聖女の仲間達
琴美をアミーに憑依という形で仲間に迎え入れ、私達は旅を続けた。
まさか昔の聖女の霊が仲間になるなど、誰も想像しなかっただろう。
アル達もなんだか気まずそうだ。
「妾は赤子のように大半の時間を寝て過ごす。
アミーの体を動かす力も無い故、たまにこうして話す位だ。」
琴美はそう言っていたが、それは本当の事らしくアミーも普段通りだ。
気が向いたように琴美が話し掛けてくる位で、それ以外はあまりこれまでの旅と変わらない。
正直、琴美が憑依しているのかと思うとアミーに乗り辛かったが今はそれも気にならない位には慣れた。
アル達もたまに琴美の存在を忘れる位には慣れたので、聖女と同行者達に旅としては大して問題はなかった。
「リセイア王国の国境までもう少しだ。」
山に囲まれているヴァルシオからリセイアへ入るのにも、やはり山を越えないといけない。
こちらの国境はトンネルではなく、山を流れる川が国境になっていた。
「リセイアって、どんな国なの?」
「人族の国だ。
暑い所だからの、ワシは苦手だ。」
ザイドはそう言って、少し顔を顰めた。
余程、暑いのが苦手なのだろう。
「でもその暑さのおかげで美味しい果物がいっぱいあるよ。」
エマは笑顔でそう言った。
美味しい果物か、それでフルーツタルトを作ったらエマは喜ぶかも知れない。
そのまま山道を進んで行くと、国境の川に到着した。
検問所を通り、リセイア王国へ入国する。
「リセイア王国へようこそ。」
そう言った検問所の兵士は、暑い国らしく褐色の肌をしている。
「勇者様一行ではないですか?」
検問所の兵士にそう声を掛けられる。
やはりアミーを連れていると、すぐにわかるようだ。
「そうだが。」
アルがそう答えると、兵士は嬉しそうにする。
「やはりそうですか。
我が国の同行者のガロ様が、皆さんの到着を待っていましたよ。」
ニコニコと笑顔で兵士はそう言った。
リセイアの同行者はガロというらしい。
「ガロ様?第二王子のか?」
名前に聞き覚えがあったらしくヨルトが兵士に確認する。
「ええ、我が国の同行者は第二王子のガロ=ミナード様です。」
第二王子が同行者か。
やはり同行者は身分の高い者が多い。
私達は兵士にお礼を言うと、検問所を出た。
川を越えてもなお、山道は続く。
日も傾いてきたし、近くに街や村は見当たらない。
山の中では野営地を探すのも大変な為、早めに野営地を探す事になった。
開けた場所を見つけると、そこにテントを張る。
皆がテントを用意しているうちに、私は夕食の用意をした。
アイテムボックスから材料を取り出して料理を始める。
今日は唐揚げにするつもりだ。
野菜もしっかり取れるように、野菜スープも一緒に用意する。
魔法を駆使して料理する手段を得たので、私は料理する場所を選ばなかった。
「相変わらず、すごい料理の仕方だよね。」
料理する私の姿を見て、エマは呆れたように言った。
「もやは、奇術師だな。」
ヨルトもそんな事を言っている。
料理担当を私にしたのは皆なのだから、文句は言わないで欲しい。
「いい匂いだな。」
やはりアルは料理の匂いにすぐに引き寄せられる。
それが何だか、エサの準備を始めると尻尾を振って待っている犬ようでちょっと可愛い。
料理を終えると、皆で夕食を食べた。
何だかんだ言っても、皆美味しいと食べてくれる。
あっという間になくなる料理を私は満足気眺めた。
「さてと、腹も膨れたし寝るか。」
ザイドはそう言って大きな欠伸をした。
皆がザイドの言葉に同意するように、テントへ入る。
私はアミーと一緒にテントへ入った。
アミーが一緒に旅を始めてからの野営は、いつもアミーと一緒のテントだ。
体の大きなアミーと一緒だとテントは狭くなってしまうが、アミーに寄り添い眠ると安心する。
国境を越えリセイアに入った。
始めての国へ来ると、いつもドキドキする。
これからどんな人達と会うのだろう。
この国の同行者はどんな人物なのか。
これまでの同行者は皆良い人達で良かった。
『良い仲間に恵まれたな。』
突然、考えている事を読まれたような言葉にビクリとする。
琴美だ。
「琴美様、起きていたんですね。」
私は驚いたのを悟られないように、平静を装い返事をする。
『つれないのう。妾も皆同じように呼び捨てで構わぬぞ?』
「いや、でも琴美様は聖女ですし。」
『それを言ったら、其方も聖女ではないか。
妾も仲間として旅に出ておるつもりだ。
それとも妾を仲間だと思えぬか?』
アミーの中にいる琴美の表情はわからないが、声に寂しさを感じる。
琴美の言う事ももっともだ。
確かに自分だけ、気を使われたように接しられるのは寂しいだろう。
「...わかった、琴美。」
私がそう言うと、琴美は嬉しそうにふふっと笑った。
「でも琴美は、なんで私が考えていた事がわかったの?」
『妾も同じだったからだ。
始めての国に来れば、その国の同行者の事を考える。』
そうか、琴美も同じだったんだ。
私と同じように色々な国を訪れて、私同じように同行者を集めたのだ。
そして魔王を封印した。
琴美は私がまだ経験してない事も知っている。
「そっか...。
琴美も時の同行者はどんな人達だったの?」
『そうだな...皆、強かった。
それに皆、優しかった。
妾を守ってくれて、大切にしてくれた。
だが...仲間だったのかはわからない。』
琴美の声のトーンが悲しそうに低くなる。
『皆、妾を聖女として大切にしてくれる。
だが、妾に仲間として接した者は居なかったのだと思う。
妾はただ馬車の中で大人しくしているだけだった。
たまに治癒魔法を求められるだけで、妾の仕事はそれだけだった。』
資料などで見た、これまでの聖女達の扱いそのものだ。
だが、実際にそれを経験した者の口から聞くと、違う物に感じる。
『妾は戦いに参加する事も無ければ、料理を任される事もなかった。
皆に琴美様と呼ばれて敬語でしか話し掛けられない。
だから...コウが羨ましい。』
私はアミーと一緒に琴美を抱きしめた。
この世界に来てこの世界で生活していたのに、ずっと客のような扱いをされていた聖女達。
彼女達の事を思うと、胸が苦しくなる。
その扱いに慣れた者もいれば、琴美のように寂しさを感じていた者もいただろう。
「琴美は私達の仲間だよ。」
そう言って私は抱きしめた腕に少し力を込める。
琴美はそうか、とだけ呟いた。
その声がどこ嬉しそうに感じた。




