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変わり者の昔の聖女

再びヴァルシオに訪れた私達は、ヴァルシオの険しい山の山頂付近にあるというコトミの小屋を目指す。

斜面はきつく、登るだけでも一苦労だ。

こんな場所に住んでいたコトミは、やはり変わり者なのかも知れない。

馬達もこの山を登るのは大変そうだ。

だが、こんな所に置いていく訳にもいかないので、身体強化の魔法を掛けてもう少しだけ頑張ってもらうしかない。

アミーは全然平気そうでヒョイっと馬達を先導するように進んでいる。

流石、元魔物の聖獣といった所か。


険しい山道を進んでいると、突如、一軒の小屋が目の前に現れた。

木々の間から突然その小屋に辿り着いた、そんな感じだった。

えらく傾いている小屋だ。

斜面に垂直に建てられている。

こんなに傾いているのに、よく崩れないものだ。

それに小屋と言うにはそこそこ大きい。

二階建てのその小屋は日本の小さな一軒家位ある。


「ここが、コトミ様の小屋?」


小百合の小屋のように辺りに結界は感じなかった。

玄関のドアノブに手を掛けようとすると、バチリと痛みが走り手は弾かれた。


「大丈夫か?」


アルに心配そうに声を掛けられたが、すぐに治癒魔法を掛けた為なんともない。


「大丈夫だよ。」


そう返事をすると、私は小屋全体を見た。

私や小百合が張った結界は、袋を被せたようにふんわり覆う物だ。

しかし、この小屋に掛けられた結界はラップをしたようにピッタリと小屋の形に沿って張られている。

そこにどんな違いがあるのかはわからない。

それに自分の張った結界は解いた事があるが、人の張った結界を解くのは初めてだ。

これは簡単にはいかないかも知れない。


「コウどう?解けそう。」


エマは心配そうに聞いて来る。


「う〜ん、まだわかんない。」


結界自体もどんなものかわかっていない。

もう少し調べてみるしかない。

結界に集中して小屋全体を見る。

やはりピッタリ覆われていて隙間は無さそうだ。

正面からだけではなく小屋の周りをグルグル歩いて、様子を探る。

と、一箇所だけ結界が余っている所を見つけた。

本当に余っていたのだ。

ピラリと周囲からはみ出たその部分は掴む事が出来そうに見える。


これは...何だろう。


手に聖魔法を集中させて、その部分を掴んで見る。

掴めた。

それに先程のように弾かれたりもしない。

私はそれを力を込めて持ち上げた。

バリバリバリと、周囲に大きな音が響く。

持ち上げた部分から避けた結界は、そのまま真っ二つになりそして消えていった。


「コウ!今の音って...」


玄関の前で待っていたエマ達が慌ててこちらにやって来た。

その様子は先程の音に驚いていたようだった。


「なんか結界、解けたかも。」


私自身もいまいち実感が無い為、そんな言い方になってしまう。


「...おい、アルフォエル。

 お前の恋人がまたやらかしてるぞ。」


アルはヨルトにそんな事を言われ、引き攣った笑いを浮かべた。

今回やらかしたのは私ではないだろう、どちらかと言えばこの結界を張ったコトミの方だ。


「とりあえず中に入ってみようよ、ね?」


エマにそう言われ、小屋の中に入る事にする。

コトミ以外、誰も入った事のない小屋だ。

どんな所だろう。


玄関へと戻り、再びドアノブに手を掛ける。

カチャリと小さな音を立てて、扉は静かに開いた。


建物自体が傾いているのに、小屋の中は普通と変わらない。

まるで床に向かって重力が働いているようだ。

一体どんな魔法なんだろう。

中へ入った瞬間はなんだか違和感があったが、中へ入ってしまえば不思議と違和感も感じなくなる。

窓の外に見える景色が傾いて見えるのが不思議だったが、それ以外におかしな所はなかった。


ゆっくりと小屋の中へ入り、グルリと室内を見渡す。

沢山の本が本棚に詰め込まれている。

本棚に入らなかった本達は、床に高く積まれていた。

その一冊を手に取り開いてみる。

中には聖女の事が書かれていた。

恐らくここにある本は聖女に関する物を集めたのだろう。

本棚に並ぶ本の背表紙を見てみるが、見覚えがある。

あれは確か、ヴェルアリーグ教の教会宮殿で見た本だ。

きっと本を増殖してコピーし、持ってきたのだと思う。


「凄い本の数だな。」


同じように本を開いて見ていたアルがそう呟く。

私は本を閉じると、小屋の中を少し歩いた。

すると、二階へ続く階段を見つけた。

ギッギッと階段を一段登る毎に、木の軋む音がする。

階段を登り終えると、目の前には扉があった。

その扉を開けようと手を伸ばすと、目の前に何かが現れた。


「聖女の同行者か?」


扉をすり抜けてヌッと現れた顔が私に向かってそう言った。

扉から首が生えた、そんな感じで扉に首から上だけが飛び出している。

黒い髪は前髪がパッツンと切り揃えられている。

黒い瞳は瞬きする事なく、私を見ていた。


「ヒッ、わっわっ...」


あまりの恐怖に引き攣った悲鳴を上げ、後ずさった。

しかし後ろは階段だ。

踏み外した私の体は、宙へ投げ出された。


「コウ!」


そうアルの声が聞こえたかと思うと、トサっとアルは私を抱き留めそのまま2人で倒れ込んだ。

あまりにも怖すぎて、魔法を使う余裕さえなかった。

アルが受け止めてくれた事で、衝撃は少なく済んだ。


「大丈夫か?」


アルは心配そうに私の顔を覗き込む。

あまりにも近い距離にドキリとしてしまう。


「だ、大丈夫。

 ありがとう、アルは大丈夫?

 どこか怪我してない?」


私の下敷きになってしまったアルを気遣う。


「俺は大丈夫だ。

 それよりコウ、どうしたんだ?

 二階で何があった?」


そうだ、階段から落ちた事で忘れそうになっていたが、私は二階で見てはいけない物を見たんだ。


「すまぬな。

 驚かせるつもりはなかった、許せ。」


二階からフヨフヨと浮かびながら、先程見た顔の少女がこちらにやって来る。

漫画で見た幽霊のように足がなく、その少女は少し透けている。


「なんか凄い音がしたけど大丈夫?」


私が階段から落ちた音を聞いて、エマ達が慌ててやって来る。

そこで幽霊の少女を見ると、皆が青い顔になり動きを止めた。

サーッと血の気が引いていく。

前に悪霊に取り憑かれた者と戦ったが、それとはまた違う。

幽霊が目に前にいるのだ。


「妾は神代(かみしろ) 琴美(ことみ)

 昔の聖女の霊だ。」


そう言って琴美の霊はクルリと一回転して見せた。

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