105 回蘇
台風の被害は大丈夫でしょうか。
私のところは何事も無かったかのように今日がきました。
ヴィスタが最後の一枚に取り掛かったとき、私自身も始める準備をする。始める準備と言っても集中するだけだ。この集中が私にとってはとてもしんどいことなのだけれど。
「終わった」
ヴィスタの一言で皆一斉に動き始める。
先ずはヴィスタ、レーインと諸々共有するのだ。これはつい最近私が生み出した魔法で、闇の魔力を使ってすることができる。ただこれから大量の闇堕ちを治していくわけだから出来るだけ節約気味だ。
ヴィスタと意識を共有したことで6つの国の地図の情報が流れ込んできた。とても細かく、小さい村までもが描かれている。あまりの情報の多さに少し頭痛を覚えたが、これをあの短時間で覚えたヴィスタは何者なのだろうか。
この共有された情報を実際見るためにレーインの魔眼を借りる。私自身、魔眼が使えないことはないのだが5人の中では断トツでレーインの魔眼のほうが精度がいいのだ。それに闇魔法の節約にもなる。
ヴィスタの地図を照らし合せ、闇堕ちの居そうなところを一つずつ、丁寧に見ていく。
単体で発見することもあれば群れで見つけることもできた。数時間かけて6つの国を全て見終えた頃、トウカから闇の魔力をもらう。結構使ってたらしく一気に4分の3まで回復した。これだけあれば大丈夫だろう。
ただトウカのほぼ全ての魔力をごっそり持っていったらしく、トウカはふらふらになり美凪に支えられていた。後できちんと謝っておこう。
私の集中が切れる前に早く終わらせよう。
見つけた闇堕ちを一匹ずつ確認して魔法を展開する。
"回蘇"
途端に一本の光の線が私達の周辺を取り囲む。周りが綺麗と息を飲んだのもつかの間、その光の線は恐ろしいくらいの速さで各地へと細い線になって飛んでいった。
これで私が確認できた闇堕ちは全てもとに戻っただろう。ついでに転移魔法もかけておいた。戻った瞬間に魔界へ帰ったはずだ。
そして私は久しぶりに魔力枯渇で倒れ、4人に急いでホテルの中へと運ばれたのだった。後から知った話、美凪には光の線が見えなかったそうだ。トウカ達は見えたため、闇の魔力と光の魔力を持っていたものには見えたかもしれない。あくまで私の推測であるが。
それから数日後、いきなりだった。
「孤児院を中心に数百の魔族が攫われた!! 今すぐ応援を要請する!!」
久しぶりのゲルさんが目の前に立っていた。
◆◆◆
「………!!」
ガリレイド王国客間にて。
一人の天使が膝から崩れ落ちた。
(さっきの気配は何事ですか!? 光の魔力と闇の魔力の両方が感知されましたが……。それも少量ではなく、それこそ世界を覆うほどの魔力量……)
緊急だと判断し、急遽天使界へと戻る。
会議場には既に自分の他に3人の天使が揃っていた。
「アリエルよ、遅かったではないか」
「おい!! 今地上では何が起こってるんだ!? どういうことか早く説明しろ!!」
アリエルと呼ばれた天使が一つ空いている席へと座り、息を整えながら先程感じた事を話し始めた。
「皆様も感じられた通り、先程多量の魔力が全世界へと浸透していきました。それも光と闇、両方の魔力です。主に一人の魔力、それとかすかですが闇にもう一人の魔力が感じられました」
「闇と光は別人ではないのか!?」
「恐らくは」
なんていうことだ、というつぶやきが漏れる。
「闇魔法、光魔法、両方を操れる者がいるということか。……それは人間か? 天使か? 魔族か?」
落ち着いた声でゆっくりと諭すように一人が尋ねる。
「まだ詳しくはわかっていませんが、恐らく魔族かと。我々が放っていた闇堕ち状態である魔族がほぼ全て気配を消しておりました。人間、天使であるとするならばこの行為の意図が分かりませんが魔族なら納得できるかと」
アリエルの言葉に常に眠そうな天使がはじめて声を発する。
「ふわぁ。それじゃあ……人間界には闇堕ち状態の魔族がいなくなったってことだね。それじゃあ困るなぁ。まあ、そろそろ追加してもいい頃だと思ってたしねぇ」
「セシリアの言うとおりだ。そうだな……ガルヴィン、やり方はお前に任せる。今週中に魔界から数百ほど魔族をかき集めてこい」
「多少は乱暴してもいいと?」
「ああ、数が減らないのであれば構わない。一度天使界へ持ってこい。こちらで処置してから人間界へ落とす」
「仰せのままに、ミファエラ様」
「アリエルはまだガリレイド国に残っていろ。まだあの国は使えるかもしれないからな」
「承知いたしました」
「セシリアはガルヴィンの援護にいけ。ガルヴィン一人だと魔族数百は難しいだろう。お前も手伝うのだ」
「えー、ガルヴィンとぉー? どうせ命令だから逆らえないんだけど。ガルヴィンと僕は根本的なやり方が違うから絶対一緒にしないほうがいいと思うんだけど……」
各々自分の仕事を受け、外界へと降りていった。
4人でいてもとてつもなく広く感じる部屋に、先程命令を下していたミファエラが一人。軽く口角を上げながらこれからのことを考えていたのだった。




