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いつか神を殺すまで  作者: 宮浦 玖
第七章「異能を生む一族」
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第七話 今はただ誠実に


 そうこうしていると、深夜達が部屋に入った気配を感じ取ったのか、ベッドの上で眠っていた大賀が目を覚ました。


「ん……あれ、家? …………え、なんで和道君達が? そっちの二人は……さっきの!」


 大賀は状況が飲み込めないまま、掛け布団で身を守るように身を縮こまらせ、ベッドの端へ逃げた。

 だが、先ほどの深夜達の戦いの件はしっかりと覚えているらしい。


「ひ、ヒナちゃん落ち着いて! 説明は神崎がするから!」

「あ、そこは俺なんだ」


 和道はこれ以上怯えさせないように距離を取りつつ、大賀を宥めようとする。

 その言葉は非常に頼りないが。


「俺がちゃんと説明できると思うか?」

「得意げに言うことじゃないよそれ……」


 もっとも、深夜も最初から自分が説明するつもりだったので、一向に構わないのだが。


「ええと、大賀先生」

「は、はい」

「ちょっと長くなるんですけど、全部話します。さっきのこととか、俺達のこととか」


 ここに来るまで、何を話して何を隠そうかと考えていた深夜だったが、結局二つのことを除いて、全てをつまびらかに話すことにした。

 悪魔のこと、連続襲撃事件の真実、教導学塾での一件、花菱明日夢の正体、そして、大賀家で『何か』が起こっていること。

 できる限り、心配をかけないように言葉を選びながら。


 ただ、"深夜の左眼の未来視の力"と"悪魔との『契約の代償』"に関してだけは伏せた。


 前者は単純に、悪魔と無関係の異能の存在は、説明をややこしくするだけだと思ったから。

 後者は、どう言いつくろっても大賀の理解を得られると思えなかったからだ。


「ちょっと待って……私、混乱してる」


 大賀は眉間を手で押さえて唸るが、こればっかりは深夜達も大賀の反応を仕方ないと感じていた。


「それが正常な反応だと思いますけど、嘘とか冗談ではないです」


 なにせ、深夜自身が説明しながら、こんなにひっきりなしに事件に巻き込まれていたのかと呆れそうになったくらいなのだから。


「ええと……まず、連続襲撃事件も、温室棟の件も、教導学塾も全部悪魔の仕業で……それが神崎君が一学期の間、何度も休んでいた理由、ってことなのよね」

「ざっくり言うと、そうなります。」

「それで、そちらの女の子達がその……悪魔?」


 大賀の視線が恐る恐るといった感じに、床に座ってくつろいでいるラウムと、背筋をピンと伸ばして正座しているセエレの二人に向けられた。


「ラウムちゃんは、深夜の味方のイイ悪魔だけどね」

「直樹様にお仕えしております、セエレと申します。先ほどは緊急事態だった故、ご挨拶が遅れて申し訳ございませんでした」

「あなた達が、なにか隠しごとをしているのは予想していたけれど……これはちょっと突飛過ぎて、なんて言えばいいのか」


 大賀はまた頭を抱えてしばらく考え込む。しかし、ふとあることに気づいたように、はっと顔をあげた。


「いいえ、違うわね。なにより最初にこれを言うべきだったわ」


 大賀はベッドの上で姿勢を正すと、深夜と和道をまっすぐ見据えて、深く頭を下げた。


「助けてくれてありがとう。あなた達がいなかったら、私は今頃どうなっていたか」


 一方、てっきり怒られると思っていた深夜達は、そのストレートな感謝の言葉に面食らってしまい、互いに顔を見合わせて困惑の色を漏らす。


「それはそれとして、その……『協会』とかいう人達とは、二人の担任教師として一度ちゃんとお話しさせてもらわないといけないわね」

「ちょっと待ってください大賀先生! それは話が非常に面倒くさいことに……」

「あとで紗々《さしゃ》が『また勝手に事件に巻き込まれて!』って暴れるやつだねー」


 ラウムがケタケタと他人事のように笑っているが、大賀に悪魔の存在が知られたことだとか、協会に秘密で花菱に協力していたことだとか、割とすでに笑い事では済まない状況なのだ。


「でも! 未成年の学生がそんな危ないことをしていると知っていて、止めなかったのよね。大人としてそれはどうかと思うわ」


 大賀の発言は非常に常識に沿ったものであり、正論だ。そして、正論なので深夜は言葉にきゅうしてしまう。


「いや……再三、止められはしていて……」


 雪代なんて、もう何度深夜に向かって悪魔憑きをやめろ、ラウムとの契約を切れと言ってきたか。

 そして、深夜が何度それを無視してきたことか。


 この一件に関しては完全に深夜が悪いので、いい感じの言いわけが思いつかない。

 そうして狼狽うろたえていると、しれっと当然のように花菱が部屋に入ってきた。


「協会に話がいっちゃうのは、あっしも困りますねぇ」

「花菱さん……」

「お、そんなに驚いてないってことは、あっしのことも一通り説明してくれたようですね」


 花菱はそう言うと、寝室の扉を背もたれ代わりにして、立ったまま深夜の方を一瞥した。


「はい……元々、おかしいとはおもっていたんです。放任主義の大婆様が、いきなりお見合いの話を私に持ってくるなんて」


 大賀は明確な不快感を視線に込めて、花菱を睨む。


「へへ、騙す形になってすいやせん。これも仕事なもんで」

「騙されたことに怒っているんじゃありません。大人であるあなたが、子供を危険にさらしたことが問題なんです」


 それに関しても、深夜と和道が自分の意思で協力すると決めたことなのだが、教師である彼女としては、それで納得できる話でもないのだろう。


「兄さん方の件はあっしに言われても困るんですがねぇ……ま、いいか。今は過ぎた話よりこれからの話をしましょう」


 花菱も今は下手に反論するより、汚名を被ったままの方が良いと判断したのか、大賀の冷たい視線を受けたまま話を続けようとする。

 けれども、和道は花菱の言う「これからの話」というのがピンと来ていないようだった。


「これからって、ヒナちゃんを連れ去ろうとしたやつらは、全員捕まえただろ?」

「あいつらはあっしと同じく、金で雇われたつかいっぱしりですよ。それも三流以下の使い捨て。本丸はあいつらの雇い主ですね」

「もう情報を聞き出したの?」


 この短い時間で、と驚きの声を上げる深夜だったが、そんな期待を裏切るように花菱は首を横に振った。


「それが全く。目的も雇い主もなーんもわかりませんでした」


 あまりにあっけからんと言うものなので、深夜は思わず呆れてしまう。


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