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図形

作者: プラスイチナノ

「お前は好きな図形とかあるのかよお」5分休みの間に京本がたずねてくる。「おいお前だよ、お前。串田! お前のことを言ってんだよ。だからお前はよお、好きな図形とかあんのかってきーてんだよ」

 酔っ払いかと思う。まだ我々は中学生のはずだが、京本の今日のしゃべり方はあきらかに酔っぱらっている人と同じものを感じる。

 もしかしたら彼は学校という場所で、しかもさっきの国語の授業中という時間で飲酒を行ったのかもしれない。

 疑わしい点はまだある。

「お前の好きな図形は何なんだよ」

 こんな質問を唐突にされたことがあるだろうか。あなたはこのような質問をクラスメイトからされた経験がおありですか?

 僕は初めてである。

 意味のわからない質問である。そんな質問をして一体京本は僕の何を知りたがっているのか。そんなことを知って何に生かそうというのか。

 疑問の残る疑問である。

 しかししばらく考え込んで黙っていると、京本はさらに近寄ってきて質問を浴びせかけてくる。

「お前まさか自分の好きな図形がないってんじゃないだろーな。その歳で好きな図形の一つもないなんてありえねーんだからな」

 僕はそのときピンときた。

「わかったぞ、好きな図形とは隠語なんだ。お前に好きな子はいるのか、そしているとしたらそれは誰なんだ、ということを彼は僕に聞いているんだな」

 これならば納得が行くのである。お互い中学生同士だし、中学生ならば好きな子がいて、かつその好きな子の話を休み時間の間にするというのもよくある話だろう。

 僕は京本になんと言ってやろうか考え始める。

 するとまた京本が言う。「うわお前マジで好きな図形ないのかよ。お前そんな好きな図形ぐらいあるだろ。俺はお前、好きな図形のない中学生なんてこの世にいるとは思えないぜ」

 何が、思えないぜ、だこの早とちり野郎。

 僕はもうお前の質問の意図はわかってるんだ。お前は僕の好きな子の名前を知りたいんだろう?

 どうしてそんなことを急に知りたがっているのかはわからないけれども、でも答えられないことはないとも。

 答えられないことはないとも!

 僕にだって好きな子くらいはいるのさ。好きな子のことを考えて、毎日登校したり、それから授業中でもその子の方をちらりと見たりすることがあるんだ。

 ただ問題は複数いるんだ。

 なあ京本よ、僕はこう見えて案外面食いなんだぜ。

 京本が言う。「俺はこう見えてけっこう円が好きなんだぜ。三角形よりも長方形よりも全然円の方がいいね。円を見ているとなんだか心が落ち着くんだよ。もちろん円の面積を求めるのは小学校のころから大好きさ」そして彼は続けて「なあ串田よ、串田! 俺は本当はお前ともっと話したかったんだぜ? お前とはもっといろんな話をしてみたかったよ。でもお前ってさ、クラスの誰とも話さないじゃん。こうやって酔っ払いみたいな絡み方をしても全然ツッコんでこないじゃん? もしかしたら無類のお笑い好きかと思ったのにそれも違うのかよ。まあいいよ。でも俺がお前と話したかったのは本当なんだぜ。っていうかほかのクラスメイトたちもみんなお前とはもっと話したかったって思ってるんだぜ。もう卒業だからさあ、時間はなくなっちゃったけど、でも高校とかに行ったら、もっと気軽に周りのみんなと話してくれよな」

 それから京本は確かな足取りできびすを返した。彼は僕の席から離れて行った。

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