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いつか神を殺すまで  作者: 宮浦 玖
第二章 「願いを叶えるモノ」
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第十二話 炎樹双撃


「行くよ、ラウム!」

「おっけ、オッケー! ……小夜啼鳥さよなきどり伽紡とぎつむぎ――」


 深夜に促され、ラウムが武装化の詠唱をはじめる。


「あらあら、怖いわ……ねっ!」


 その隙をつくように、蒐集家は炎の剣を構えて深夜達に肉薄するが、それは両者の間に割り込んだ雪代によって手首を抑え込まれた。


「させませんよ!」

「っく、流石に詠唱途中を狙わせてはくれないのね」


 両者の力が拮抗した結果、剣は振り下ろされず、天井を焦がし、高熱が雪代の肌を照らし玉の汗を浮かび上がらせる。


『さかしまにしずめ ほし天蓋てんがい!』

「雪代! どいて!」

「ハイ!」


 深夜の合図に応え、雪代は蒐集家の拘束を解き、足元に横たわるウェイターを庇うように身を躱す。

 それと入れ替わるように深夜が大きく踏み込み、黒鉄の大剣を振るう。


「おっと!」


 解放された蒐集家は難なくその一振りを避け、二、三度後方に跳ねて、深夜の剣の間合いから距離を取った。


「いったた……あとができるかと思ったわ。見た目に似合わずゴリゴリ系なのね、悪魔祓いのお嬢ちゃん」

「神崎さん、蒐集家の相手を任せます」

「そっちもよろしく」


 蒐集家との距離が空いた隙に、深夜は内心で敵の戦力を分析する。

 雪代は以前、蒐集家は他の悪魔憑きから四つの魔道具を奪っていると言っていた。

 ここまでに彼女が使って見せた魔道具も。


『物体を遠隔操作する指揮棒』

『急成長する植物の種』

『結界を作る釘』


 そして、今あの女が持っている『炎の剣を生み出すライター』のちょうど四つ。

 これで相手が手の内を全て見せたと思うほど深夜も楽観的ではない。

 警戒は必須。しかし、このまま様子見に徹していては救助活動中の雪代が狙われる。


「面倒くさい、なぁ!」

「あら、ずいぶんと威勢がいいわね」


 蒐集家の視線をこちらに集中させるため、深夜は敢えて踏み込みの音を強く響かせて、上段から斬りかかる。

 大振りの一閃はまたしても容易く躱されるが、そこまでは深夜の未来予知の通りだ。


――このまま、人のいない奥の方に追いこむ――


【深夜の追撃から逃げるように、入り口から店の奥に移動した蒐集家。彼女はポケットからゴルフボールサイズの種子を取り出し、深夜に向かって投擲する。】


「炎の次は樹か」

『ねぇ、ちょっと! あのおじさん、位置的に危なくない?』

「ラウム、よく気付いた」


 深夜は追撃の足を止め、手前のボックス席で意識を失っているサラリーマンに駆け寄り、そのスーツの襟首を乱暴に掴む。


「雪代、コイツもお願い!」

「はい!」


 合図の後、サラリーマンを無理矢理片腕で持ち上げ、レジ裏に人々を運び込んでいる雪代に向けて投げつける。


『深夜、アムドゥシアスの触手が来たよ!』

「悪いけど、それはもう見飽きてるんだよ!」


 ファミレス店内を削り取るように進む樹木の触手。その先端を、両手持ちの大剣で下から打ち上げて軌道を逸らす。

 三木島の触手より軽く、動きも雑だ。

 環境の差か、あるいは魔道具と憑依の違いか。どちらにせよ、この程度ならば左眼の未来視を使えば容易に対処できる。



【深夜の視界を妨げた樹木の触手、その壁面が僅かに黒く染まったかと思った次の瞬間、その表面が火を噴いた】



「……ねえ、ラウム」

『うん? なになに?』

「その状態って、痛覚ある?」


 一応、大剣に姿を変えている相棒に確認だけは取っておく。

 剣に目に見える発声器官は無いはずなのだが、魔力を媒介にしてラウムの声はくっきりと深夜の耳に届く。


『武装化している間はほとんど感じないけど、どうして?』

「よし。じゃあ、防御は任せる」

『え? はぁっ?!』


 確認よし。

 深夜は大剣を地面に突き立て、その刀身を壁にするように身を屈める。

 樹の幹を貫通して襲い来た炎の塊をその黒鉄の刀身で受け止めると、それは弾けるように小さな火花となって散った。


『うぉぅっ! ねえ深夜、私の体溶けてないよね?! 大丈夫だよね!』

「多分大丈夫。っていうか、痛覚ないんじゃなかったの」


 剣を抜き取り、炎を受けた所を確認するが、煤が少し付いた程度で特に問題はなさそうだ。


『たしかに痛くはないし、多少の攻撃ならビクともしないんだけど、剣になってもラウムちゃんの体なのには変わりないから! 折れたり、壊れちゃったりしたら私が消滅するから!』

「それ、初めて聞いたな」


 今までも何度か、この分厚い刀身を盾代わりにして相手の攻撃を受けていたが、そんなリスクがあったとは、気にしていなかった。


『そういうわけだから、武装化しててもラウムちゃんのことはもっと大事に扱ってよね!』

「わかったよ。これからは気を付ける」

『本当かなぁ……』


 そう言いつつ、深夜は大剣を横一線に振って黒く焦げ付いた大樹の触手を斬り倒す。

 視界を遮る障害が消えたことで、いつの間にか店の奥の壁際まで移動していた蒐集家が再び深夜の視界に収まった。


「あの距離から……さっきの炎を飛ばしたのか」

「あら、あらあら。完璧に奇襲したつもりだったのに火傷一つ無いの? 自信失くしちゃうわ」


 蒐集家は、先ほどまでは剣の柄のように握りしめていたライターを、今度は噴出口を深夜に真っすぐ突きつけて構える。

 それはまるで拳銃でも構えているかのようだ。


「でも、いい感じに距離が取れたわね」

「くそっ!」


 ライターから炎の剣は形成されず、その代わりに放たれたのは、バレーボールサイズの火球の弾丸だった。

 初弾はやむなく大剣の側面で横払いに受け流し、次弾は横跳びで躱す。


「近距離の剣と遠距離の銃の使い分け……さっき、樹を貫いて来たのはこっちのほうか!」

『えー! あんなことまでできるの!? タダの魔道具の癖にズルい!』

「ラウム、遠距離戦はからっきしだもんね」

『くっそぉ。こうなったら、このファミレス倒壊させてアイツを生き埋めにするとか、どう?』

「却下に決まってんでしょ……ガス管とか巻き込んで引火なんかしたら……」


 まだ一般人の保護も完了していないうえ、ガスの通っている飲食店を倒壊させて火事にでもなったら大惨事だ。


「……火事か……」

『おっ? その顔は何か思いついた感じ?』

「思いついたには思いついたんだけど……俺一人だと手数が足りないかな」


 深夜はテーブルの上を飛び回り、次々と放たれる火球の砲撃を躱しながら、チラリと視線を自身の頭上に向ける。


「よそ見はダメじゃないかしら?」


 蒐集家はその僅かな隙を見逃さず、最大火力の火球が放たれる。

 着地直後の深夜には、再び跳躍して避ける余裕はない。


『深夜!』

「大丈夫だよ」


 ラウムの悲鳴とは裏腹に、冷めきった声で自身に迫る火球を見据える深夜。

 しかし、その火球は深夜の眼前で、破裂音と共に掻き消えた。


「タイミングぴったり。流石は雪代」

「あらかじめ視えているにしても、もう少し焦ってください……私が外したらどうするつもりだったんですか」

「ちゃんと当たるところまで含めて視えてたし」


 雪代は破裂音の発生源、退魔銀を放った拳銃を右手に構えて深夜に語りかける。


「それで、みんなの安全確保は終わった?」

「ええ。とりあえず、客と店員はまとめて厨房の方に集めて寝かせました。あそこなら、よほどのことがない限り巻き込む心配もありません」


 火球を無力化できる雪代の参入によって戦況は一変し、蒐集家と雪代、両者が静かに銃口を突きつけあい、じりじりと睨みあう。


「じゃあ、いきなりで悪いんだけどさ、雪代って退魔銀以外の銃弾、持ってる?」

「え? 退魔銀以外でしたら、ゴム製の非殺傷スタン弾がありますが……」

「ちょうどいいね、それ。ちょっと耳貸して」


 火球の絨毯爆撃から一息ついた深夜は雪代に歩み寄り、蒐集家に聞き取られないように耳打ちしつつ、先ほど思いついた策を伝える


「なるほど、やりたいことは大体わかりましたが……その作戦、私が失敗したらどうするんですか?」

「雪代、射撃は外さないでしょ?」

「そんな気軽に言わないでください」


 あまり長い期間とは言えないが、数度は共に戦った間柄。

 その中で、彼女が無駄弾を放ったのを深夜は一度も見たことがなかった。


「それに、ちゃんと確認してからやるから。気負わなくていいよ」


 深夜はそう言って、自身の左眼を指さす。


「そう言われては仕方ありません。私も腹を括りましょう」

「んじゃ、合図するから、よろしく」

「……くれぐれも無茶はしないでくださいよ!」

「わかってるよ」


 深夜は頭を低め、被弾面積を狭くして真正面から蒐集家に向かって突進する。



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