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国王奪還

「聖女だとバレたら不味いからな。

 コウとエマは偽名で紹介する。」


作戦会議の中でアルがそんな事を言い出し、私がコールでエマがエルとなった。

アルが勇者である事さえ認識していない国で、聖女の名前が知られているとも思えないが念には念をだ。

それに前にエマは男の名前だと言っていたから、それを隠す意味もあったのだろう。

私とエマが姉妹で踊り子をしているという設定で、ヴァルシオの城に潜り込む。

顔が全く似ていない私とエマだが、ウィッグとカラコンのお陰で髪と目の色が同じになりそれなら大丈夫との事だった。

その辺は結構適当でいいらしい。




「踊り子とは気の利いた土産だな。」


ゲインドルは上機嫌で私とエマを見る。

その視線があまりにも気持ち悪く、鳥肌が立ったが顔には出さなかった。


「父上!踊り子には最高の歌が必要でしょう!

 俺が歌が上手いと噂のエルフを連れて来てみせますよ。」


「何を言ってるんだ、俺が先に言おうとしてだんだぞ!」


少し若い感じのドワーフがゲインドルに向かってそう言った。

2人ともよく似ている。

双子だろうか?


双子らしいドワーフがワーワーと騒ぎながら、謁見の間を出て行った。

その様子にゲインドルがため息を吐く。


「ワシの息子達だ、気にせんでくれ。

 最近、ワシの跡を継ぐ為にワシの機嫌取りばかりしておる。

 本当に困ったものだ。」


そう言いながらもゲインドルは、まんざらでもなさそうに苦笑していた。

きっと息子達が可愛いのだろう。


2人を外に出してしまった事に、アルが少し焦っているのがわかる。

しかしここであの2人を追ってしまうのは、不自然だ。

作戦が成功した後で、ザイドと改めて話すしかない。


「それよりも踊りを見せてくれるのだろう?

 楽しみだ。」


もうあの2人のことは後回しにするしかない。

今はゲインドルを捕らえる事が優先だ。


私が立ち上がるとエマがリュートを構える。

失敗する訳にはいかない。

この作戦は私が成功させなければならないのだ。


エマが持つリュートから曲が流れる。

どうやらリュートに仕込んだ、演奏の魔力入りの魔力石は上手く稼働したようだ。

私はその曲を聴きながら一度目を閉じ、頭の中にイメージを浮かべた。


同じ曲に合わせて踊る、巫女の姿。

日本で観たゲームの映像を頭に浮かべる。

ゲームのミッションクリアで解放されたその映像は、確か巫女が豊作を願って踊ったものだったと思う。

だが、今はその踊りの理由や効果などは関係ない。

私の頭の中に強く残っていたのは、その巫女の踊り子姿だった。


巫女の姿に自分を重ねる。

イメージと重ねた事で、私の体はその踊りを知っているかのように動いた。

踊りながら緩く風魔法を発動させ、睡眠魔法をその風に乗せる。

謁見の間全てに魔法が行き渡るようにしながら、私は踊り続けた。


踊り始めると同時に起きたドワーフ達のざわめきは、徐々に小さくなっている。

リュートの演奏だけを残し、静まり返った謁見の間で私は舞っていた。

演奏が終わり私も踊りを終えると、ゲインドルは玉座に肘を付いたまま首をガックリとさげ他のドワーフ達もその場に倒れ込んでいた。


「成功だな。」


アルの言葉に、作戦が上手くいったのだと実感する。

アルとエマには事前に睡眠妨害の魔力石を持たせていた。

その為、2人は眠らずに済んでいる。

私はフゥと息を吐くと、その場に座り込んだ。


「はぁ、緊張した。」


「そうなの?堂々と踊ってたように見えたけど。」


エマが私の顔を覗き込み、クスリと笑う。


「って言うかコウって何でも出来るよね。

 まさか踊りまで踊れると思わなかった。

 コウって出来ない事とか、苦手な物ってないの?」


「う〜ん...虫が苦手...かな?」


エマは私の返答に一瞬キョトンとした顔をして、それからアハハと声を上げて笑い出した。


「そっか、虫か。」


「...私、何か変な事言った?」


エマの大笑いの意味がわからず、私はエマに聞いた。

エマは笑い過ぎて、目尻に少し涙が浮いている。


「いや、思った以上に可愛い答えだったから。

 まさかあんなに魔物をバッサバッサ倒してるコウが虫が苦手だと思わなくて。」


そう言いながらも、エマは笑いを堪える事なくお腹を抱えた。

そんなエマの頭をアルがコツンと後ろから叩く。


「あんまり浮かれるな。

 まだヨルト達と合流してないんだ。

 あっちが上手くいかないと、作戦が成功したとは言えないんだからな。」


エマは未だに治らない笑いを堪えて、アルに小突かれた所を大袈裟にさする。

アルはエマからの恨みがましい視線を受けて、ため息を吐いた。


「それなら心配ない。

 こっちも無事に済んだ。」


謁見の間の扉が開き、ヨルトが入って来る。

その後ろにはザイドに支えられるようにして歩いている、ドワーフが居た。

ザイドと似ているし、同じ髪色をしている。

恐らく彼がヴァルシオの国王なのだろう。


「本当に皆、見事に寝ておるな。」


ザイドが周囲に寝転んでいるドワーフ達を見てそう言った。


「ザイド、ゲインドルの息子2人を逃してしまった。

 探し出すか?」


アルはザイドに歩み寄る。

あの双子に私達の作戦がバレた訳ではないが、ここから逃してしまった事をアルは気にしているようだ。

万が一の復讐も警戒しているのだろう。


「ゲインドル息子?

 あの双子の事か?

 あれなら放っておいても問題ないだろ。

 アイツらはバカだからな。」


アルの心配を余所に、ザイドはあっけらかんとそう言った。

ザイドにしてみれば、あの双子は大した脅威にはならないらしい。


「ザイド、そろそろワシにも紹介してくれんかの?」


ザイドに支えられたヴァルシオ国王がそう言うと、ザイドはそうだったなと言って私達を紹介した。


「ベーマール王国第一王子のアルフォエル、今は勇者として聖女に同行している。

 で、こっちが聖女のコウ。

 ヴェルアリーグ教同行者のエマ。

 ネムの国の同行者のヨルト。

 皆、兄上の救出に尽力してくれたこの国の恩人だ。」


ザイドの紹介にヴァルシオ国王が目を細める。


「そうか、魔王封印の為の聖女と同行者達だったか。

 ワシの解放に協力してくれた事、感謝しておる。

 聖女様、せっかくお越し下さったのに国がこんな状況で申し訳ない。

 我が国の同行者である、弟のザイドよろしくお願いします。」


そう言ってヴァルシオ国王は私に頭を下げた。

今までかつて、私が聖女である事をこんなにすんなり受け入れられた事があっただろうか。

私はその事実に感動しながら、ヴァルシオ国王へ頭を下げた。

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