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いつか神を殺すまで  作者: 宮浦 玖
第七章「異能を生む一族」
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第八話 私のやるべきこと


「もう情報を聞き出したの?」


 この短い時間で、と驚きの声を上げる深夜だったが、そんな期待を裏切るように花菱は首を横に振った。


「それが全く。目的も雇い主もなーんもわかりませんでした」


 あまりにあっけからんと言うものなので、深夜は思わず呆れてしまう。


「……なにそれ?」

「ヤツらがマジで何にも知らず、ただ金に目がくらんで、比奈嬢をさらおうとしていたんですよ。これを情報と言っていいものか」

「ああ、なるほど。そういうことか」

「……なあ、神崎。なんでこれで納得できてるんだ?」


 花菱の言葉の意味を理解しきれていない和道が、こっそりと深夜に耳打ちして質問する。

 コソコソと聞いてくるのは、おそらく理解していないことを花菱に感づかれるのが嫌なのだろう。


「深く考えずに言葉通りの意味だよ。花菱が聞き出すのを失敗したんじゃなくて、あの仮面の男達が自分達の雇い主が何者なのか知らなかったって話」

「……なんだそれ。バカなのか、アイツら」


 ちゃんと報酬が支払われる保証もないのに、金目当てに誘拐しようとした、という意味では愚かなのは間違いない。


「でも、そういうことなら、また金で雇われた別の誘拐犯が来る可能性は高そうだね」


 金で雇えるようなゴロツキや犯罪者崩れなら、その手の世界ならごまんといるのだろう。

 今回助けられたから無事円満解決。と考えるのはあまりにも見通しが甘いというものだ。


「神崎の兄さん言う通りでしょうね。しかも、一回失敗した以上、次はもっと派手な手を使ってくる可能性が高い…………今更なんですが、比奈嬢は自分が狙われる心当たりあります? ご当主様か、その旦那さんから何かもらったとか、話を聞いたとか」

「お前、ヒナちゃんは酷い目に遭いかけたばっかなんだぞ。もっと言い方ってのがあるだろ」


 和道が声を上げて抗議するが、深夜の方は花菱の発言にもそれなりの合理性があると考えていた。

 今はあまりにも情報が少なすぎる。誘拐の実行犯から聞き出せない以上、被害者が何か知っていないか確認するほか手はない。

 そんな深夜の期待も虚しく、大賀は静かに首を横に振る。


「確かに大婆おおばあ様と大爺おおじい様には可愛がってもらったけれど……そんな特別なことは」

「予想通りっちゃ予想通りですが。やれやれ、こりゃしばらくは護衛継続ですかねぇ」


 敵の正体も目的もわからない以上、花菱の言う通り、受け身な姿勢で敵の襲撃を待つしかない。

 だが、それは守る深夜達にとっても、守られる大賀にとっても好ましい選択とは言えなかった。


「安心してくださいよヒナちゃん! 俺らがちゃんと守りますから、大船に乗った気で――」

「いいえ、そういうわけにはいかないわ」


 そんな不安な状況でも大賀を元気づけようとした和道だったが、予想に反して彼女の口から出たのは拒絶の言葉。

 その想像と現実のギャップに、和道は思わずその場でずっこけてしまう。


「なんだよそれ! 大丈夫だって、俺達もちゃんとやれるって!」

「そうじゃないわ。確かにあなた達はああいう荒事に慣れていて、それに比べて私は無力かもしれない。でも、だからといって、大人である私が何もせずにあなた達の好意に甘えるわけには行かない。ましてや、それがこんなに危ないことならなおさらです」

「そうは言いますがね」


 大賀の発言に思うところがあったのか、花菱の声がわずかに低くなる。


「こっちの世界じゃ、大人とか子供だとかは関係ねぇ。重要なのは力があるかどうかでさぁ。そこんところ、わかってます?」


 しかし、その圧を受けても彼女はたじろいだりはしなかった。


「もちろん、理解しているつもりです。私一人では自分の身すら守れないって。私が言いたいのは、無力でもあなた達に任せきりにしたくない。意見の一つくらい言わせて欲しい、ということです」


 戦う力はなくとも、いや、ないからこそ、少しでもリスクを下げることに自分も協力したい。大賀が言いたかったのはつまりそういうことだ。


「意見、ね。具体的な何かいい案があるんですかい?」

「一つあります。一度、私は大賀の本家に戻ろうと思います」


 大賀の出した一つの案。その詳細を聞こうと、その場にいた皆は黙って彼女の考えを聞いた。


「さっきの話でも出ましたけど、私達が今抱えている問題は『なにもわからない』ことです。なら、一番何かを知っている可能性が高い人……本家当主、大賀の大婆様に直接話を聞きに行くべきだと思うんです」


 単純だが、故に妙案だ。深夜は思わず唸る。


「確かに、敵の狙いが大賀先生個人なのか、大賀家全体なのかすらわからない以上、本家ってところに行く方が真相に近づけるかもしれない」

「ほう……悪くない。あっしは比奈嬢の案に賛成しやすよ。なにより、学校やこのマンションと比べて、大賀本家の立派なお屋敷の方が警護するのに都合がよさそうだ」


 花菱のお墨付きが出たことで、今後の方針が固まる。

 しかし、大賀は不安そうな目で深夜と和道を再び見るのだった。


「あ、もちろん、俺らも一緒に行きますよ。このうさん臭い自称ボディガードは信用できないんで!」

「自称はひどいっすねぇ。名刺もちゃんとあるんですよ」

「うるせえ! どうせ裏稼業ってやつだろ!」


 和道が花菱を信用していないのは、かなり個人的な相性があるのだろう。

 それはそれとして深夜も今更、手を引くつもりは全くなかった。


「大賀先生が俺達を心配してくれてるのはわかります。けど、俺達も大賀先生が心配なんです」

「でも……」


 それでも大賀の表情はまだ納得できていない、という感じだ。

 ならば仕方ない。深夜は既に、彼女にもっとも効く()()()()()を用意していた。


「それに先生だって、和道の性格は知ってるでしょう? もう事情を聴いて関わっちゃった以上、コイツを下手に目の届かない霧泉市に置いていくより、一緒に行動していた方が先生も安心できると思いますよ」

「うっわ。その説得は卑怯だよ深夜……半分くらい脅しじゃん」


――半分どころか、純度百パーセントの脅迫のつもりだよ。だって、置いていかれたら俺にだって和道を御しきれる気がしないんだから――


 大賀はしばらく思い悩んだような顔をするが、最後は和道直樹という超ド級のお節介焼きの今までの所業の数々を思い出し、諦めたように彼らの同行を容認した。


「…………わかったわ。二人も一緒に来てくれるかしら」

「よっしゃ! んじゃさっそく――」

「ただし、行くのは明日。今日はもう帰りなさい。ご家族が心配するでしょう」


 正式に大賀を護衛に参加することを認められ、息巻いて立ち上がった和道だったが再び出鼻を挫かれる形となった。


「はいはい。和道がやる気なのはわかったから、落ち着いて。大賀先生もああ言ってるから、俺達はいったん帰るよ。外泊の準備とかしないといけないしね」

「え? 泊まり?」

「はあ……今回は今までみたいに敵の根城に突撃するんじゃないんだよ。行ってすぐ解決するとも限らない……あんたも、その腹積もりなんでしょ?」


 深夜がそう言って花菱に含みを持たせた視線を送ると、花菱は『話が早くて助かる』とばかりに薄ら笑みを浮かべていた。


「ええ、まあ。そうっすねぇ、準備はしっかりしたほうがいいかと」


 もっとも、そのやり取りだけでは和道には通じず、彼は相変わらず疑問符を頭上に浮かべているのだが。


「?」

「大賀先生と一緒の家で寝泊まりして、二十四時間守るんだよ。日本史であったでしょ、籠城戦ってヤツ。あんな感じ」

「なん……だと……」


 一緒の家で寝泊まり、というワードが和道の情緒に刺さったのか、彼は顔を真っ赤にして言葉を失っていた。



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