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旅再開

「という訳で、コウは俺の恋人となった。

 ヨルト、もうコウに手を出すなよ。」


私とアルが城下町に出掛けた翌日、旅立つ前にアルは皆が集まるとそう言った。

まあ事実ではあるのだが、改めて皆の前で公言されると恥ずかしい。


「恋人とはまるで民衆のようだな。」


ザイドは少し呆れ気味でそう言った。

それもそうだろう、王子であるアルが恋人と言っているのだ。

同行者は聖女との結婚が考えられる為、どこの国もそこそこ身分が高い者が選ばれている。

それ故、普通は婚約者になるのだ。


「コウ。」


ヨルトは私の前まで来ると、私の手を取った。


「ネムの国では米の品種改良に力を入れている。

 コウがネムの国に嫁げば、好きなだけ食べられるようになるぞ。」


相変わらずの無表情だが、ヨルトは私の気持ちを変えようとしているのだろう。

そういえば、ネムの国でそんな事もあったなと思っているとアルは無理矢理、私とヨルトの間に割って入った。


「ヨルト、ずるいぞ。

 それにコウもそんなことで悩むな。」


別に悩んでいたつもりは無いが、何も言わなかった私の姿はアルに悩んでいるように見えたのだろう。

アルとヨルトは未だにお互いをライバルだと思っているようだ。


「ちょっと、アルお兄様!」


少し離れた場所から声が聞こえる。

皆の視線がそちらに向けられると、その人物は急ぎ足でこちらに向かって来た。

ユリシアだ。

裾の長いドレスでよくあれだけ急ぎ足が出来るものだと感心する。

王女であるユリシアは走る事なく、しっかりと急ぎ足でここまであっという間に来た。


「昨日、コウを連れ出しましたわね!

 せっかく昨日はコウとお茶会をしようと思ってましたのに。」


大層御立腹なユリシアがアルに詰め寄る。


「アルお兄様はこれからもコウと一緒にいられるでしょうけど、私には昨日しなかったのに!」


私を取られたとばかりに騒ぐユリシアに、皆が気押される。

それを真正面から受けているアルは、まあまあとユリシアを宥めた。


「ユリシア落ち着け。

 昨日コウと出掛けたおかげで俺達は恋人になったんだ。

 魔王の封印が終わったら、いくらでもコウとお茶が出来るじゃないか。」


アルの言葉を聴くと、ユリシアは両手を口元に当ててまあ、と言った。

私の方を振り向いたユリシアの頬はほんのりとピンク色をしている。


「もしかして...BLというものですの?」


思いもしないユリシア言葉に私は咽せた。

まさかこの世界でBLなんて言葉を聞くことになるとは思わなかった。


「ユリシア様、一体誰からそんな事を...」


「サクですわ。」


ユリシアにそんな言葉を教えた犯人はあっさりと判明する。

ギャル系のサクがそんな言葉をユリシアに教えているとは思わなかった。

そもそも使い方を間違っている。


「ユリシア様、その...誤解です、間違っています。

 私とアルはBLではありません。」


ユリシアはキョトンとした顔をしているが、私からこれ以上説明する気はない。

後はサクに任せよう。


「とりあえずアルお兄様とコウが恋人になったのは、喜ばしい事ですわ!

 サクにも報告しませんと。

 皆様、ご機嫌よう。」


そう言うとユリシアは嵐にように去って行った。

残された私達は、なんとも言えない雰囲気の中で呆然とする。

言いたい事、聞きたい事だけを済ませて居なくなってしまったユリシアが残して行った微妙な空気が居た堪れない。


「...そろそろ出発するか。」


アルのその一言に同意するように皆が城から外に出る。


「BLって何?」


そう呟いたエマの声は、聞こえなかった事にした。






ベーマールの王都を出た私達は、次にヴァルシオにあるというコトミの小屋に行く事にした。

私のわがままで再びヴァルシオに行く事になってしまい、申し訳ないと思ってしまう。


「リセイアに行くにはどの道、ヴァルシオを通らなくてはならないからな。

 気にする必要はない。」


アルにそう言われると、罪悪感が薄くなる。

ヨルトもついでだと言ってくれたので、安心して向かう事が出来そうだ。


「コトミ様が生涯を過ごした小屋か...。

 どんな所なんだろ?

 コウ、結界、解けるといいね。」


そう言ったエマに頷いた。

そうだ、結界が解けなければ、コトミの小屋へは入れないのだ。

これまでの聖女は解く事が出来なかった結界。

私に解く事が出来るかわからないが、行って試してみるしかない。

なんだか聖女としての力が試されるようで少し緊張する。


「コウなら大丈夫だよ、何せ規格外だから。」


エマはそう言っていたずらっ子ように笑った。

エマなりに緊張をほぐそうとしてくれたのだろう。

私はそんなエマに笑みを返した。



ヴァルシオに行ったら、本当はヴァルシオの歴史館にも寄りたい所だった。

だが、あまりのんびりしている時間もない。

それにザイドの話だと、歴史館には聖女を知れるような物はほとんど無いとの事だ。

これまでの聖女でヴァルシオを永住の地とした者は居なかったらしい。

コトミは例外だが。

日本の女性である聖女達からドワーフ族は、恋愛対象と見られる事はなかったようだ。

私も同じなので、残念ながらザイドを慰める言葉は見つからなかった。


しかし、聖女とドワーフが結婚しないのはドワーフ側の問題もあるらしい。

実はドワーフは寂しがり屋なのだ。

その為、自分よりも寿命の短い人族との結婚を望まない。

伴侶に先立たれたドワーフは後を追うようにすぐに死んでしまうと言われる位だ。

見た目に反してドワーフは繊細な種族のようだ。

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