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携帯電話の魔法

「さてと、ヴァルシオ国王も救出したし聖女降臨式も無事終わった。

 そろそろ次の国、リセイア王国に行くか。」


アルはそう言って私達を見回した。

聖女降臨式が終わり、私達は一度宿に戻って来た。

ヴァルシオ国王の後は大丈夫だ、任せろの言葉にザイドは私達と共に来ている。

だがやはり国の事が心配なのだろう、先程からソワソワとして落ち着きがない。


「コウはヴァルシオで、コトミ様の小屋に行きたいんじゃなかったのか?」


ヨルトが思い出したように私に向かってそう言う。

そうだ、ネムの国を出る前にヴァルシオでコトミ様の小屋に寄ろうと話していたんだ。

ヴァルシオに入ってすぐにザイドと出会った為、そんな暇が無かった。


「そうだね、コトミ様の小屋に行ってみたい。」


「ではそのコトミ様の小屋に寄ってからリセイアに行くか。」


ちょうどアルがそう言った時だった。

ピピーピピーとこの世界では珍しい電子音のような音が鳴り響く。


「なっなんだこの音は!?」


聴き慣れない音にアルやザイドが慌てた。

私はその音の正体をポケットから取り出す。

水色に光りながら電子音を発するそれは、魔力石だった。


「魔力石か、なんの魔法だ?」


ヨルトは私の手の中で音を立てながら光る魔力石を覗き込む。


「見てて。」


私はそう言って、その魔力石に少しだけ魔力を与えた。

すると音は止み、魔力石は紫へと色を変える。


『コウ、聞こえるか?

 俺だ、セオンだ。』


「セオン?何故セオンの声が聞こえるんだ?」


魔力石から聞こえる聞き覚えのある声に、アルが反応する。

その声はセオンにも聞こえていたようだ。


『アル様?アル様もそこにいらっしゃるんですか?』


アルはセオンの声に答えず、私へ訳がわからないといった視線を送る。

まあこの世界にこんな魔法は無かったのだろう。

アルの反応も当然かも知れない。


「アル、これは通話の魔力が込められた魔力石なの。

 お互いの魔力石を連動させて、その魔力石同士を通じて会話が出来る魔法。

 だからこうして遠くに居るセオンとも話が出来るって事。」


日本で携帯電話を当たり前のように使っていた私にしてみれば、通話の魔法はとてもイメージし易かった。

電波が...とかは難しいので、簡単に連動させた魔力石同士で会話が出来るようにしてみた。


『コウ、お前アル様に何も言って無かったのか?』


セオンの声に魔力石の向こうでセオンが呆れた顔をしているのが、容易に想像出来る。


「ま、まあそれよりセオン、どうしたの?」


『アル様がそこに居るなら話は早い。

 実はデルヘンが我が国に向けて、軍を動かしたんです。』


「何!?」


それまで通話の魔力石について思案していたアルが、驚き声を上げた。


「セオン、どういうことだ?」


アルの声に鋭さが増す。

その場の空気が一気にピリリとした。


『それが我々にもよくわからないのです。

 宣戦布告もなく、突然こちらに向けて軍を動かしたようで。

 正直目的地も我が国なのか、さらにその先なのかわからないのです。』


セオンは余程困っているのだろう、声からそれを察する事が出来た。


『アル様、一度ベーマールに戻っては頂けないでしょうか?』


セオンの言葉にアルは私達へと視線を向ける。

皆が頷き、アルを見るとアルはそれに答えるように頷いた。


「わかった。

 今はヴァルシオにいる為、時間が掛かるが急いで戻る。」


『ありがとうございます、お待ちしています。』


セオンは安心したように声を和らげると、通話を終わらせた。

魔力石は再び水色へと色が戻る。

通話を終えたアルは頭を抱え、大きなため息を吐いた。


「しかし困ったの。 

 ヴァルシオからも援軍を出したい所だが、いかんせんこの状況だ。

 申し訳ないが援軍を出す余裕がない。」


ザイドはそう言って眉を下げた。

確かにこのヴァルシオの状況では、自国の事で手一杯だろう。


「ああ、わかっている。

 大丈夫だ。」


アルは力なくそう言った。

ザイドもヴァルシオの為に協力してくれたアルに、力を貸したい所だろう。

ザイドは悔しそうにしている。


「ネムの国から援軍を出そう。

 ただ、都に寄る時間も惜しいだろう。

 ネムの国に入ったら、俺は別行動して援軍と共に後を追う。」


「いや、それなら心配ないよ。

 頭首様にもこれと同じ、通話の魔力石を渡しているからすぐに連絡が取れる。」


ヨルトの言葉に私はそう言った。

まさか頭首にも魔力石を渡しているとは思わなかったようで、ヨルトは驚いたように目を見開いた。


「ねえ、コウ。

 その通話の魔力石って総大司教様にも渡していたよね?

 僕からも総大司教様に援軍をお願いしてみるよ。」


エマの言葉にアルの顔が僅かに明るくなる。


「ヨルトもエマもありがとう。」


「いや、デルヘンの狙いがベーマールとは限らないからな。

 ウチの国も他人事ではない。」


ヨルトは少し照れたようにそう言った。

アルからのお礼を素直に受け取れない所がヨルトらしい。

ヨルトの様子にアルは嬉しそうな顔をしているように見える。


「それにしても...」


アルはヨルトから視線を私に移すと、呆れた表情をしていた。


「コウはまたやってくれたな。」


通話の魔力石の事を言っているのだろう。

確かにアルに、何も言っていなかった事は反省するが今回は役に立ったのだから大目に見て欲しい。

アルもそれは思ったようだ。

私の頭にポンと手を乗せると、ありがとうなと笑顔を向けた。

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