国の立て直しの中で
眠っているゲインドル達を縛り上げ、それと同時に地下牢に閉じ込められていた国王派の騎士や重鎮達を解放する。
近くの村や町に身を潜めていた国王派の騎士達も集めに行くと、牢から解放された騎士が言っていたのでこの場は任せてしまった方がいいだろう。
眠ったまま目を覚さないゲインドルを、ヴァルシオ国王は忌々しそうな目で見ている。
「ゲインドルは先代の国王であるワシらの父の時から、国王の座を狙っておってな。
父は優しい人だったから、ゲインドルを甘やかし過ぎたんだ。
もっと厳しく罰していれば、今回の事も起こらなかっただろう。
聖女様や同行者の者達には恥ずかしい所を見せてしまったの。」
ヴァルシオ国王は本当に申し訳ないと思ったようで、眉を下げて私達を見ている。
アルはそんなヴァルシオ国王に、気にしないように伝えた。
「それはそうと、ヴァルシオでの聖女降臨式だが明日行いたいと思っておる。
国がこの状況なもんでな、落ち着かせるのに時間が掛かってしまう。
早々に降臨式を行ってしまいたいのだが、良いだろうか?」
確かにこの状況だ、国の立て直しを優先させたい所だろう。
聖女降臨式を早々と済ませて、そちらに集中したいという事だ。
「わかりました、大丈夫です。」
私の返答にヴァルシオ国王が安心した表情を浮かべる。
「城の客間に案内したい所だが、王宮内もまだ片付いていない部分が多くてな。
近くの宿に部屋を用意する。
今日はそちらに泊まってくれ。」
ヴァルシオ国王の言葉に私達は了承の意を示した。
ザイドはヴァルシオ国王と一緒に、ゲインドル達を地下牢に連れて行くと言っていたので城に残るようだ。
一旦、私達を宿に案内すると城へと戻って行った。
案内された宿では、肝っ玉母ちゃんのようなドワーフの女将が私達を迎えてくれた。
女将の周りには女将の子供らしいドワーフが8人程いる。
ずいぶん子沢山だと思ったが、実際はこの他に12人居ると聞いて驚いた。
ドワーフは人口の8割が男性で、女性の数は少ないらしい。
その為、女性1人当たりが産む子供の数は多く、逆に男性の結婚率は低いらしい。
ドワーフの寿命が200年程と長い為、それだけ沢山の子供を産む事が出来るようだ。
「だからドワーフの男共は、見て楽しめる踊り子が好きなんだよ。
でもまさか踊り子だと思っていた2人が男だとは驚いたけどね。」
女将は豪快に笑うと私達にそう言った。
宿に着いて私とエマは普段着ている服へと着替えた。
その為私は今、騎士服を着ている。
女将は私の服を見て、私も男だと判断したようだ。
先程までの踊り子姿を見てもなお、男だと思われているのかと思うと何とも物悲しい。
「ほら、お腹が空いているだろ?
夕食を用意したからお食べ。」
そう言って料理の並べられたテーブルへと案内された。
ビーフシチューや田舎パンが並べられた食卓は、とてもいい匂いがする。
私達は黙々と夕食を済ませると、その日はゆっくりと部屋で休んだのだった。
翌日になり聖女降臨式は早々に行われる事になった。
宿の一室で私はまた聖女の衣装に身を包む。
3度目ともなるともう慣れたものだ。
慣れた手付きでメイクをし、髪をセットすると聖女の衣装に袖を通した。
ベーマールで受け取ったティアラと、ネムの国で受け取ったネックレスを付ける。
「何度見ても、コウの聖女姿って綺麗だね。」
部屋から出た私を見るなりエマはそう言った。
「ありがとう。」
やはりそう言ってもらえるのは嬉しい。
私は笑顔でそう言うと、アル達と共に宿を出た。
宿を出る時に女将が、あんた男か女かはっきりしなさいよと言っていたが私の聖女姿に驚いた様子だった。
私が女ですよと答えると、女将はあんなにカッコ良かったのに勿体ないと心底残念そうにしていた。
もはや苦笑しか出来ない。
宿から城までは歩いてもさほど時間が掛からない位の距離だった為、私達は歩いて移動した。
城下町のドワーフ達が、私達を見て一瞬動きを止める様は悪い気がしない。
踊り子の服の時のように湧き上がりはしないが、皆が遠巻きに見ているのは感じた。
「待っておったぞ、こっちだ。」
城へ入るとザイドが短い手を振り上げ、私達を呼ぶ。
「じゃあ俺達は先に行ってるぞ。
コウ、また後でな。」
そう言って先に進んだアル達を手を振って見送った。
「踊り子姿も良かったが、今の姿もええのう。」
そう言ってザイドは私へと手を差し出す。
背の低い彼は、目一杯手を上げていた。
私はザイドの手を取り、エスコートを任せる。
短い指のゴツゴツとした手は、ドワーフらしい。
昨日も訪れた謁見の間の扉の前で立ち止まる。
「本来はこの国の重鎮達も参加するんだが、何せ国の状況が状況だ。
中にはアルフォエル達以外は数人しかおらん。
気を張らんで大丈夫だ。」
私を気遣ったザイドの言葉に、緊張が解れる。
ザイドはニカっと笑って見せると、私の手を引いて歩き出した。
昨日アルの後ろを付いて歩いた場所を、今はザイドに手を引かれて歩いている。
本当にアル達以外は3人しかドワーフが居ない。
その事でこの国の大変さが伝わってくる。
玉座には昨日よりもサッパリとしたヴァルシオ国王が座っていた。
昨日はザイドに支えられながら歩いていたが、背筋をしっかりと伸ばし玉座に座っている姿は国王の威厳を感じられた。
ザイドが膝を付き、ヴァルシオ国王に頭を下げる。
私はその横でカーテシーをした。
「これより聖女降臨式を行う。
聖女様、こちらへ。」
その声に私は顔を上げて、前へ出た。
「爾を聖女と認め、これを授ける。」
ヴァルシオ国王が、手にした杖を高くに掲げそれを私へと渡す。
私はその杖を受け取ると振り返り、その杖を胸元に抱き寄せた。
参列した人数が少ない為、パチパチと小さな拍手に迎えられる。
だが、それだけで十分だった。
この国の大変な時に、聖女降臨式を行った。
その事実が大切だった。




