序幕 それは悪魔のように
それは悪魔のように黒く、地獄のように熱い記憶。
上も、下も、右も、左も、全てをコンクリートの壁に覆われた景色。
太陽の光でも人口の光でもなく、揺らめく炎だけが辺りを照らす赤と黒の世界。
その熱と光に晒されて、血と泥に汚れた少年と異形の少女が向き合っていた。
「私と契約をしましょう」
闇の中で鋭い眼光を放つ琥珀色の瞳。
血の気の感じさせない青白く透き通った肌。
衣服として、肌を隠すという最低限の役割を果たしているかも怪しいボロボロのワンピース。
そして、背中ではなくその頭部に黒い左右一対の巨大な翼をもつ異形の少女は語る。
「あなたに私の力の全てを貸してあげる。あなたの願いをなんでも叶えてあげる」
有翼の少女は目の前で膝をつく少年の頬を煤で汚れた指先で優しく撫で、射貫くよう彼の瞳を覗き込む。
「その代償に、私はあなたの全てをもらう。そして……」
少年の背後、遠くから瓦礫と土砂が崩れ落ちる轟音が響き、その衝撃の余波は風となって両者の髪と衣服をなびかせた。
「私の願いを叶えてもらう」
「お前の……願い?」
少年の問い掛けに黒翼の怪物は笑って答える。
「うん、そう。私の願いはね――」
それは悪魔のように黒い煙と地獄のように熱い炎の記憶。