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いつか神を殺すまで  作者: 宮浦 玖
第二章 「願いを叶えるモノ」
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第二十三話 悪魔達の夜宴



「とりあえず、あっち先に終わらせる、和道との話はそれから」

「よし。そんじゃ俺はお前に合わせるから、作戦とか頭脳労働は全部任せた!」

「はぁ、了解っと……まったく、面倒くさいな……」


 深夜はそう言って、和道の顔を見ずに一歩、在原に向けて踏み出した。


『深夜、もしかして、ちょっとだけ笑ってる?』

「うるさい。ちょっと黙って」

『えぇ?! 今日はラウムちゃんそんなに喋ってないじゃん!』


 実際、今回に関してはラウムに特別非があるわけではない。

 ただ、心のどこかで安心感のようなものを覚えている自分が少しムカついただけ、いわば八つ当たりだ。


「じゃあいくよ、ラウム」

『流された! ……けど、まあいっか!』


 左眼を見開き、大剣を深く引き絞り、深夜は先ほどまでの様子見しがちな立ち回りから打って変わって、一切の躊躇なく真正面から在原に突進する。


「お友達が来て、ずいぶんと元気になったわね!」



【突出した深夜の全方位を覆う十五の円錐。その全てが中心の標的に向かって一斉に食らいつく】



 円錐が自身を貫く未来を視てもなお、深夜の足取りは止まらない。

 むしろより一層の速さをもってして、迫る十の円錐を躱しつつ走り続ける。


「はぁああ!」


 その進みを妨げる三つの鉄塊を薙ぎ払い、在原までの道を切り開く。


『深夜、後ろにも二つ残ってる!』

「そっちは無視していい!」

『なんで!?』


 ラウムの忠告すら無視して、深夜は走る。

 彼の背後に二つの円錐が迫りくる。

 円錐が深夜を貫く直前、その一つを踏みつける形で瞬間移動してきた和道が地面に押し込み、残る一つは主と共に移動してきたセエレが蹴り上げて軌道を逸らし、明後日の方向に飛んでいく。


『おおぉ、ここまで視えてたわけだ』


 和道は深夜の左眼のことを知っており、当然、その未来視の欠点が背後の死角にあることも理解している。そんな彼にとって、フォローのタイミングを合わせることなど造作もない。

 一切の減速のない突進の末、遂に深夜はその大剣の間合に在原を捕らえた。


「はぁ!」

「今更、一人で近づいた、くらいでぇ!」


 突風を巻き起こすほどの強烈な横薙ぎの一刀。

 在原はそれを両手の爪で掴み受け止める。


「和道!」

「よしきた!」


 その声に応えるように、セエレの異能によって深夜の頭上に『跳んだ』和道の踵落としが在原の頭に振り下ろされる。


「っ! ……ザガン、防御!」

「硬ってぇ……」


 それもまた、兜のように在原の頭部を覆うように変形した金属の膜が妨げる。


――ここまでは……予定通り!――


 悪魔に任せきった防御によって視界を金属膜に覆われた在原は、感覚だけで右手の鉄爪にかかる力が緩んだことに気づいた。


「まさか、ここまで全部陽動!」

「正解だよ。蒐集家!」


 爪の隙間を縫うように大剣を左手一本で構え、一直線の刺突を繰り出す。


「くらえぇえ!」


 深夜はその一撃のため、より一層の魔力をラウムから引き出す。

 全身の筋肉が悲鳴を上げている。その痛みすら力を振り絞る糧にして、生み出された膂力の全てを在原に叩きつけた。


「ぐふっ! けど……まだ!」

「ああ、まだ終わりじゃない」

「ま、さか……」


 その勢いは在原の足が地面から離れても止まらず、土埃を巻き上げながら運動場を横断する。


「はぁああああああ!」


 その爆走は施設の正門に在原の背面が叩きつけられてようやく止まった。

 鋼鉄製の正門と、鋼鉄の鎧を纏う在原、両者の激突が奏でる轟音が夜闇に響く。

 そして、人智を越えた力によって門はひしゃげて歪み、在原はぐったりと力が抜けたようにその場に項垂れた。


「……ふう。これだけの勢いでぶつければ……少しは衝撃も鎧の中まで届くでしょ」

『へっへーん。どんなもんよ!』


 勝利を確信し、大剣を握る力をわずかに緩める深夜。

 その直後、左眼に映る在原がピクリと動いた。



【正門はドロリと溶け落ち、鋼鉄の濁流が大あごを開けた蛇のように深夜を呑み込もうと迫る。コレは間違いなく、ザガンの異能の力だ。】



「クソっ! まだ意識があるのかよ」


 悪態をつき、深夜は在原の胸に押し付けた大剣を引き抜き、全力で左眼が視せた攻撃範囲から離れようと跳躍する。

 それから一秒と経たず、在原の後ろ手に触れた部分から鉄製の門扉は液状化し、浮遊していた金属錐と同化しながら、鋼鉄の大蛇となって深夜に襲い掛かった。


「……防ぎ切れない!」


 深夜を丸のみにせんと大口を開けた大蛇が迫る。

 一気に逃げようと跳躍したのが裏目に出た。空中では回避しきれず、ラウムの大剣でも大蛇の顎を防ぐには質量が足りない。


「神崎!」


 そんな深夜の隣に和道が飛びつき、空中で深夜の右手を掴む。


「な、おまっ!」

「受け身は、取れよぉ!」


 和道は跳躍の勢いを利用してぐるりと空中で体を捻り、深夜と自分の位置を入れ替えるように彼を地面に投げ捨てた。


「和道!」


 深夜の身代わりとなった和道は間違いなく大蛇に飲まれた、はずだった。


「主様!」


 だが、まさにその大蛇の白銀の舌に触れる直前、瞬間移動したセエレが背中から和道を抱きしめ、再度風切り音と共に、一足先に着地していた深夜の隣に現れた。


「っと……助かったぁ。やっぱりセエレの力ってすげぇな!」

「あ、後先を考えて動いてくださいませ! そのような危険なことは、私に命じてくださればよいのです!」

「いや、口で言ってちゃ間に合わないと思ってさぁ」


 声を荒げて主の肩を揺さぶるセエレと、冷や汗を流しながらも反省の色の見えないへらへら笑いで答える和道。

 そんな二人を見て、深夜はため息交じりに赤髪の悪魔に声をかける。


「和道に『考えてから動け』とか言うだけ無駄だよ……俺が保証する」

「……以後胸に刻ませていただきます」

「お前らひっでぇな!」


 深夜の腕を借りて、立ち上がる和道。

 見れば在原も先ほどの深夜の攻撃の衝撃から回復したのか、頭を鋼鉄の右手でおさえながらもフラフラと立ち上がっていた。


「っち、さっきので一人くらいは殺しておきたかったけど……潮時ね」


 在原は吐き捨てるようにぼやき、深夜達を襲った巨大な鋼鉄の大蛇は彼女の元へと戻り、主を包むようにとぐろを巻いていく。


「なあ、神崎。あれ、何しようとしてるんだ?」


 和道が深夜の予知をアテにした質問をぶつける。

 鋼鉄の蛇に覆われて、深夜には在原が今何をしようとしているのかは見えない。

 それでも、在原がこのあと何をするのかははっきりと視えた。


「あいつ、飛んで逃げる気だ」



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