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いつか神を殺すまで  作者: 宮浦 玖
第五章「天使の目覚め」
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第七話 武器



「爆発?! まさか、雪代さんが……」


 屋敷のエントランス内。ロノヴェの分身体達に囲まれつつもシャンデリアの上で様子見に徹していた和道だったが、その突然の轟音に思わず視線を扉の方に向けてしまう。


「お客様、よそ見は厳禁ですわよ!」


 もちろんロノヴェはその隙を見逃さない。分身の一人が人の姿から黒塗りの猛禽へと変形し、そのまま注意が散漫した和道へと突撃してくる。


「ぐわっ!」


 衝撃そのものは大きくない、だが不意を突かれた和道はバランスを崩し、シャンデリアから落下してしまう。


「やっべぇ!」

「直樹様!」


 頭から激突する直前、なんとかセエレが瞬間移動で彼を捕まえ衝撃を殺すことに成功する。だが、地上に降りた二人は再びロノヴェの分身達の攻撃範囲に入ってしまった。


「総攻撃、いきますわよ!」


 四方八方から迫るロノヴェの攻撃。だが、それも瞬間移動の異能を有するセエレの前には回避は容易い。

 二人は攻撃の中心地から、エントランスの角に移動することで背後を守る体勢に入る。


「また避けられましたわ……」

「直樹様、お怪我はありませんか」

「悪い、集中切らした……」

「雪代様も神崎様も我々より戦闘経験は豊富です。不安な気持ちはわかりますがお二方を信じましょう」

「ああ、そうだな」


 和道はセエレに抱えられた状態から立ち上がり、自分の頬を叩いて気合を入れなおす。


 この屋敷で一番弱いのは自分だ。ならば、人の心配なんてしてる場合ではないだろうと和道は自らに言い聞かせる。


「異能の温存はしなくなったんですね、セエレちゃん」「ですが、避けるだけでは勝てませんよ?」「契約者と一緒に来たのは失敗でしたね」「契約者を守りながら、私に勝てるとお思いですか?」

「好き勝手言いやがって……否定できねぇけど」

「いいえ直樹様。私達はアイツに勝つために二人でここに来たはずでございます」


 ロノヴェの挑発に対しセエレは毅然とした態度を崩さない。


「ああ、そうだったな」


 和道もその言葉を受け、ここに来るまでにしてきたことを思い出す。


 ◇


 東京の協会支部での騒動の後、グラシャラボラスによって負傷させられた深夜が目覚めるのを待つ間、和道は在原恵令奈の元を訪れていた。


「悪魔との戦い方を教えて欲しい?」

「神崎や在原さんと違って、いつもセエレが一人で戦って、俺はマジでただの足手まといなんです」

「だから、一人でも戦える方法を教えて欲しい?」

「そうっす」


 突然病院の待合室に呼び出されたかと思えば、随分と物騒な相談だなと在原は目を細める。だが、和道本人の表情は真剣というよりも悲痛、必死と言った感じであった。


「そうね……私にできる事なら協力してあげたいところではあるんだけど」


 在原としては和道とセエレは父と自分の命の恩人だ。そんな彼がこんな顔をしているのは正直見ていていたたまれない気分になる。

 だが、この悩みに応えるべきは在原ではない。


「悪魔憑きの戦いはスポーツではないわ。ザガンもラウムもそしてセエレもそれぞれ全く違う異能を持つ以上、戦い方に決まりやセオリーは無い。『私とザガンの戦い方』を和道くんに教えても何の価値もないわ」

「あっ……そういうことっすか……なるほど」

「ええそう。だからね、坊や。あなたがその悩みを吐き出すべきは私じゃないの……でしょう? 盗み聞きしている悪魔さん?」

「え?」


 在原はそう言って和道の背後にある自動販売機の影に身を隠す赤髪の悪魔に声をかける。

 呼び出されると思っていなかった彼女はバツが悪そうにその姿をあらわにした。


「セエレ!? いつからそこにいたんだよ」

「最初から坊やの後ろをずっとついてたわよ。心配性な子なのね」

「出過ぎた真似を失礼いたしました……」


 セエレは元々小さい体をさらに縮めて頭を下げる。在原の手招きを受け、彼女は二人が座るテーブルに着いた。

 だが、和道もセエレもお互いに相手に隠れてコソコソしていた気まずさからか目を合わせずに微妙な空気が流れる。


「あなた達は二人とも相手に気を使い過ぎなのよ……ぶっちゃけて要約するけど、和道くんはセエレと一緒に戦いたい。けど、セエレは危険なことは全部自分一人でやりたい。そんなところかしら?」

「……ま、まあそうなりますかね」

「否定する要素はございません……」

「開幕から意見がすれ違ってるんだから、戦い方以前の問題よ」


 在原の指摘、それこそが二人の抱えているわだかまりの根幹だ。


「だけど、そうね……私は人間だから和道くんの肩を持つ形に聞こえるかもだけど、セエレと契約をしたのは和道くんにも願いがあったからだったんじゃないの?」


 その言葉に二人はハッとして顔を合わせる。


「ああ……そうだ、そうだった。確かに俺は『力が欲しい』って言ってセエレと契約したんだった……だったら、在原さんに聞く話じゃなかったんですね」

「直樹様……」

「セエレ、改めて頼む。俺は力が欲しい。だから、俺にお前の力の使い方を教えてくれ」

「……」


 数秒の沈黙、そのさなかセエレの心中でどのような葛藤が繰り広げられたのか、知るのは本人のみ。

 しかし、その沈黙の果てにセエレはまっすぐと和道の目を見て答えを返す。


「それがあなたの望みなら、私は全霊で答えましょう」


 青臭い二人のやり取りを見届けた在原はパンと手を叩き空気を変える。


「じゃあ話もまとまったことだし、三人で『和道くんとセエレの戦い方』について考えましょうか」

「在原さんさっきは、自分の意見は役に立たない的なこと言ってませんでしたっけ?!」

「私のやり方を真似ても意味がないってだけで、意見やアドバイスならいくらでもあげられるわ。何しろ私は『蒐集家』悪魔の異能についてはそれなりに見識はあってよ?」

「そういやそうでしたね……」


 実際に和道は在原との戦いで、複数の異能によるコンビネーションで苦しめられたことを思い出す。


「一番手っ取り早いのは和道くんが武器……できれば魔道具を持つことね」

「ですが、在原様のように魔道具を使うというのは私の異能とは相性が悪うございます」

「魔道具を持っていると瞬間移動がさせられないのだったかしら?」

「正確には拒絶反応で魔道具が壊れます」


 魔力には異なる悪魔の魔力を『異物』として排除しようとする性質がある。

 魔道具もその影響からは逃れられず在原のように戦いに組み込むことは難しい。


「じゃあ、()()()()()()()を持てばいいんじゃない?」

「「はい?」」


 在原の出した『武器』のアイデアを聞いた二人は揃って口をあんぐりとさせるのだった。


 ◇


「そんなバカな……」


 エントランスでの戦いが始まり既に数刻。

 ロノヴェは和道がセエレのウィークポイントだと判断し彼に攻撃を集中した。そうなればセエレは契約者の防衛に集中することとなり消耗していく。はずだった。


「うぉおお!」

「きゃっ!」


 和道に迫る分身達は悲鳴を上げて崩れ、黒い泥へと変わる。彼の手に握られたのは黒い刀身の歪な形状のナイフだった。


「そんなナイフ一本で……なぜ!」


 無力だと判断していた和道の想定外の反撃。その結果ロノヴェの焦りが声に滲む。

それもそのはず。彼女の生み出す分身は本質的には魔力の泥。肉体のある生物というわけではない。故に真っ二つに両断されるならまだしもあんなナイフが刺さったところで何のダメージにもならないはずなのだ。


「よっしゃ三体目!」


 だというのに、和道に切り裂かれた分身達が次々と崩壊していく。この理屈がロノヴェにはさっぱりわからない。


「退魔銀……違う彼はセエレちゃんの異能で跳んでいる……」


 あのナイフが何か特別なのは間違いない。ならばとロノヴェは発想を変える。


「標的変更です、総員セエレちゃんに集中攻撃ですわ!」


 あのナイフが厄介なら無視してしまえばいい。セエレの攻撃も肉弾戦闘のみ、ロノヴェには致命傷とはなりえない。

 和道を取り囲んでいた分身達総勢十五名が一斉に身を翻して和道から離れた場所にいるセエレに向かう。


「セエレ!」


 和道の叫びがエントランスに木霊する。だが、セエレの異能は自身と触れたものを瞬間移動させる異能。セエレが和道の元に向かうことはできても和道がセエレの元に向かうこと出来ない。


――さあ、セエレちゃん。どう動きますか!――


 逃げるか、迎え撃つのか。どちらにしても対処は可能。

 そう結論付けたロノヴェの耳に


ヒュン


 この数刻で嫌というほど聞き飽きた風切り音が聞こえた。だが、セエレの姿は変わらず同じ場所にある。


――異能の音。だが、何を飛ばした?――


 その答えがわかる前に、ロノヴェのさし向けた十五の分身が全てロノヴェの手に握られた黒いナイフによって切り裂かれ泥へと崩壊していた。


「そうか、そのナイフは……!」


 ロノヴェは確信する。あのナイフは魔道具だ。

分身の崩壊はおそらく魔道具に込められた魔力との拒絶反応によるもの。そしておそらく、あのナイフに込められた魔力の持ち主は――


「お前の想像通りだ、ロノヴェ。このナイフは私の魔力を籠めて作った『セエレ(わたし)の魔道具』だ!」


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