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いつか神を殺すまで  作者: 宮浦 玖
第五章「天使の目覚め」
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序幕 灰かぶりの天使



 三月二十七日 午前十時 和泉山間トンネル内部


 オレンジのライトと赤い炎の中、渋滞状態の車をすり抜けて空を飛ぶ二匹の異形の姿が交差した。

 一体は白翼を背にした天使。中性的な顔達と白一色の衣服を身に纏っている。

 もう一体は黒翼を頭から生やした怪物。身に着けた衣服はボロボロに擦り切れ、その飛行には天使ほどの精細さはない。

 天使は光を圧縮したかのような不定形の槍を手に怪物を追いまわしていた。


「はぁ……くぅ!」


 怪物は視界を遮る黒煙を突っ切り、天使の攻撃を掻い潜ってトンネルの奥へと逃げ込もうと飛翔する。


「逃がすか!」


 だが、天使はその行く手を阻もうと光の槍を投擲し、その一投は怪物の鼻先を掠めてトンネルの壁面に突き刺さり、轟音を立てる。


「きゃっ!」


 その衝撃はすさまじく、崩れた壁面がコンクリート片の雨となって怪物の体を打ち付けた。


「ぐぅ……はぁはぁ、まだ……もっと、奥に……行かないと!」


 コンクリート片が直撃したわき腹を手で抑え、それでも更に奥へと飛んで向かおうとする。

 しかし、天使は怪物が動きを止めた一瞬の隙を逃さず、二投目の槍を生成し投げ放った。


「きゃああ!」


 光の槍の第二投は怪物の右翼を抉り、甲高い悲鳴がトンネル内に響く。

 そして、天使は空中でバランスを崩した怪物の喉を掴み、その背中を壁へと叩きつけた。


「元天使であろうと、悪魔ごときが一人で私に敵うと思ったか?」

「がっ……ぐ……」


 天使は重力を無視したかのように、翼を羽ばたかせることなく浮遊し、怪物の喉を片手で締め上げる。

 対して、片翼を損傷し、宙づり状態となってしまった怪物は必死に拘束を解こうと自らの首を絞める天使の腕に爪を立てるが、天使は表情一つ変えない。

 そして天使は光の槍を三度生成し、その穂先を怪物の胸へと突きつけた。


「終わりだ」

「……ここなら……」

「どうした? いまさら命乞いか?」

「誰も巻き込まない……よね……」


 天使は気づく、怪物が浮かべている表情が苦悶のそれではなく、不適な薄ら笑みであることに。


「何を言っている……」

「捕まえた」


 怪物はそう言うと宙ぶらりんだった足を背後の壁面に押し当て、叫ぶ。


「ぶっ壊れろ!」


 その言葉と共に怪物の足が接していた点から黒い亀裂が壁面を走り、トンネル内の一画を埋め尽くす。


「貴様っ!」


 天使が自らの置かれた状況を理解した時には既に崩壊は始まっており、二人の頭上にコンクリートの塊と大量の土砂が落ちてくる。


「は、離せっ!」

「逃がすかっての……私と一緒に堕ちなさい……」


 天使は必死にその場から離れようとする。しかし、怪物は両手の爪を天使の右腕に食い込ませ決して離そうとはしない。


「ラウム、貴様ぁああ!」



 天使の絶叫は崩壊の轟音に飲まれ、誰にも届くことなく消えた。


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