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お題小説

初雪

作者: 水泡歌

 東京で初雪が降ったあの日、僕らは同時に別れを告げた。


 辺りは一面雪に覆われていて、道行く大人達はみんな、しかめっつらで歩きにくい歩道を歩いてた。

 そんな日に僕らは待ち合わせをした。

 場所は僕たちが、よく待ち合わせに使った駅前の喫茶店前。

 僕が駅から出ると、そこには寒そうにポケットに手を突っ込んで待っている君がいた。

 僕は手袋に包まれた手をギュッと握ると、君の方に歩きだした。

 僕の気配に気付いた君も微笑を浮かべながらコッチに向かってくる。

 君は白い息を吐きながら言った。

「今日は寒いね。中はいろっか?」

 そう言って喫茶店を指さした。

 僕は黙って横に首を振る。

「ここでいいよ」

 僕がそう言うと彼女は「そっか」と小さく呟いた。

 冷たい空気をスッと吸う。そして、

「あのさ……」

 そう言った時だった。

「待って!」

 彼女が叫んだ。

 僕はビックリして彼女を見る。

 彼女は下を向いて震える声で笑って言った。

「私も、私も言いたいことがあるの。だから一緒に言おう?」

 僕は「わかった」と小さく言った。

 胸がしめつけられた。

 そして僕らは「せーの」の合図と共に言った。

『別れよう』

 僕は眉間に皺を寄せた顔で、君は悲しく笑った顔で。

 僕らは顔を見合わせた。

「じゃあね」

 君はそう言うと僕から顔をそらして、駅から反対側の道を歩いていった。

「じゃあ」

 僕も一緒に君とは反対側の道を歩いていった。

 ふと後ろを見ると君が歩いたあとにはポツポツと雪に涙跡が残っていた。

 僕はこの跡を追って君を抱きしめたら、僕らはまたやり直せるんじゃないかなんて勝手な事を思ってしまった。

 けれど、その思いは振り切って、逆方向の道を走り出した。

 きっと僕の後ろにもその時、涙跡が残っていただろう。


 それから5年は経っただろう。

 今年も冬がやってきた。

 アパートから出たら雪が降っていたから、こんな昔の事を思い出してしまった。

 そして、思い出した理由はもう一つ。

 君からの手紙。

「結婚しました」の手紙。

 僕のアパートのポストに入っていたその手紙は、僕に君との過去を思い出させた。

 手紙の中の君は結婚相手と幸せそうに笑っている。

 僕はその手紙を見て、なんだか寂しかったけれど、それよりも嬉しかった。

 君が幸せになっているとわかって。

 君が笑っているとわかって。


 ねぇ、君。君もこの雪を見ているのかな?

 どうやら今年はこれが初雪らしいよ。

 ヒラヒラと舞う雪を見て、君も僕の事を少しでも思い出してくれているかな?

 僕の中の君は涙顔で止まっていたけれど、僕の中の君も笑いそうだ。

 ねぇ、君。どうか幸せに……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 切ないですね。 彼もまた幸せになれますように。
2020/09/30 21:47 退会済み
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