踊りに睡眠魔法を乗せて
私が踊り子の服を着るのに時間が掛かったり、作戦会議に時間を費やしたため、もうとっくに日は沈んでしまった。
この時間では店も閉まってしまった為、エマの踊り子服とリュートは明日、買いに行く事になった。
このメンバーじゃ僕以外に踊り子服を着こなせる奴はいないからね、と言いつつエマは案外踊り子服を着る事に乗り気のように見える。
どちらかと言うと私の方が踊り子服を着る事に抵抗していたように思えた。
「それよりもさっきコウが言っていた、睡眠の魔法を掛けるって出来るのか?」
アルは作戦を真剣に考えているようで、私に確認するように聞いてくる。
「大丈夫だと思うよ、今ちょっと試してみようか。」
そう言って立ち上がった私にアルが慌てる。
「試すってここでか?」
「うん、ちょっと踊ってみるだけ。」
そう言って曲のない中、私は踊り始めた。
日本にいた時に観たアニメの中の踊り子を思い出し、イメージと重ねる。
短い、曲も曖昧にしか思い出せないが、試しに踊るには十分だ。
クルリと回ると綺麗に広がるスカートは、踊り子の衣装なのだと再認識させる。
ふわりと舞い上がる風に乗せて睡眠の魔法を放つと、周囲へと魔法が広がった。
本当に短い30秒程の時間の踊りを終え、私は部屋の中を見渡した。
「...やっちゃった...かも。」
皆、それぞれいた場所で倒れて眠っている。
睡眠の魔法は成功したが、この場で試すのは失敗だったかしれない。
だが、もう夜も遅い。
わざわざ起こす必要もないだろう。
私は前にアルが聖剣を抜いて倒れた時と同じように、皆を風魔法で浮かせて運ぶとそれぞれの部屋へと寝かせた。
翌朝の反応は様々だった。
ヨルトは不思議そうにしていたし、アルはまたかといった反応をしていた。
エマは前にアルを運んでいた状況を思い出したのだろう、少し顔色が悪い。
ザイドは元々いた部屋でそのまま朝を迎えたので何の疑問も持たなかったようだ。
「睡眠の魔法の効果は身をもって知れたな。」
「その...ごめんなさい。」
呆れたように言ったアルに謝罪する事しか出来なかった。
昨日と同じ店でエマの踊り子服を探す。
真剣に自分の踊り子服を見ているエマは、やはり乗り気のように見えた。
「これなんかどうかな?」
ピンク色の踊り子服を自身に当て、エマは私へと振り返る。
柔らかいピンク色はエマにとてもよく似合っていた。
「似合うと思うよ。」
自分の服にピンク色を選ぶあたり、エマは自身の可愛さを十分に自覚しているのだろう。
私の踊り子に紫を選んでくれたのは、エマなりの優しさのようだ。
「羨ましいな。」
口を衝いた様に言葉を口にする。
エマの可愛らしさが羨ましく思えて、思わず口にしてしまった。
「コウ?どうしたの?」
私の突然の言葉にエマが不思議そうな顔をする。
「いや、私もエマみたいに可愛かったらなって思っちゃった。」
誤魔化す事もせず、私は正直にエマに伝える。
エマはう〜んと少し考えてから私に微笑んだ。
「そんなの僕だってコウが羨ましいよ。
僕だって男だからね、カッコよくなりたいもん。」
自分が可愛い事に自信を持っているエマからの予想外の言葉に驚いた。
だが、そうなのかと納得すると私もエマに笑顔を向けた。
「そっか、私達ってお互いに無い物ねだりなのかな。」
「そうかも。」
お互いがお互いを見つめ、クスクスと笑い出す。
そうだ、私達は初めて会った時にお互いの性別さえ信じられなかったんだ。
そう考えると私達は似た物同士なのも知れない。
アルやヨルトとは違う、エマとの距離感が心地よく感じる。
きっと私とエマはお互いにしか理解し合えない、不思議な関係なのだと思う。
私達はエマのピンク色の踊り子服とリュートを買うと、店を出た。
「ヴァルシオの王都まで後少しか。
今日はこの街で休んで、明日、ヴァルシオの王都に乗り込むぞ。」
アルの言葉に皆が頷く。
あれからヴァルシオの国の中を移動して、今はヴァルシオの王都に一番近い街へとやって来た。
この国ではアルが勇者である事や、聖獣であるアミーを連れている事は余り知られていないらしい。
その為、アミーにはかわいそうだが町の外で待機して貰っている。
「俺とコウとエマが客人としてゲインドルに会いに行く。
その間にヨルトとザイドは地下牢の国王を救出にむかってくれ。」
「まかせろ。」
作戦を確認するアルにヨルトが答える。
「アミーは王都へは入らず、外で待機だ。
コウはこの前の睡眠魔法で、ゲインドル達を眠らせてくれ。」
「わかった、アミーには明日言っておくね。」
私はそう言って頷いた。
「コウの睡眠魔法で眠った奴らは、片っ端から縛り上げろ。
眠らなかった奴で抵抗する奴らは、多少痛い目にあわせてでも捕まえるんだ。」
「ゲインドル派の奴らはしつこいからのう。
その位が丁度ええ。」
ザイドは顎髭を撫でながらそんな事を言っている。
「ここからは馬車で移動する。
コウ、アイテムボックスから馬車を出して置いてくれ。」
「うん。」
「明日の朝にはコウとエマは踊り子として、馬車に乗って貰う。」
「やっと僕の踊り子姿を披露する時が来たね。」
エマはそう言って自信満々に笑った。
やはりエマは踊り子服を着る事に乗り気だ。
「作戦はこんなもんか。
明日になったら決行するからな、今日はゆっくり休め。」
アルの言葉を合図に解散する。
と言っても結局は大人しくしていなくてはならない為、宿でゆっくりする位だ。
ここであまり目立って、ヴァルシオの王都に私達の事が伝わってしまうのはマズい。
何故かアルには私が目立たないよう、念入りに注意された。
普段から目立つ行動などしていないのだから、そんに心配しなくてもいいと思う。
結局私達は宿から出る事なく、夜を明かした。




