107 別に褒めてはいらない
「ここ?」
白い空間。ただ神界のようになにもないわけではない。たとえるなら、、神殿? 大昔のギリシャ神話に出てくるような場所である。こんなところ、ガリレイド国にあったっけ。
『わあ、懐かしい!!』
ウィスターがくるくると私の周りを飛んでいる。
「懐かしいって? ウィスターはここに来たことがあるの?」
私は絶対に来たことがないため、あるとすればアルタ様と一緒にいたときだろう。ということは、ここは……
『よくアルタと一緒に遊んでたときに来たなー。ここ、アルタの前のお家と近いんだ』
やっぱり天使界か。ここについてしまったということはあの子達も天使界にいるってことだ。急がないと。天使界はただでさえそこら中に光魔法の気配がするのだから耐性を持っていない、ましてや子供の体ではきついだろう。
「はっ!! トウカ、レーイン、ヴィスタ! 体大丈夫!?」
魔族にとってあまり心地の良い場所ではないということは例外なく3人にも当てはまる。私は光の魔力を持っているため耐性はあるが、3人はない。むしろ闇の魔力と反発して辛いはずだ。美凪はたぶん大丈夫。人間にとっては魔界も天使界も人間界もあんまり変わらないっていうのをどっかで聞いたことがあるような気がする。
「俺たちは……大丈夫だ。動くのに支障があるというわけではない。ただあまり心地の良いものではないのは確かだな。ウィスターの言ってたアルタっていうのは天使界創造神、アルタ様か?」
「うん。ウィスターはもともとアルタ様の所有物だったみたいだし。ここにも来たことがあるみたい」
「だったらここは天使界で間違いないな。ていうことは早くしてやらないと子どもたちの体力がどんどん削れていってしまう。俺たちでさえ少し違和感を感じるんだ。幼い体だとよけい辛いだろう」
トウカ達も同じ考えだったようだ。
魔力を感知した場所に転移だからきっとこのあたりのいるはずなんだけど……。しかしあたりを見渡してみても魔族どころか天使族も一人も見かけない。
もういっそも事一回この辺り一帯を破壊してしまおうかという思想にたどり着いた頃、少し離れたところで声がした。
「おい!! 誰だお前たちは!? ここで何をしている!!」
二人の天使。
ひとりは大柄で背中には4本の翼。真っ白の服を着ているが、鎧のような格好にも見える。明らかに戦闘用の服だ。
もうひとりはとても小さく、隣と頭3つ分くらい身長が違う。片方が大きすぎるというのもあるけれど、単にあの子が小さいだけだと思う。常に眠そうで、あとこちらも同じく背中には翼が4本はえていた。
「そうねえ。何をしていると思うかしら?」
少し挑発気味にレーインが後ろで煽った。なんだレーイン。ちょっと怒ってる?
「私達にわかるわけ無いだろう!! そもそも何故お前たちのような魔族がこんな場所にいる? ここはお前たちのような下賎な奴らが入ってきていい場所じゃないんだ!」
はん? 何だって? マジでムカつくんですが。
「なあ。あいつら殺ってきてもいいか?」
「いいよって言いたいところなんだけど、まだ下手に動かないほうがいいかも」
隣でチャキっという音がする。トウカが自分の刀に手をかけた音だった。こちらの殺気が先程よりも比にならないほど膨れ上がり、魔力なんてダダ漏れである。美凪に関しては味方にも関わらず私達の魔力に冷や汗を流していた。人間には……きついだろうな。私も耐性がなかったら絶対に脚がすくんでた。まだ立っていられるだけ美凪はすごい。
ビビっているのか、大きい方が少し怖気づいたように見えた。
「何でこんな場所にいるかって? 私も好きできているじゃない。理由はあなた達がよく知ってるんじゃない? もう茶番はいいでしょう。早く子供達を返して」
ピクッとふたりとも反応する。私の予想通りこいつらは子供達の居場所を知ってるんだ。
「はっ!! よくこの短時間でこれたな。そこは褒めてやろう」
「いや別に褒められたくないし」
ぼそりとヴィスタが呟く。確かに。
「だが相手が悪かったな! この俺に当たるとは。天使族幹部、ガルヴィン様が相手をしてやろう!!」
めちゃめちゃ雑魚キャラみたいなこと言ってるし。
ガルヴィンとかいうやつ幹部だったんだ。いやいや。魔族の幹部見習え? お前みたいなのいたら底辺の底辺だぞ? しかも今その情報いらないし。私は子供達はどこだって聞いたんだけど、その質問に答えてほしかったな。
「ミア。たぶん子供達はあの神殿みたいなところの中だ。あいつらはあの中から出てきた。それにあいつらがでてきたお陰でたぶん結界が薄れたのだろう。魔族の気配がする」
トウカがこそっと教えてくれる。確かに言われてみれば感じる。私も相当周りが見えてなかったみたいだ。
「だからまずレーインとヴィスタミナギが突破して魔族を救出しにいけ。生死が危うかったら助けることだけに専念してくれ。俺とミアであいつらの動きを止める」
「倒したほうがいいんじゃない?」
「いや、あんな事ほざいているが相手は天使族幹部だ。恐らく"武のガルヴィン"と"術のセシリア"だろう。あまりなめてかかってはこちらがやられる。俺たちの目的はあくまで拉致された魔族の救出。下手なことはしないほうがいい」
武のガルヴィン? 術のセシリア?
聞いたことのない名前が飛び交っているけどたぶんトウカが知っているということはそこそこ有名なのだろう。ここはあまり常識知らずの私が出るのは良くないと考え、トウカの言うとおりに動くことにした。




