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いつか神を殺すまで  作者: 宮浦 玖
第一章 「15秒と破壊者」
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第六話 調査開始


 朝の通学路は昨夜と違ってそれなりに人通りがあったためか、登校中に再び襲われるなどということはなく。深夜は無事、始業時間ギリギリに教室のドアをくぐることができた。

 たてつけの悪い引き戸がガラガラと音をたて、それにつられて教室にいた生徒達の視線が入口に立つ深夜へと一斉に向けられる。

 しかし、あくまでも深夜に投げつけられるのはぶしつけな視線だけで、何かしらの声がかけられるというわけではない。


「……」


 深夜も深夜でクラスメイトに朝の挨拶をするわけでもなく、眠そうな半目を維持してふらふらと自らの座席に歩み寄る。

 しかし、深夜が席に着くや否やそんな空気をぶち壊すように、身長百八十に届くかという高身長の男子生徒が、深夜の首に腕を回してゆるく拘束してきた。


「神崎、いきなりだがお前に話がある!」

「やだ、面倒くさい」

「面倒くさいじゃねぇよ! こっちにはお前が今朝、謎の金髪美女と一緒に歩いて登校していた、という情報が届いているんだ。お前にそんな知り合いがいたなんて初耳なんだが、どういうことだ説明しろ!」

「やっぱりその話じゃん……」


 深いため息と共に深夜の両肩が限界まで落ちる。

 ささやかな抵抗として自身を問い詰める級友、和道わどう直樹なおきにらみつけてみるが、普段から半目で目つきが悪いことも相まって特に効果はなかった。


 そもそも深夜は筋肉のキの字もなさそうな痩せ型体型。

 そんな彼が、一目で体育会系とわかるような引き締まった体を持つ和道を睨み付けたところで、威圧感など出るわけがない。


「それでその金髪美人っていうのは何者で、お前とどういう関係なんだ? ほら、ネタは上がってんだ。大人しく吐いて楽になっちまえよ」

「なんでそんな一昔前の取り調べみたいな……っていうか、和道はその話をいったい誰から聞いたのさ?」


 そんな見るからに対極にありそうな外見の二人。

 しかし、これでいて和道は深夜にとっては数少ない……というか、灯里を唯一の異性の友人とするなら彼は同性で唯一の友人だ。

 そして、同時に彼もまた灯里と同じく、深夜が家族以外に左眼の秘密を共有している相手でもある。


「誰からっていうか、あの美人は誰だ、って学校中で噂だぜ」

「うわぁ……面倒くさいことになってる……」


 友人の口から放たれた残酷な一言に深夜は思わず天を仰いだ。

 深夜は通学にあたって雪代に対し、護衛をするにしても離れて歩いてくれと頼んでいたのだが、彼女は頑としてそれを聞き入れてはくれなかった。

 そして、彼女は家を出てから校門に到着するまでずっと、深夜の背後一メートルの距離を維持し続けたのだ。


 その結果、当然の帰結として、雪代は目立った。


 何しろ服装は露骨に不審者、そのくせ顔立ちとスタイルはモデルかタレントかというほどに整っているのだから、彼女はとにかく目立つ。

 通学途中近くにいた黒陽高校の生徒は、例外なく雪代の方を見ていたのではないかというほど、雪代紗々は目立っていた。


「確認だけどさ、今日は妙にクラスメイトからの視線を感じるのは……」

「みんな気になるだろ。普段は恋愛とか興味ありません、って顔してるお前がいきなり、美女と並んで登校してきた、なんて聞いたら」

「クラスでの俺の扱いってそんな感じなの……?」

「神崎、四月はずっと休んでたからな、実は知名度は高い」

「まったく嬉しくなんだけど」


 自分のクラス内での立ち位置を意外な形で知らされ、深夜はさらにうなだれる。


――こんなのでまともに俺を襲った悪魔憑きを探せるのかな――


「それで、結局その金髪美女とお前はどういう関係なんだよ。ホラ、白状すれば楽になるぞ」

「ええと、あー……アイツは……従姉妹」

「…………お前さぁ」


 あまりにお粗末なうそだ。

 これには流石の和道も呆れた様子を見せるが、彼はすぐに諦めたように頭をガシガシと掻き、深夜の拘束を解いて一歩離れる。


「隠す気なら、せめてもう少しマシな嘘を考えておけっての」

「だって、嘘って結局どこかで絶対に矛盾が出るから苦手なんだよ。それに本気で人をだます時は、本当のことしか言わない方がいい、らしいよ?」

「じゃあ、従姉妹ってのは本当なのかよ?」

「いや、嘘だけど。いてっ」


 和道のチョップが深夜の額を直撃する。力はほとんど入っていなかったが、昨日のタンコブに直撃したので深夜は苦痛に悶えて頭を押さえた。

 本気で騙すつもりではないから正直に嘘だと申告したというのに、と深夜は再び和道を睨んで非難の視線を向ける。もちろん効果は無い。


「すぐそうやって煙に巻く。トンネル事故の時といい、話したくないなら面倒くさいとか言わずに素直にそう言えっての」

「……悪いね。色々と事情もあってさ」


 しかしそれでも、和道はなんだかんだと言いながら、話をはぐらかし続けていればこちらの事情を察して引いてくれる。

 そんな彼の人の良さに甘えてしまうのは、できるだけ友人を騙したくはない、という深夜のエゴだという自覚はあった。


「俺はいいけど、たぶん宮下も気にしてるぞ?」

「あぁ……宮下の耳にも入ってるのかぁ」


――気が重い……妙な勘違いされたらどうしよう――


「宮下のことだから、お前に直接聞いてきたりとかはしないだろうけど。あいつにはこじれる前にちゃんと説明しておいてやれよ。お前、嘘とか隠しごととか下手クソなんだから」


 和道は深夜の態度に一応の理解を示しつつも、一応の忠告を送る。

 しかし、それを受けた深夜はその最後の発言だけは納得がいかないらしく、口を尖らせて抗議した。


「俺、隠しごとは結構得意なつもりなんだけど」

「どの口が言ってんだよ……」


 しかし、そんな抗議に和道が共感を示してくれることはなく、そのまま始業のチャイムが鳴り、二人の会話は打ち切られる。


――正直に言えって言われても、そういうわけにもいかないよ――


 深夜は心の内でそうぼやきながら、学ランのポケットから取り出した白銀色の光を放つ金属製の栞を見つめ、自らの席に戻ろうとする和道を呼び止める。


「……和道って金属アレルギーとかある?」

「アレルギーはたぶんないと思うけど。なんだよ、いきなり」


【深夜から差し出された金属製の栞を受け取り、これがどうしたのか、と言いたげな表情を浮かべる和道の顔】を視て、深夜はすっと器用に左眼だけを閉じる。


――和道は違う、か。よかった――


「ううん、気にしないで。もう席に座ってないと先生来るよ」

「お前が呼び止めたんだろうが」


 深夜は今度こそ席に戻る和道を見送ると白銀色の栞をポケットに戻し、今朝、校門前で雪代からこの栞を受け取った時の会話を思い返す。


 ◇



『もし、校内で悪魔と契約していると思わしき人を見つけたら、この栞をその人の肌に接触させてみてください』

『なにこれ?』

『その栞は退魔銀、と呼ばれる特殊な合金で作られていまして。触れた悪魔の魔力を暴発させ、打ち消すことができるんです』


『もしかして。昨日、あんたがあの悪魔の腕に撃った弾丸と同じヤツ?』

『察しがいいですね。その通りです。といっても、昨夜のアレは純粋に悪魔の魔力で作られた腕だったから丸ごと消し飛ばすことができただけで、悪魔の魂を肉体に憑依させた人間が触った場合は、せいぜい軽い火傷になる程度ですが』


『つまり、これを使って生徒の中から俺を襲った犯人を捜せ、ってわけだ』

『簡単に言うとそうなりますね』

『だいたいわかったけど……それでもし本当に悪魔と契約している人間に押し付けて火傷なんてさせたら、相手が逆上してその場で襲ってくるんじゃないの?』

『その時は私を呼んでください。すぐに助けに駆けつけますので』

『それさ、俺をエサにしてるだけだよね……』


 ◇

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