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いつか神を殺すまで  作者: 宮浦 玖
第二章 「願いを叶えるモノ」
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第十三話 決着、そして……


「んじゃ、合図するから、よろしく」

「……くれぐれも無茶はしないでくださいよ!」

「わかってるよ」


 深夜は頭を低め、被弾面積を狭くして真正面から蒐集家に向かって突進する。



【蒐集家に駆け寄る深夜の足元から鋭く、尖った樹木の触手伸びる。それは地面を通すことで退魔銀の迎撃を封じる蒐集家の策略。】



「考えたな。地面を通せば雪代の狙撃を避けつつ、俺達に奇襲できる。けど……」


 深夜は足元から樹木が生えるタイミングに合わせ、地面を砕く勢いで強く踏み込み、距離を一気に詰めていく。


「そういう奇襲は、俺には効かないんだよね」

「なっ! うそっ!?」


 樹木の触手を背後に置き去りにして、蒐集家の懐に潜り込んだ深夜は大剣を大きく振りかぶる……フリをする。


「最後の一本がこの足元から生えてくるから……」


 深夜と蒐集家、その両者を分断するように床から生える樹を、高く大きく、斜め後ろに飛び上がって躱す。


「フフッ。空中じゃ、上手く避けられないんじゃなくて?」


 蒐集家はその絶好のタイミングを逃さない。

 樹木の奥にいるであろう深夜の位置に当たりをつけ、ライターの噴出口から最大火力の火砲を放つ。

 その業火は、とても剣の腹程度で防ぎきれる勢いではない。

 蒐集家はまず一人、とほくそ笑む。 

 しかし――


「雪代! 今だ!」

「はい!」


 深夜の合図に合わせ、雪代の拳銃から響く五度の銃声。

 それは蒐集家の放った炎よりも早く、深夜に向かって真っすぐに飛んでいく。


「っぐ!  おぉわ!」


 打ち合わせ通りの軌跡を駆けるゴム製の非殺傷弾。

 深夜がそれを手に持つ大剣で受け止めたことで、宙に浮いた華奢な肉体はその勢いに弾き飛ばされる。


「……なにを?」

 二人の意図が理解できなかった蒐集家は、思わず驚嘆の声を上げる。

 攻撃を防ぐにしても退魔銀を炎に向かって撃てばいいはずなのになぜ、深夜を撃って弾き飛ばしたのか。

 その疑問の答えは、店内に鳴り響いた甲高い警告音によって半ば無理矢理に理解させられる。


「……そうか。火災報知器!」


 蒐集家の脳が状況を理解した時にはもう遅かった。

 深夜の狙いはこの一点。蒐集家の炎を、天井に設置された火災報知器のセンサーに当てさせることにあった。

 最大出力で放たれた炎を検出したことで、天井のスプリンクラーが稼働し警報音と共に大量の水を店内に散布しはじめる。

 その水量は自然の雨よりも圧倒的に多く、触れた肌が痛みを感じるほどの勢いで店内に降り注いだ。


「昨日、雨の中でその道具使ってなかったってことはさ。異能で出した炎でも、大量に水を掛ければ消えるってことでしょ?」

「そのために、悪魔祓いに自分を撃たせたっていうの?」

「それくらいギリギリまで引き付けなきゃ、アンタは天井に向かって火球を撃ってくれなかったからね」


 呆然とする蒐集家と同じように、降り注ぐ水を全身に被りながらも大剣を構えて肉薄する深夜。


「本当、無茶苦茶なことを言いだしてくれましたよ」


 樹木の残骸の隙間を縫い、磨き抜かれた身体能力を持って駆け出す雪代。


「雪代! 当たるの視えた」

「了解。これで終わりです!」

「きゃぁああ!」


 深夜の大剣の一振りと、雪代のブーツでの回し蹴り。

 その両方をその身に受けた蒐集家はファミレスの壁面まで吹き飛ばされ、テーブルの上に墜落した。


「ふぅ……疲れた」


 左眼で蒐集家が動く気配がないのを確認し、深夜はスプリンクラーの水を浴びて顔に張り付く前髪を掻き上げる。


「ですが……結局、私達も派手に暴れてしまいましたね」


 雪代の言葉に釣られて周囲を見渡せば、テーブルやソファの一部は焦げてぐちゃぐちゃ、地面の至る所に樹の触手の残骸が転がり、消火用スプリンクラーからは現在進行形で大量の水が降り注いでいる。


「……後処理は協会に任せる」

「またそんな簡単に言って……いや、ちゃんとしますけど」


 若干の不満混じりの視線を深夜に向けつつ、雪代はコートの内側からすっ、と当然のようにロープを取り出して蒐集家の手足を器用に縛り上げる。


「少しお待ちください。ひとまず、彼女を拘束してきます」

『ねえ、深夜。紗々のあのコートの中って、どうなってるんだろう……』

「さあ?」


 そういえば、昨日洗濯する時も、あのコートだけは「特注品なので」といって触らせてもらえなかった。

 深夜達からすれば、色々なものがホイホイ出てくるあのコートの構造も悪魔の異能並みにファンタジーだ。


「あ、もしもし、雪代です。ええ、ハイ。蒐集家を確保しました。ですが、少々手荒なことになりまして、事後処理部隊の派遣をお願いしたいのですが……」


 雪代は携帯で協会の本部と連絡を取りつつ、蒐集家の衣服を雑にめくって身体調査をはじめ、所持している魔導具らしきものを一通り取り上げていく。


「あ、深夜は見ちゃダメ! 破廉恥!」

「今はそういうノリじゃないでしょ……」

「あ、ちょうど所持品から免許証がみつかりました。こちらの情報を元に身辺調査の方もお願いします。名前は在原ありはら恵令奈えれな。年齢は二十六歳、記載されている住所は……」


 自らの意思で武装化を解除し、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら深夜の視界を遮るラウム。

 そんな騒々しい彼女を無視して、雪代は電話報告を続ける。


「はい。では、こちらは店内で待機しておきます。到着しましたら、連絡をいただければ」

「協会の人間が来るなら、俺達はここから離れるよ」


 電話を終えた雪代に確認を取りながら、深夜は店の出入り口に足を向ける。


「セエレを探しに行くつもりですか?」

「……見た目が子供でも、悪魔をほっとくわけにはいかないでしょ」


 もちろん、理由はそれだけではない。雪代もそれは流石に理解している。


「……では、神崎さんには、これをお渡ししておきます」

「え?」


 雪代がぽいっと粗雑に投げたソレを空中で掴み、掌を開くとそこには白銀色の弾丸が一つ。


「これ、退魔銀?」

「実体化した悪魔なら、その退魔銀を押し付ければ消し去れる。そうでしょう、ラウム?」

「そだね。憑依型と違って人間の体っていう障害物も無いし、一撃必殺間違いなしだよ」

「それを使うかどうかは神崎さんにお任せします。私としては、できるだけラウムの力を使わずに解決して欲しいですから」


 雪代は深夜がこれ以上代償を失わないよう配慮したつもりなのだろうが、これを使うということはすなわち、深夜が和道と対立することを意味していた。


「……ありがと」


 深夜は結論が出せないまま、受け取った弾丸をズボンのポケットに押し込み、短くお礼を口にする。


「私も、こちらの処理が片付き次第応援に向かいます」

「じゃあ、蒐集家の方はよろしく」

「……深夜、本当に大丈夫?」

「行くよ、ラウム」


 自分の顔を見上げるようにのぞき込んでくる相棒からの問いかけを無視し、深夜は認識の結界に覆われたファミレスから飛び出した。



 ◇



「あら、あらあら。結局一発も当てられずに負けちゃったわね」


 ずぶ濡れの服のまま飛び出したことで、わずかに周囲の視線を浴びながら市街を走っていく深夜とラウム。

 その背中を見つめながら、キャスターのついた旅行鞄に腰掛けた一人の女が呟く。


『しかし、よかったのかい恵令奈? これで魔道具を四つも失った』


 しわがれた老人のような穏やかな声。それは蒐集家、在原恵令奈の手元の金属球から響いていた。

 その老人の声に対し、在原は余裕の笑みを崩さずに答える。


「逆よ、ザガン。魔道具四つで協会の悪魔祓いを足止めできるなんて安いものだわ」


 彼女が犠牲にした四つの魔道具。


 『発火』の異能を有する『アイムのライター』

 『植物生育』の『アムドゥシアスの種』

 『結界』の『ベリトの釘』


  それら加えて、深夜達が最後までその存在に気付かなかった第四の魔道具。

 『模倣』の異能を有する悪魔、アリオスの魔力が込められた『マリオネット人形』。

 その力は、人間のが意見を完璧に擬態すること。


「退魔銀の弾丸一発で壊れるようなお人形に、それ以上を求めるのは酷よ」


 深夜達はまだ、自分達が戦いを繰り広げ、その手で倒した相手が在原の姿を真似ただけの人形だったことに気づいていない。

 もちろん、戦闘中に一度でも雪白の放った退魔銀に触れていれば、偽物の在原は爆散し、この企みも気づかれていただろう。

 それは、歴戦の悪魔祓いを騙すにはかなり分の悪い賭けではあった。だが在原はその賭けに勝ったのだ。


『とはいえ魔道具である以上、魔力が切れれば元の人形に戻る。誤魔化せるのはせいぜい夜明けまでだろう』

「ええ、そうね。でも、それで十分よ。やっと見つけたんだから……」


 在原は椅子代わりにしていた旅行鞄からゆっくりと立ち上がり、ガラガラと車輪を引きながら行動を開始する。


「あの悪魔、セエレの異能があれば、私の願いは叶えられる。その後のことはどうでもいいわ」

『そうか、ならば急ごうか。我が契約者』


 蒐集家は最後の獲物に狙いを定め、夜の街を行く。




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