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妖怪の世界へ潜入任務(仮題)  作者: 紅茶(牛乳味)
4/7

4話

「失礼します」

 コンコンとノックをしてから扉を開く。そこに待っていたのは、女性だった。

「よく来たのお、二月照光」

「どうも」

 金色の髪の毛をツインテールにしている小柄な女性。目じりが垂れているのも相まって穏やかな雰囲気を持っている人だ。赤い着物に身を包んでいて、首元の宝石は紫色に輝いている。

「ええっと。俺はなんでここに呼ばれたんですかね?」

「それはお主が遅刻したからじゃ」

「え、でもほかにも遅刻した人は「『人間』が遅刻したから言っているのじゃ」

「......遅刻ってそんなにまずいんですか?」

 確かに時間を守らない人間は信頼も失くすけれど、いきなり異界に連れてこられたのだ、今回は勘弁していただきたい。

「違う違う、そうではない」

 そんな風に心の中で言い訳をしていると、苦笑いしながら手を振って否定する女性。良く分からない。俺が首を傾げていると、女性も首を傾げる。

「む、この学校に入学した目的をタイトから聞かなかったのか?」

「目的は確か潜入で......って、タイトのことを知っているんですか?」

「もちろんじゃ。わしの夫じゃからのお。ほれタイト、出てこんか」

 女性が俺のカバンを掴んでジッパーを開いて、木彫りの熊を引っ張り出す。

「やめんか!」

「いいじゃろうて。ほれほれ。ん~~!」

 女性がタイトに頬ずりをしたかと思えば、キスをしだす。な、なんだこの状況。

 あ、もしかして俺が理事長室に呼ばれた理由って、夫であるタイトに会いたかったからなのかな? いやでも遅刻したのが理由って言ってたし......。というか、そもそもタイトを俺が連れていることを知っているのって......。

「ふむふむ、悩んでいるようじゃのう」

「ちょっと理解し難いことが多くて。えっと、何から聞こうか......」

「あー、よいよい。わしが説明してやろう」

 タイトを抱えたまま、理事長室においてあるソファに座る女性。そのまま俺に対面に座るよう促してくる。

 当然それに逆らわずにソファに座る俺。ようやく俺がここに来た理由が分かるんだ。そう思うと、少しドキドキしてくる。

「さて、もう話すことは決まっておる。そなたがここに来た理由じゃ」

 早速本題だ。ごくりと息を呑んで女性の言葉の続きを待つ。

「自己紹介がまだじゃったの。ここ妖怪学校『奇々怪々』の理事長を務めているマヒロじゃ」

「あ、どうも。二月照光です」

 若干出鼻をくじかれた気がしないでもないけれど、今は話に集中しよう。

「まず、この学校には代々伝わる宝玉がある」

「宝玉?」

 それが俺となんの関係があるのだろうか。そういえば俺がここに来た理由は潜入だと言っていた。ひょっとして、それを盗んで来いとか?

 そう考えてマヒロさんに尋ねてみると、苦笑いが返ってくる。どうやら違ったようだ。

「人間のくせに荒々しい思考をするのう。そうではない」

 一旦咳ばらいをして話の続きを始めるマヒロさん。

「その宝玉の中にはの、悪い神様が眠っているんじゃ」

「封印されているっていうことですか?」

「まあそういうことじゃ」

 これはまた漫画やアニメのような展開だ。ということは、その封印が解けそうになっていたり?

 その考えをぶつけるが、マヒロさんは再び首を振る。

「なんじゃ、人間というのは世界を危機に陥れたいのか?」

「いや、そういうわけじゃないですけれど」

 そのくらいしか考えつかないというのが正直な感想。だって、わざわざ人間を異界に飛ばしたんだぜ? なにかとんでもないことが起きていると考えるのが筋なはず。

 そんな俺の心情を察したのか、マヒロさんが俺のことをたしなめながら話を続ける。

「まあ落ち着け。その宝玉は悪い妖怪に狙われている。なので、その妖怪よりも早く宝玉を手に入れてほしいということじゃ」

「って言われても。そういう悪い妖怪に取らせないようにすればいいじゃないですか」

 それが一番安全で確実な策だと思うけれど。

「そうしたいのは山々なんじゃが。その宝玉を手に入れるためには二つの条件が必要なんじゃよ」

 そう言ってこちらに人差し指と中指を立ててその条件を話すマヒロさん。

「一つは、妖怪学校に通っているということ。学生でない者はその祠に足を踏み入れることができんようになっている。そしてもう一つは、宝石が紫色に輝いているということ。そうでない者は宝玉に弾かれる」

 一つ目の条件は分かった。繰り返すようだけれど、純粋に学生であればいいということだけだ。若い妖怪しか入れない場所ということなのだろう。

 ただ、もう一つの条件が分からない。宝石の色?

「それじゃよそれ。その首元についているものじゃ」

 マヒロさんが示したのは、俺の首元についている白い宝石。そういえばこれ、なんなのだろうか。

「それは妖怪の『ヤバさ』を示したものじゃな。本人がヤバくなるにつれて色が変わっていく」

「『ヤバさ』?」

 これまた曖昧で良く分からない指標だ。もう少し詳しく話してもらわないと。

「えっと。それじゃあ俺が今から裸で叫びまわりながら学校中を全力疾走すれば色が変わるんですか?」

「そういうことではない。......もしや、人間というのはみなそういう考えなのか?」

 不安そうにこちらを見てくるマヒロさん。いや、そういう考えというか。

「ヤバさって良く分からない単位ですよ。具体的にどういう指標なんですか?」

「分かりやすいように言ったつもりじゃがのう。言い換えれば、そいつの『脅威度』じゃ」

「脅威度の方が分かりやすいですよ」

 まあ直感的にはヤバさの方が分かりやすいのかもしれないけれど。曖昧な言葉よりも脅威度の方が言いたいことが明確に伝わる。

「まあ具体的に言えば、そいつが暴れた時にどれだけの被害が出るかという感じじゃ」

「ふーむ。分かるような分からないような」

「何がじゃ?」

 俺が脅威度という言葉を理解しきれていないのが不思議なのだろう、首を傾げながら尋ねてくる。

 もちろん、俺だってただ屁理屈をこねようとしているわけではない。ただ、『本業』のせいか、そういう細かいことに目が行ってしまうのだ。

「例えば、俺が火を吹けるとします」

「ふむ」

「ただ、妖怪というからには俺以外も火を吹けるわけじゃないですか?」

「まあまれに吹けないのもいるがの」

「それじゃあもっと火力が増えたとします。でも、さらに上は絶対にいます......ようは、どんどんヤバくなろうが、限界があって、上にいる妖怪がすぐに抑え込んでしまう。どれだけ強くなろうが被害なんか出せないんじゃないかっていう話です」

「かっかっか、そういうことか」

 軽快に笑いながらとんでもないことを言う。

「限界はない。宝石の色は他人からの評価ではないからじゃ」

「......というと?」

「成績表はお主らの世界にもあるじゃろ? あれは教師が生徒を見て評価するというものじゃ。ただ、宝石はその者の本質を見ておる」

「そうは言っても、色で分けていますよね? 紫色が最大だとしたら、そこまでたどり着いた妖怪みんな同じってことに」

「今までに紫色に輝いた宝石は現れたことがない。それ以上になったら宝石が壊れると伝えられておる」

 ふーむ、限界はないようなあるような......?

「それに、強くなればなるほど、そこまで強い妖怪は少なくなる。いつ何時でも強い妖怪が見張っているわけでもないしの。被害は出そうと思えば出せるというわけじゃ」

「なるほど......」

 とりあえずは納得した。これ以上詮索する必要はないだろう。

「さて、それではお主は自分のクラスへ向かえ。ああ、タイトを連れていくのを忘れるなよ?」

「え? まだ分からないことがいくつか」

「それはその時々にタイトに聞けばよい。ほれ、行った行った」

 立ち上がって、俺を理事長室から外に出るよう急かすマヒロさん。こんなことで大丈夫かなあ。

 不安な気持ちのままタイトと一緒に廊下に放り出される。まあ悩んでいてもしょうがないか。とりあえずクラス分けの掲示を見に行こう。

「そういえば忘れておった。ほれ」

 早速足を動かそうとすると、理事長室からひょっこり現れて何かを手渡してくる。手渡してきたものは黒い球がいくつも連なって輪っかになっている、って遠回しに言ったけれど、要は数珠だ。

「えっと、これは?」

「見ての通り数珠じゃが、そういうことを言いたいんではないんじゃろ?」

 もちろん。ここに来てただ数珠を渡すわけがないのは分かっている。何か特別な力があるのだろう。

「それは『妖力』の塊じゃよ。妖力とは妖術を使うために必要な力。まあ簡単に言えば電力みたいなものじゃ。電力がないと電化製品は動かないじゃろ? それと同じことじゃ。それを手首に着けておけば妖怪と同じように妖術が使える。授業でも妖術は扱うしのう、人間とバレないためにはかなり重要な道具じゃ」

「そんな大切なもの渡し忘れないでください」

 はあ、とため息を吐きながら数珠を手首に巻く。特にきつくもなく緩くもなく、ちょうどいい感じだ。これで妖術が使えるようになったのか。あんまり何かが変わったっていう実感はないけれど。

「それじゃあ今度こそ行ってくるのじゃ」

「はーい」

 マヒロさんに見送られながら改めて理事長室を後にする。

 ......ん? 理事長室から大分離れた時にふと疑問が頭に浮かんで、タイトに尋ねる。

「タイト」

『なんじゃ』

「もし俺が人間ってことがバレたらどうなるの?」

『十中八九食われる。味が美味とかではなく、人間の血肉は妖怪としての力を一気に上げるからのう』

「......」

 聞かなかったことにしよう。俺は無心で足を動かし続ける。

『安心しろ。味とか関係ないと言ったが、人間は美味らしいぞ』

「それでどう安心すればいいんだよ」

 気休めにならないタイトのフォローにただただため息を吐くのだった。


忘れちゃいけない現実。

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