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王子自ら案内する城下町 〜中編〜

簡単な昼食を終えると、私達は王都の中を並んで歩いた。

広場に行くと相変わらず噴水の水はキラキラ日の光を反射させている。

前に来た時と何も変わっていない。

噴水の周りを走り回る子供達も相変わらずだ。

平和なこの景色に、本当に魔王が復活するのかとさえ思えてくる。


「あれ?アルフォエル様じゃないですか。」


何やらゴタゴタとした服で着飾った女性達に、アルが声を掛けられる。

その女性の方へと振り向いたアルの腕に、女性は絡みつくように縋り付いた。


「アルフォエル様、一体いつになったらウチの店に来てくれるんですか?」


妙に馴れ馴れしい女性からは香水のような甘ったるい香りが漂って来る。


「え?夜色の騎士様?

 ウソ、私、本物に初めて会った!」


別の女性が私に気付いたようで、私の元へも女性達が集まって来た。

どうしものかとアルを見たが、アルも困ったような顔をしている。

自国の民を無下にも扱えないのだろう。


「アルフォエル様、そろそろ騎士の方達とウチの店に来て下さいよ〜。

 もうずっと待ってるんですよ。」


アルの腕に絡み付いた女性が更に胸を摺り寄せ、甘い声を出す。


その様子に心の中がモヤモヤとする。

なんだろ、この感じは。

モヤモヤの正体がわからないが、なんだか胸が締め付けられるように痛い。

そういえば前にもこんな事があった。

あれは...そうだ、ユリシアをアルの婚約者だと勘違いした時だ。

あの時も胸がモヤモヤとして、アルに声をかける事が出来なかった。


自分の中のわからない感情に戸惑う。

そうだ、これは...。

嫉妬だ。

このモヤモヤに名称を与えるなら、嫉妬だ。

私は今、嫉妬をしているのだ。


自分の思いに胸の中が熱くなる。

私はきっと...アルの事が好きなのだ。

だから今の状況に嫉妬してしまっている。

そう自覚してしまうと、ドクドクと鼓動が早まった。


「...士様?夜色の騎士様?

 聞いてます?」


私に話しかける女性の声にハッと我に返る。

アルの方が気になって、自分が話掛けられていることにさえ気付かなかった。

女性は不満そうな目で私を見上げていた。


「えっと...あの...」


何を言われていたのかさえ、わからなくて何と言えばいいのかわからない。


「今は急いでいるんだ。

 また今度にしてくれ。」


アルは自分の腕に絡み付いていた女性を振り解くと、私の方へ歩いて来た。

私の手を取り、アルは強引に私の手を引いて歩く。

後ろからは、また逃げられたとばかりに女性の文句が聞こえてきた。

強く引かれた手は少し痛い位だ。

引き摺られるように手を引かれ、早い速度でズンズンと歩くアルについて行くのが精一杯だった。



やっと速度が遅くなった事でアルの目的地を知る。

少し乱暴に扉を開けたアルの後に続いて店の中に入ると、そこは服屋だった。

店内を見回し、適当な服を手に取るとアルは私にそれを押し付け試着室へ押し込んだ。


「コウ、これに着替えろ。」


一方的にそう言って、試着室の扉を閉めたアルの様子に呆然としてしまう。

私は押し付けられた服を広げてみた。

それは町娘の服だった。

アルは何を思ってこんな服を私に着せたいんだろう?

アルの意図はわからないが、先程のアルの様子から断るという選択肢はない。

私は騎士服を脱ぐと、町娘の服へ袖を通した。



アイテムボックスからメイク道具を出して、簡単な化粧をする。

女性の服を着る時は、最低でも気持ち程度のメイクはするようにしていた。

髪のセットまでする時間はない為、結っていた髪を下ろすだけで済ませる。

服のサイズはピッタリで、アルが私のサイズをしっかり選んでくれたのだとわかる。

試着室の扉を開け出て来た私の変わり様に、店員は驚いたようだがアルは有無を言わさず会計を済ませた。

店内で私を待っていたアルは、平民の服に着替えている。

再び私の手を引き歩いたアルは、先程までの空気と変わっていた。


「アル?突然どうしたの?」


やっとアルに話しかけると、アルは振り返り私を見た。


「せっかくのデートだったのに、また邪魔される訳にはいかないからな。」


余裕そうにそう言ったものの、アルの頬は朱に染められていた。

アルの様子に先程気付いた自分の気持ちを思い出し、私も顔に熱が集まってしまった。

アルは私のその様子に満足そうに笑顔になると、私の手を取ったまま再び歩き出す。

この服でまるで手を繋いでいるように歩いていたら、本当にアルが言った通りデートではないか。

そう認識すると更に恥ずかしくなり、俯いたように下を向いてしまう。

アルは私のその様子に気付いたのだろう。

手を繋ぎ直されると、しっかりと指を絡めて来た。

これでは恋人繋ぎだ。

驚き、手を離そうと思ったが何故か手を離す事が出来ない。

アルにこうされる事を喜んでいる自分がいる。

離したくない気持ちが勝ってしまい、思わずギュッと握り返す。

それにアルは驚いたようだったが、柔らかい笑みを私に向けた。


その後も私とアルはお忍びデートを楽しんだ。

もしかしたらただ服を着替えただけのアルが王子だと、周りの人達には気付かれているのかも知れない。

だが敢えて平民服に身を包んでいるアルに声を掛ける者は居なかった。


路上で行われていた道化師のパントマイムを観たり、雑貨屋に入ったりパン屋に寄ったり。

アルとのデートは王子のそれらしさはなかったが、ベーマールの城下町の事をよく知れるものだった。

2人で城下町を歩く時間は楽しくて、あっという間に夕方になってしまった。

夕日が足元に長い影を作ると、アルは私と繋いだ手にギュッと力を込めた。

明日にはまた旅に出る。

ベーマールとはまた暫くお別れだ。

そう思うと、今日が終わってしまうのが勿体なく感じてしまった。


お互いに日が暮れてしまう事に名残惜しさを感じていると、会話が途絶えてしまう。

中々、帰ろうと口に出すことが出来ずにいると、私がよくお菓子の材料を買いに来ていた市場に着いた。

店のおばちゃんは相変わらず笑顔でチャキチャキと働いていて、私も釣られたように笑顔になる。


「どうした?」


私の顔を覗き込み、アルはそう言った。


「私、この市場へはよく来ていたんだ。

 店のおばちゃん達にフルーツをおまけしてもらったりして。」


「そうか。

 コウにはちゃんと、この国で居場所が出来ていたんだな。」


そう言ったアルの顔は少し寂しそうに見える。


「アル?」


「いや、コウは俺が王都に連れて来たようものだからな。

 俺がしっかり面倒をみないとって思っていたのに、コウはちゃんと自分で自分の居場所を作っていた。

 それが嬉しくもあるが、なんか寂しくてな。」


「...私、アルには感謝してるんだよ。

 私の世界を広げてくれたのはアルだから...だからアルと一緒にいられて嬉しい。」


そう言ってアルに微笑み掛けると、アルも少し照れたように笑う。


「コウ、俺は...いや、ここで話す話じゃないな。

 戻って話そう。」


アルは照れた顔を隠すように外方を向くと、私の手を引いて歩いた。

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