさが滲み出ていた。あのときも表情は何だったのだろうか。
「ミナギ。どういうことよ。あなたは、アナガリス教会は魔族と繋がりがあるの?」
「……まだ、、いえねえ。レオン達は何も知らなさすぎる。お前たちはもっと他の視点から目を向けてみるべきだな。これは俺がどう言ったって今は変わんねえだろう。自分で考えて、答えを出さなければいけない」
そう言い残すと、パッとミナギの顔には笑顔が戻り、何事もなかったかのように飯飯ーと教皇を呼んでいる。
僕たちはただ、考えることしかできなかった。
◆◆◆
爺さんに会いに行ったのは都と連絡を取るためだった。俺が旅に出たこと、もしかすると魔王城まで行くかもしれないということ、そしてやっぱり勇者と聖女は怜央と桜子だったこと都に伝えた。
久しぶりの4人の声は懐かしく、少し嬉しい。
報告が終わり、部屋に戻ると何やら世界の終わりみたいな顔をした二人がじっと俺を見ている。
どうした? と思った矢先、サクラから予想外の言葉が発せられた。
ああ、そういえばそうだった、と。
レオンは何か感づいているようだがサクラはそうではないらしい。今は教えてもあまり意味がないように思えて、今回は俺のステータスを暴露することだけにした。
俺の総合値、レベルからしてもレオンとサクラのステータスは見ることができるけど、二人は俺のを見ようとしても俺が意図的に出さないと見れないはずだ。
はじめは酷く驚いており、レオンは何かを考えるような仕草をしている。人間にしては絶対高いほうだとは思うけどミア達にはかなわんな。前に見せてもらったけど一番低いヴィスタでも16万はあった。これは魔族と人間の違いもあるらしいけど伸びるスピードは一緒であることが発覚したため、アイツら全員努力の塊だと思う。
俺も一週間だけど死ぬ気で耐えたからな。それなりの結果は出ているだろう。
はあ、と一息つく。
また、あの四人の中に戻りたいなと思った。
ミナギはレオン達が嫌いなわけではありません。むしろ大好きです。ただ考え方の違いとかで少し思うことがあるみたいで今こうなってます。




