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妖怪の世界へ潜入任務(仮題)  作者: 紅茶(牛乳味)
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第2話

「妖術、『変化』」

 その声で目を覚ます。こ、ここは? 井戸の中に落ちたのははっきりと覚えているけれど......。

「起きたか照光」

 地面に寝転んでいる俺の首元で何かをしていたタイトが移動して、俺の顔にどっかりと鎮座する。いや、乗らないで欲しいんだけど。

「タイト。何が起きているの?」

 顔からタイトをどかして、寝転んでいた体を起こす。相変わらず真っ赤な空と黒い雲が頭上に広がっている。そして周りの景色はというと、草原が広がっていて、草原を囲むように森が茂っている。いくら見回しても俺の家はどこにもなく、遠くに大きな建物が見える。

「ふむ、色々説明をしようかの。まず、そこに落ちているカバンが大事じゃ。わしは基本的にその中にーーー「君、何をしている」

 ハルを咥えながら仁王立ちしているタイトが説明をしていると、声を掛けられる。俺もタイトも同時に体を跳ねさせる。

 声をかけてきたのは、和服に身を包んだ男の人だ。高い身長と短い青髪が特徴的。腰には棒状の物を提げている。多分、刀かな?

 俺が何か答えようとする前に、タイトの声が頭に響く。

『今は登校途中だとでも言ってごまかすのじゃ』

 そんなことタイトが言えばいいのに、俺の体を影にしてこの人から身を隠している。なにやら事情がありそうだ。

 とにかく、あんまり間をおいてしまうと怪しまれる。タイトのように頭の中から直接返事もできないので、ここは言われた通りに返事しよう。

「今は奇々怪々に登校しているところです。ただ、家から結構離れているので少し休んでいます」

 一先ずそう返事をすると、男性は呆れたようにため息を吐く。

「毎日通うのだろう? 初日からこれでは先が思いやられるな」

「す、すみません」

「休憩は終わりにして登校しろ。まったく......」

 怒りながら男性はどこかへと歩いていく。俺はその背中を見守りながらカバンを手に立ち上がって、とりあえず歩き始める。目指す場所は、遠くに見える大きな建物だ。

 数歩進んだところで、カバンの中からひょっこりと顔を出すタイト。

「ふう。カバンの中というのは意外と狭いのお」

「意外でもなんでもないけど。それより、そろそろ説明してよ」

 まだ話は始まったばかり。このカバンがタイトのいる場所だということ以外何も聞けていない。そろそろ自分の置かれている状況を認識したい。

「ゴホン。一つ一つ説明していくぞ。ここから学校までは相当な距離があるので説明しきれるはずじゃ」

「早速お願いするよ」

「まず、ここは妖怪が住んでいる世界、『異界』なのじゃ」

「それはまあ、納得だよ」

 この赤い空がなによりの証拠だ。俺がいた世界とは異なる、まさに『異界』であるということは疑いようもない。

「そしておぬしはこの世界であることをしてもらう」

「あること? 妖怪学校の卒業じゃないの?」

 入学する目的と言えば卒業と考えるのは不自然だろうか? 他に理由があるなら......

「.......潜入、とか?」

「まああながち間違ってはいないのお」

「当たっちゃったよ」

 はあ、とため息を吐く。そんな俺を見逃さないタイト。

「なんじゃ、面倒くさいからってため息など」

「いや、面倒くさいっていうかなんていうか」

 ちょっと楽しみにしていたんだけどな、学校に通うの。まあいいや、とりあえず理想の一人暮らしを楽しむためにさっさと潜入を頑張ろう。

「それで、目標は?」

 まるで手練れのスパイのようにタイトに尋ねる。なんだかんだ、楽しみにしている自分がいる。

 こんなにワクワクしていたら少し気持ち悪いかな? いや、入学前にワクワクするなんて別に不思議なことじゃないよな、うん。

「なんじゃ、気持ち悪いのお」

「......」

 ストレートなタイトからの感想に言い返すこともできない。やばい、成人したのに泣いちゃいそう。

「い、いいから目的を教えてくれよ!」

 恥ずかしさと悲しさを振り払うように大きな声でタイトに尋ねる。すると、木陰からガサガサっと音がする。

「「!」」

 再び体を弾ませて、音がした方へ振り替える。すると、そこから一匹の黒い猫が飛び出してきた。

「な、なんだ、動物か。タイト、ただの猫『今はわしに話しかけるな!』

 キーンと脳が震えるほどの音量で頭に直接言葉を叩き込んでくるタイト。く、クラクラする......。

 反射的に耳を抑えてその場で屈むと、猫がこちらにやってきてかかんだ俺の足首に猫が頭を擦りつけてくる。かわいいなあ。

「にゃあ」

「おー、よしよし」

 しばらく撫でていると、猫が俺から離れて歩き出す。それにつられて俺の足が猫と同じ方向に動き出す。

『こら、照光!』

 頭の中では相変わらずタイトが呼び止めているけれど、それよりもこの黒猫についていく方が大事な気がして、ふらふらと歩いていく。登校する道からは外れているというのに。

『止まらんか!』

 ガサガサと小道から外れて草原へ、草原から森の中へと導かれていく。どんどん奥深くへと誘い込まれて行って......

『あまり使いたくはなかったが、仕方があるまい......『解呪』!』

 一瞬目の前が真っ暗になって、体に一気に重力がかかる。そして、ハッとする。

「あれ、ここどこだ?」

 そこは大分深い森の奥。周りを見回しても歩いていた小道は見当たらない。代わりに存在するのはロッジ、というのだろうか。大分年季が入っていて建材の木は痛んでいる......ように見える。何分、建築には詳しくないので良く分からないけれど。

『ようやく気が付いたか馬鹿者!』

 変な場所に連れてこられたと思ったらいきなりタイトから怒られる。な、なにがなんだか......。

『まだあれは渡せていないし、どう切り抜けようかのぉ......』

 なにやら悩んでいるタイト。切り抜けるも何も今は危険な状況でもないのでは? 呑気に考えながらとりあえず来た道を戻ろうとすると、ロッジの扉が開かれる。

「あなた、相当な手練れのようですね」

 現れたのは、短い黒髪の女性。背は高くないけれど、スタイルが良いことがはっきり分かる。なにより特徴的なのは吊り上がった目じりと真ん丸く大きな瞳。猫目というのだろうか、非常に印象的だ。

「て、手練れ?」

 俺が戸惑っていると、女性がこちらに歩いてきて、俺の首元に手を伸ばしてくる。

「あら、そういうわけではないんですか? ......確かに宝石もまだ白色。買いかぶってしまったようですね」

 そういわれて初めて気が付く。そういえば、俺の服が変わっている。着ていたはずのシャツとジーンズが黒を基調とした制服に変わっている。学ランにかなり近いのだけれど、ボタンが違ったり黒い制服に赤いラインが入っているというのも違う点。

 あと一つ気になるのが今女の人に触られているもの。首元の宝石だ。俺の宝石はどうやら白色のようだが、女性が付けている宝石は緑色に光っている。男女で色を分けているのかな?

『おい、ボーっとしとる場合か! 早く逃げんと「まあいいです。あなたも私のものにしちゃいますね」

 白く細い指がつーっと俺の首筋を指でなぞる。もしかしてこのままこの人に魅了されちゃったり......。


第一妖怪発見......?

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