103 モササウルスは脅威
「う、み、だーーー!!」
広い大地。心まで透き通っていくような青。優しく降り注ぐ陽の光。
海が私を呼んでいる!!
勢いで入水しようとすると、ローブを捕まれぐいっと首を引っ張られ、「ぐえっ」という変な声が出てしまった。
「何すんのよ、美凪」
「何すんのもこうもないだろ。大体ここの海は海水浴場でもなければ日本のように綺麗じゃないし危険だ」
え?? 確かに泳いでいる人は一人もいないし海水浴場ではないのは見て明らかだけど、日本のように綺麗ではなく危険というのはどういうことだ? だって明らかに透き通ってるしなんならこの距離で魚も見えるよ。それに危険とは。いやいや、海に危険は付きものだけれども今の私だよ? 溺れるとかいうヘマはしないぜ。
多少綺麗じゃないのは目をつぶるし溺れないから泳がせろと美凪に講義するとそういう問題じゃないと反論された。
「たぶん都は俺の言った"危険"を溺れるとかの水の事故だと思ってると思うけどそうじゃない。ここは身の危険があるんだって」
「身の危険?」
「……都なら余裕でぶっ倒せるかもしれないけど、人間には凶暴な相手になる奴らがいるんだよ。わかりやすく言うと……恐竜の海にいるやつみたいなのがうようよしてんだよ」
それはとてつもなく怖い。確かに人間には脅威でしかないな。
え、ちょっと待って? この海にはそんな出会ったら心臓止まりそうなやつがうようよいるの? お、泳がなくてよかった。仮に出くわしたら対応はできてもトラウマ並みである。
私達島国出身は海を見慣れているが、トウカ達はそうではない。3人とも物珍しそうに、大きさに圧倒されながら海を眺めていた。
「凄いわね……」
「これが海、、か」
「ここは何をする場所なの? こんなに広いと色々なことができるね。水があるから対水魔法の訓練でもするのかな」
……まあ独特な思考回路であるけれども。
でも確かに言われてみれば海ってなんのためにあるんだろうか。こっちの海は日本と同じなのか? 海を挟んで大陸があるとかじゃないし……。まだ見つかっていないだけかも。
ま、どっちでもいいか。
「それで? 美凪。お目当てのものはどこへ行ったらあるの?」
そう。今回の目的は海鮮である。決して闇堕ちを忘れているわけじゃないよ。
今は日も高くなってきて丁度お昼どきだろう。何がいいかなー。王道で海鮮丼もいいし、天ぷらも捨てがたい。お寿司もいいなー。こっちの世界でもお米はあったけどガリレイド国ではあまり出回ってなかったらないかな。
楽しく考えていると、隣で苦笑した美凪が「こっちだ」とおすすめの店へ案内してくれた。
注文を終えて三十分後料理が並びだす。
海鮮丼、お寿司、うな重、煮付け、天ぷら。
見慣れた料理が並んだのを見て私の心は踊る。トウカ達は初めて見たみたいで物珍しそうに並んだ料理を見ていた。
「美凪!! お寿司!!」
「そういえば都って寿司が好きだったっけ」
「寿司というよりも魚が好き」
待ち切れずにいただきますと胸の前で手を合わせ、鯛らしきお寿司からいただく。
「───っ!!」
これは……鯛ではないけれどまた違った美味しさ。白身魚特有の味は残しつつトロのような風味もある。
とっても美味しい。
私の表情を見たからかこれは何だという顔で見ていたトウカ達も恐る恐るといったように魚料理たちに手を付け始めた。口に入れた瞬間ぱあっと表情が明るくなったことがうかがえる。
そこから一人3人前くらいは食べたね。
そして私達は気が済むまで料理を堪能したのだった。
◇◇◇
「向こうに海鮮パエリアがあるみたいだから美凪と行ってくるねー」
日が傾き始めた頃。宿も取れて街をぶらぶらしていたところ、海鮮パエリアという大きな看板が見えた。さっき夜ご飯食べたけどこれは食べるしかないと思うじゃん。
まだ食べるのかよと横でぼそぼそ言われながら美凪を連れて目的地へと向かった。
久しぶりの海風が心地よいなと感じていた頃、違和感が体中を走った。美凪は気づいていない。人間だけど少し違う。
違和感の正体の出処を探って見る。するとあっけなく見つかった。
数メートル先で楽しそうに動いている人影が2つ。どちらにも隠密魔法がかけられていて通常の人ならば姿を認識することができない。その上その2人には邪魔にならないような場所で護衛をしているものが数名。その2人が高貴な身分であることは見た瞬間にわかった。しかしそれだけじゃない。このオーラは……。
「なるほど」
すべてわかった。なるほどね。
私の思わず出てしまった言葉に美凪が反応する。
「急にどうした」
「美凪の予想は当たってたみたいよ」
彼自身はなんのことか分からなかったようだが時期に分かるだろう。それよりも今は海鮮パエリアのほうが優先順位高めである。だって彼らにはこれから必ず合う機会があるのだから。
「はやくいこう!」
美凪の手を引っ張る。少し強い風が吹いた。
私達は別々の方向へと歩いていった。




