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いつか神を殺すまで  作者: 宮浦 玖
第四章「退魔の『協会』」
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第三話 『蒐集家』のおたから


「で……ここがあのコレクター女の言ってた場所?」

「手紙に書いてた住所的にはここだな」

「トランクルーム、というやつでしょうか」


 目的の住所にたどり着いた三人の前にあったのは真四角で飾り気の無い二階建ての建物。ためしにその建物のガラス扉に書いてある名前を検索してみると、倉庫として部屋を貸してくれるサービスを行っている建物らしかった。


「在原さんの手紙と一緒に入ってたカードも、ここの会員証みたいだから、とりあえず行って見るか」


 三人は恐る恐る自動ドアを潜り抜け、退屈そうに座っている警備員兼受付職員らしき男性にプラ製の会員証を提示すると、明らかに本人でないにもかかわらずあっさりと棚から取り出されたA-〇七と部屋番の書かれた鍵を手渡された。


「なんかマフィア映画で見る、秘密の裏取引をしている気分になってきた」

「在原様は協会に追われていた第一級の悪魔犯罪者ですから、あながちその比喩ひゆも間違いではないかもしれませんね」


 などと言いながら、三人は鍵が提示する部屋にたどり着く。


「直樹様、万が一のこともありますので、開錠は私が」

「セエレってホント直樹に過保護だね」

「ならお前が開けろ」

「えぇ?!」


 和道から受け取った鍵を即座にラウムに向かって投げつけ、セエレは顎で扉を指す。


「相変わらず私にだけ態度がデカいな……覚えてやがれセエレ」


 しかしここで文句を言っても仕方ない。何より、ラウムにとっても契約者を助け出すためにはわずかな可能性にも賭けなければならない現状、いくら在原恵令奈に好意的な感情を持っていないとしても開けないという選択肢はない。


「ああ、もうわかったよ。せーのっ、セイヤー!」


 ヤケクソ気味な掛け声とともに、扉は開け放たれ、ラウムはその扉の奥を目視するより先に、その強烈な匂いを感じ取り思わず鼻をつまむ。もっとも、その匂いは鼻腔びくうをくすぐる現実の匂いではなく、もっと根源的なところで感知する『魔力』の匂いなのだが。


「うわぁ……なに、コレ」

「コレを予想していなかった、というわけではありませんが……これほどとは」


 悪魔達はわずかに注意しながらトランクルームの中へと足を踏み入れるが、その目線は室内に整然と配置された棚に並んだ品々に向けられ、感嘆と畏怖の入り混じった声を上げる。


「おいおい、二人とも電気くらい先につけろよ」


 二人から一歩遅れて室内に入った和道はパチンと照明のスイッチを入れて、鮮明となった室内を目視する。


「倉庫っていうか、展示しているみたいだな」


 そこにあったのは、タブレットパソコン、弓道用の弓矢、香水のような色付きのガラス瓶に入った液体など、何の共通点も関連性も見いだせないような大小様々な小物達。在原の性格なのか、それらは一つ一つ等間隔に、見栄えの良い配置で金属製のラックの上に並べられていた。


「それで、結局何なんだよコレ?」

「何って、アイツのコレクションだよ……紗々のやつ、何が「協会が確認しているのは四つです」よ……その四、五倍はあるじゃん」

「在原さんのコレクション、ってことは、まさか!」


 ラウムの言葉を受けて、和道もようやくここに並べられている共通点の無い品々の正体に感づく。


「はい、ここに置かれているものは全て、悪魔の魔力と異能を宿した魔道具です」


 セエレのわずかに震えを帯びたその声で、和道はようやく自分が在原恵令奈からとんでもない物を託されたのだと気づいた。


「なるほど、私達と戦った時に使ってた結界の魔道具で匂いを隠して、一般人の立ち入りも制限してるってわけね。入るまで気づかないわけだ」


 ラウムは部屋十畳ほどの部屋の八方に突き立てられた杭を目視で確認しながら呆れと感嘆の混ざった声を漏らす。


「直樹様、こちらを」


 セエレは室内にあった唯一のハイテク機器であったタブレットパソコンの電源を入れ、その中身を確認し、和道を呼び寄せて画面を見せる。


「どうやら、在原様はこの部屋の内装が示すようにかなり几帳面な性格だったようですね。魔道具についても契約した悪魔、使用回数、効果、手に入れた日付などが事細かにこちらで記録されております」

「じゃあ、その中から神崎の居場所がわかりそうな魔道具を探せばいいわけだな!」


 これほどの数の魔道具ならば、と希望を胸に三人は在原の魔道具倉庫の捜索を開始した。


「セエレ。この方位磁石は深夜を探すのに使えそうじゃない?」

「それはフルフルの魔道具だ。効果は……物理的な衝撃に比例して放電すると書いてあるな」

「危なっ! っていうか方位磁石と放電って全く関係ないじゃん!」

「この飲み薬は……神崎を探すのには、使えなさそうだな」

「それはアロケルのものですね。異能は『筋力増強』……飲むことで筋肉組織を増殖させることが可能だそうです」

「マッチョになれる薬か……ちょっと欲しいな」

「直樹様は私との契約がありますので、魔力抵抗で飲んでも毒にしかなりませんよ?」

「うん。やっぱりドーピングはダメだな」


 和道は茶色い密閉便に収められた魔力薬を棚に戻し、改めて倉庫内の魔道具達を見渡した。


「なんていうか、悪魔の力でもなかなか簡単に話は進まないもんだな」

「そうですね、現にここにある魔道具では在原様は御父上の傷を治せなかったわけですから……あ、ラウム! 奥の棚にある方眼用紙を持ってこい」

「え? コレ? 何も書いてないけど……」


 タブレットで一つ一つ魔道具の持つ異能について確認していたセエレの指示を受け、ラウムが持ってきたのは緑色のマス目が描かれた製図用紙と呼ばれる紙。


「ラウム、その用紙に魔力を込めてみろ」

「おっけ、オッケー! ……っと。およ? なんか一気にインクが浮かんできたんだけど!」

「すっげぇ、魔法の地図みたいだな」

「みたいも何も魔道具だから、本当に魔法の地図だよ」


 三人の中心でラウムの指先から魔力を注がれた方眼用紙はまさに魔法の如く彼女の触れた部分を中心に黒いインクが広がっていき、一つの図形をその用紙の中に描き出した。


「これ、このあたりの地図……だな」


 和道はその図形に見覚えがあったのか、ポケットからスマホを取り出し、つい先ほどまでナビ代わりに見ていた地図アプリを開き、方眼用紙の隣に置く。彼の言う通り、二つの図形は完全に一致していた。


「これは込められた魔力を記憶し、その現在地を表示し続けるという魔道具だそうです。在原様は当初、これを魔道具探しに利用しようとしていたそうですが……」

「いやいや、私の現在地がわかっても仕方ないじゃん……」

「というように『既に手元にある魔力』しか探せないということで早々に利用を諦めたそうです。ですが……」


 地図の中心には黒いインクの染みのようなものが表示されており、おそらくこれがラウムを表しているのだろう。だが、同時にもう一つ、中心にある物よりは濃度が薄いが、明らかに何かを示しているであろう点が地図の端に存在した。


「神崎様はラウムとの契約により魔力のパスが繋がっています。つまり、微弱ではありますが、神崎様からはラウムの魔力が検出されるはず」

「ってことは……ここが神崎の居場所か!」


 三人はすぐさま、紙面上でか弱く明滅する灰色の点に視線を集中させる。


「はい、おそらく」

「距離的に……都内か。すぐにでも行けそうだな!」

「場所さえわかればこっちのもんよ! 待っててね、深夜!」


 ついに深夜の囚われているであろう協会の本部の場所を探り当てた三人は、すぐさま救助のための準備に取り掛かる。そして、幸いにもここには有用な道具は無数にあった。


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