2話 異世界から地球へ
日も徐々に暮れてきて城の中は慌ただしくなって来た。
魔王を倒した勇者パーティーのリーダーである、マコトの送別パーティー
があるのだ。
マコトはメイド達に礼服を着せられている最中である。
5年もの間戦いに明け暮れていたためこの世界に来た時とは比べ物になら無い位
体格はガッシリしている。
その為、礼服を着ると筋肉の張り具合が礼服といい具合に
合ってメイド達は、ほぉ~っため息つき頬を赤らめている。
当の本人は礼服はいまいち動きにくくて好きじゃなく、更にこの後の
パーティーでたくさんの貴族に前に出て挨拶する事が億劫で
気分が重くなっていた。
「どうも貴族は苦手だ、顔は笑っているが目が笑って居ない奴等が多く、
そう言う奴らを見ていると気分が悪くなる。」
まぁ、それも今日までだと思えば我慢出来るかと気合を入れて会場へ
向かうことにする。
メイドがドアを開けるとそこには案内兼護衛の騎士が二人立っていた。
魔王を倒す程の男に護衛なんて必要無いが、まぁそこは騎士団のメンツ
だ。
マコトを見て騎士団の一人が挨拶した。
「此度は魔王討伐おめでとうございます、そしてこの世界を救っていただきありがとうございます。短い間ですが会場までの案内と護衛を努めさせていただきます、近衛騎士団副隊長のケリウスと申します。」
そう言うと頭を下げた、もう一人の男もおめでとう同じ様に頭を下げた。
「あぁ、よろしく。しっかり守ってくれよ。」
というとニカっと笑う。
緊張していた騎士二人はその笑顔を見て緊張が解け笑顔になりマコトを会場まで案内していった。
会場のドアの所に来るともう既に他のメンバー四人が立っている。
「俺が最後か悪い、遅れた。」
「主役は最後ってか。」
と、もう既に顔が赤いニックが言った。
「ニックったらもう酔っ払ってる~!」
「大丈夫だよ、我々もさっき着いた所だ。」
と、クリスが微笑みながら言う。
「挨拶期待してるわよ。」
とマリアが意地悪い顔で言う。
そうしていると執事が我々に
「そろそろ良いですかな、ドアをお開け致します。」
と言った。
「さて、俺たちパーティーの最後のクエストだ。気を引き締めていくぞ。」
とマコトが言うと、さっきまでの穏やかな雰囲気とは違い魔族と闘っていた
時の顔になる。
周りに居た執事やメイド、騎士達はピリッとした空気に息を飲む。
これが魔王を倒した人類最強のメンバーかと改めて気付いた。
ドアが開き、きらびやかな会場へマコト達が入って行く。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌朝、マコトは目を覚ましベッドから起き上がる。
軽く伸びをして体をほぐしていると、コンコンと扉を叩く音。
どうぞと言うとメイドが入ってきて
「マコト様おはようございます、朝食のご用意が出来ております。」
「ありがとう、今行くよ。」
そう言うと体に浄化の魔法をかけて、さっぱりして部屋を出る。
食堂に行くとサーシャとマリアが居た。
「おはよう、二人も朝ごはん?」
「おはよう、一応最後の一緒の朝ごはんだからね。」
「おはよう、私はサーシャに連れてこられてね。」
「むー、いいじゃない。一人よりみんなと食べた方が美味しいよ。」
「はいはい。」
「クリスとニックは?」
「お兄様はもう仕事してるわ、ニックはまだ寝てるんじゃ無い?昨日あれだけお酒飲んでればね。」
「ニックは最後まで変わらないな~。じゃぁ食べようか、いただきます。」
とマコトが言うと二人も
「「いただきます。」」
と言って食べ始める。
この挨拶はマコトがいつも食事の時に言ってたからか他のメンバーもいつの間にか
言う様になっていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
城の中庭にマコトとパーティーメンバー、王と王妃、宰相と警護で騎士団の団長と副団長、そして数人の執事とメイドがいる。
マコトの願いであまり大袈裟にしないで欲しいという事で最小限の見送りになった。
「マコトよ、この世界を救ってくれて本当にありがとう。出来ることならこの世界に
留まって欲しかった。」
王が優しい目を向けて言った。
「すいません、やはり私は家族の元に戻ります。後は王やクリス殿下達にお任せいたします。」
「うむ。」
「マコトさん、出来るならサーシャを娶って欲しかったわ。この子わがままでしょ、
こんな子を支えられるのはマコトさんくらいしかいないもの。」
と王妃が言うと
「ちょ、ちょっとお母様。私はそんなわがままじゃ無いです!」
とサーシャが反論した。
みんなクスクス笑っている。
「マコト、お前と出逢えて本当に良かった、後は任せろ。」
とクリスが言うと
「あぁ、任せるよ。」
「マコト、貴方との旅楽しかったわ、また何処かで会いたいわね。」
と意味深な言葉は送るマリア。
「俺は頭が痛えんだ、さっさと行け。」
とニックが二日酔いの頭を抱えて言う。
「こら、ニック。一応最後なんだからそんな言い方しないの!」
『ん?一応?どう言う意味だろ?』
とマコトが首を傾げるが
「マコト、この世界を人達を救ってくれてありがとう。向こう行っても元気でね。
あと、お嫁さんあきらめていないからね。」
とサーシャが目に涙を溜めて笑顔で言う。
マコトはサーシャの頭をぽんと乗せて笑顔で
「ありがとう。」
しばらくするとマコトの足元に魔法陣が現れた。
多分ティメラが送る準備を始めたんだろう。
「じゃぁ、みなさん今までありがとうございました。あとはお任せします。」
と頭を下げる。
頷く人敬礼する人手を振る人、みんな笑顔だが泣いている。
足元から徐々に消えて行くマコト。
光の粒子が顔まで来た時にサーシャが
「絶対また会えるから・・・だから絶対お嫁さんにしてね!」
と叫ぶ。
苦笑いのマコト。
そして光の粒子を残しマコトが消えた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
目を開けるとそこは懐かしい自分の家の門の前だった。
少し肌寒い、こっちは今秋か初冬位だろうか。
そして足元を見てみると、ティメラの計らいか向こうに行った時の服装で
立っていた、ただ体格が良くなったせいか少しきつい。
しばらくボーッとしていると、玄関のドアが開き妹の咲が出て来た。
「じゃぁ、おばあちゃん行ってきます~。」
ドアを閉めて前を向くと門のところに真が立っている。
「えっ?」
少しビクッとして身構える、そしてよく顔を見て徐々に頭の中の霧が晴れたように思い出す。
「お、、兄、、ちゃん?」
「あぁ、、、た、ただいま。」
ちょっとバツが悪そうな顔で答える。
咲は玄関のドアを再び開けて大声で叫んだ
「お兄ちゃんが帰ってきたーーーー!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
懐かしいリビング、懐かしい家の匂い。
少し落ち着かない感じで椅子に座っている真。
台所では祖母のしのぶがお茶を入れている。
そして祖母の隣に少し緊張した感じの咲がこっちを見ている。
「はい、お茶だよ、外は寒かったろ。」
とお茶を出す。
マコトはありがとうと言い、ふーふーと冷まして飲む。
暖かい、懐かしい緑茶の味。
目の前の椅子に祖母が座り真に話しかける。
「で、今までどこ行っていたんだい?その服はいなくなった時のままだね。」
と優しく話しかける。
「ん~~~。」
ちょっとどう答えていいのか悩んでいると、リビングの扉がスッと開いた。
祖父の隆景立っていた。
祖父は家の隣で剣道道場をやっていて、子供の頃はとにかく怖いと言うイメージしか無くて近寄り難かったが高校位から息抜きに剣道をやり始めて祖父に教えてもらう様になってからは随分距離が近くなった。
隆景は真を見ると少し目を開き一歩後ずさる。
真が放つ圧倒的な強者の空気にのまれたのだ。
本人はそんな空気を出してるとは思ってもいないのだが。
「お前、本当に真か?」
背中に冷たい汗が流れる。
「そうだよ、どうしたのお爺ちゃん。」
少し困った顔の真。
「おじいさん、そんなところに立ってないでこちらに座ってくださいな。」
祖母や妹は真の変化に気が付いていないようだ。
「幸平と美雪さんには連絡したわ、すぐに来るって言ってたわよ。武はまだ学校
だから夕方頃連絡するわ。」
と祖母が言った。
「じゃぁ、もう一度聞くわね、真今までどこへ行ってたの?だれかに誘拐されてたの?」と心配そうな顔で聞く祖母。
真はどう答えていいのか悩んでいた。
女神に無理矢理異世界へ連れて行かれて魔王を倒したなんて言ったら、正気を疑われて病院へ連れて行かれそうだ。
「自分でもよくわからないんだ、気が付いたら家の前に居た」
今はこれが精一杯の回答だ、そのうち話せる事が出来るだろうか。
「まぁ、よい。無事に帰ってきたのだから。疲れただろう今はゆっくり休むがいい
お前の部屋はそのままにしてある。」
と祖父が言うと、真はありがとうといい二階の自分の部屋へ行った。
「おじいちゃん、なんかお兄ちゃん変じゃ無い?以前のお兄ちゃんと雰囲気が違うと言うか、でも
笑った時の顔が以前のお兄ちゃんの優しい顔だった。」
妹の咲は依然と少し雰囲気が違うことを感じ取っていたようだ。
「うむ。」
「まぁまぁ、いいじゃないの。無事に帰ってきてくれたのだし。幸平達が帰ってきたら警察に出してる失踪届け取り消してもらうの頼まなきゃね。今日はご馳走作りましょう、買い物行って来なきゃ。」
と祖母はウキウキと出かけていった。