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暑い国

琴美とテントで話した翌日から、アル達は琴美に様を付けなくなった。

薄いテントの壁だ。

私達の会話は筒抜けだったのだろう。

ザイドだけは寝ていたようでわからないといった風だったが、元々あまり深く考えない性格だ。

周りに合わせるように琴美と呼ぶようになった。


琴美はそんな皆の様子に嬉しそうだ。

この世界での琴美の寂しかった思い出が、今回の旅で少しでも満たされれば。

そう思ってしまう。





リセイアの国に入って、3日が経った。

今まで訪れた国の中で一番南に位置するリセイアは、ザイドが言った通り暑い。

南下するように進んでいた私達は、徐々に暑くなるこの地域に慣れずにいた。


「暑いのう...だからリセイアは苦手だ。」


1時間毎にザイドは同じ事を言う。

最初、他の皆んなはこれ位我慢出来るだろ、と思っていたが進めば進む程に暑くなる気温に確実に体力を削られていた。


「暑いねぇ。

 コウ、お水頂戴。」


エマに言われてコップに水魔法で水を注ぎ込む。

エマはその水を美味しそうに一気に飲み干した。

他の者達へも水を渡すが、皆んな一瞬で飲み干してしまう。

それくらい暑かった。


「コウよ、この暑さなんとか出来んのか?」


余程、参っているのだろう。

ザイドはすがるように私を見た。


「なんとかって...」


どうしたものか考える。

やはり一番最初に思いつくのはエアコンだ。

夏の暑い時期をエアコンの効いた涼しい部屋で、漫画を読みながら過ごすのは日本にいた時は当たり前だった。

エアコンか...。


私は風魔法で壁を作ると、その中に冷気の魔法を掛けた。

エアコンの吹き出し口から出て来る風のように、私達を冷気が包み込む。


「涼しいな。」


アルはその冷気を受けながらポツリと呟いた。

お前はまた...と呆れられるかと思っていたが、今回の魔法はお気に召したらしい。


「それにしてもコウは、よく色んな魔法が思いつくな。」


ヨルトは関心したようにそう言う。

皆、やはり暑さには参っていたようだ。

誰からも文句は出ない。

ザイドに至っては、えらく感動したようで仕切りに聖女様!聖女様!と騒いでいた。


『風魔法にこんな使い方もあったか。』


琴美も珍しい物を見たように、そう言った。


「琴美も出来たんじゃないの?」


琴美も私と同じように、四大魔法も使えるし魔力も多かったらしい。

同じように魔法を使えると思っていたので、そんな風に言われると思わなかった。


『そうだな、やろうと思えば出来たかも知れぬが、思いつきもしなかったな。

 魔法はイメージか。

 コウは想像力が豊かなのだろうな。』


なるほど、確かに思い付かなければ魔法は形にならない。

これまで色々、魔法が使えてきたのは私の想像力のおかげなのか。


「そういえば、琴美が小屋に掛けていた結界ってどんな魔法だったの?

 なんか変わった結界だったみたいだけど。」


『ああ、あれは人拒絶だ。』


「え?」


余りにも強烈な言葉に、思わず聞き返してしまった。


『妾は昔から一つの事に集中すると、周りが見えなくなるタイプでな。

 それ故、邪魔されるのが嫌でよく引き篭もっておったのだ。

 その時にあれば良いのにと思ったのが人拒絶だ。

 最後の瞬間に咄嗟に出たのが、その魔法だったのだ。』


「...あの私が結界を破った時に掴んだ、ピラって部分は...」


『少し寂しさが出てしまったのだ。

 拒絶しておいてなんだが、全く構って貰えないのも寂しくてな。』


なんとも言えない理由に、どう反応していいのかわからなかった。

まあ琴美の人間らしい部分が出たのだろう。

まさか引き篭もった時の思いが魔法になるとは、人間なにが役に立つかわからないものだ。





「もうそろそろ王都だが時間も時間だし、今日はこの町で宿をとるか。」


夕方に着いた町でアルはそう言った。

このまま進んでも、王都に着くのは真夜中になってしまう。

それだったら今日はこの町に泊まり、明日の明るい時間に王都に訪れた方が迎える側にとってもいいだろう。

私達は今日泊まる宿を探した。


ヴァルシオではアルが勇者である事や、聖獣であるアミーの事はあまり認知されていなかった。

しかしここリセイアではそのどちらも、皆が知っているようだ。

だがこの国の町や村でアルを勇者として迎えにきた領主は誰もいない。

私達はリセイアで、普通に宿に泊まっていた。

正直、私としてはとても助かっている。

でもそれが協定国間で正しいのか、私にはわからなかった。


宿をとってから、夕食を食べる為に食堂へ行った。

この店は飲み屋も兼ねているようで、中にはジョッキを手にした者も多い。

酒が入り顔を赤くした者達は声が大きく、店内は騒がしかった。


「なんか賑やかだね。」


「ただうるさいだけだろ。」


せっかく控えめに言ったのに、ヨルトにバッサリと切り捨てられてしまう。

私は、はは...と乾いた笑いをするしかなかった。


「昨日、王都に行って噂のガロ様の婚約者を見てきたんだよ。」


酔っ払いの大声が私達のテーブルにも聴こえてきた。

この国の同行者のガロの名が聞こえた事で、私達はその話に聞き耳を立てる。


「お!エリル様か。

 で、どうだったんだ?実際。」


「それはもう、噂通りの美人でよ。」


「へ〜、にしてもよく会えたな。」


「ああ、ガロ様は自慢の婚約者を連れて王都の中を歩いているからな。

 会うの事態は簡単なんだよ。

 いや〜本当に美人だった。」


男はその婚約者を思い出しているのだろう。

鼻に下を伸ばしてデレデレとしている。


「そんに美人なのか。

 俺も見に行ってみようかな。」


「そうしろ、そうしろ。

 ぶっちゃけ聖女様よりも綺麗なんじゃないか?」


男達は楽しそうにガハハと笑っている。

と、アルがこめかみに青筋を立てながら、ガタリと椅子から立ち上がった。


「アル!」


男達を睨み今にも殴りそうなアルの袖を引っ張り、私は首を左右に振る。

アルはいまいち納得していないような顔をしたが、大人しく椅子に座り直した。


「俺は、コウが綺麗だと思うぞ。」


不貞腐れたように言ったアルの言葉に、一瞬キョトンとしてしまったがすぐに笑顔になる。


「ありがとう、アルがそう思ってくれるなら十分。」


私はそう言ったが、アルはまだ不満らしい。


「くそっ、コウの聖女姿を見せればあんな奴ら黙らせられるのに。」


「もう大丈夫だってば、アル。

 ...恥ずかしいからもうやめて...」


私の事を言われているのに、自分の事のように怒ってくれるアルに嬉しさを感じる。

でもそんなに言われると照れてしまう。

顔を赤らめて俯く私にアルもハッとしたようだ。


「...おい、惚気るなら他でやれ。」


ヨルトはそう言ってため息を吐いた。

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