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踊り子の服

踊り子の服を身につけ、深いため息を吐く。

これは...あまりにも恥ずかしい。


長い丈のフレアスカートの下半身はともかく上半身などほぼ下着だ。

スカート丈は少し短かったので増殖で増やしておいた。

ここでも私の身長は引っかかるらしい。

しかしそのスカートもなぜこんなに透け感のある素材なのだ。

履くまで気付かなかったが、左足にはスリットまで入っている。

これだけ広がるスカートにスリットなど必要ないだろう、悪意を感じる。


自分で着る事にならなければ、きっとこんな不快感もなかった。

他人が着ているのをみれば綺麗だな...位で済んだだろう。

だが、自分が着るとなると話は変わってくる。

綺麗な服だとは思うが、羞恥心の方が先立ってしまう。


本当にこれを着て、皆に披露しなくてはならないのか。


気が重いがここまで来て逃げられる筈もない。

私はアイテムボックスからメイク道具を出し、化粧を始めた。






隣の部屋の扉を前に、ノックするのを躊躇ってしまう。

この扉が開いたら、皆にこの姿を見られる事になる。

往生際が悪いが、中々覚悟が決まらなかった。


「じゃあ僕、声を掛けてみるよ。」


何度目かのノックを試みる為に手を挙げると、目の前の扉が開かれる。

あまりにも遅い私をエマが迎えに行こうと、出て来たようだ。


「...コウ?」


私の姿を上から下まで何度も視線を行き来させ、エマは確かめるように言った。

エマが一瞬、わからなかったのも理解出来る。

今の私は金髪に眼の色は緑だった。


踊り子服に着替えている時、ふと思い出した。

ヨルトが黒髪黒眼は聖女の証だと言っていた事を。

つまり私が踊り子の格好をしても、髪色と眼の色で聖女だとバレる可能性があるのだ。

それに気付いた私は、アイテムボックスに入っていたキャリーバッグから金髪のウィッグと緑色のカラーコンタクトを出し装着した。

メイクもこれまでしてきた聖女のような清楚系ではなく、大人っぽい妖艶な仕上がりにしてみた。


「...どう..かな?」


目を何度も瞬かせ、私を見上げるエマの反応に不安になる。

もしかしてやり過ぎたか?

やはり私には、色気のある女性の格好は無理だったのだ。


「おい、エマ。

 どうした?」


入り口から動かないエマの様子を見に来たアルと目が合う。

アルは私の姿を見ると、何も言わずに固まってしまった。


やっぱりやってしまったのだ。

私を凝視したまま動かない2人に思い知らされる。

似合う筈もないこんな格好を晒してしまった事が恥ずかしい。

自分で鏡を見た時はもしかしたらイケるかも?なんて思ってしまった自分を殴りたい。


「あっ、ごめんなさい...やっぱり私...」


とんでもない物を見せてしまった2人に謝罪を口にする。

恥ずかし過ぎて、1秒でも早くここから消えてしまいたかった。


隣の部屋に戻ろうと、体の向きを変えた私の手首をエマが掴む。

私はビクリと肩を震わせエマを見た。

エマが頬を紅潮させ、私を見上げている。


「すっっっごく綺麗だよ!コウ!」


ぱぁと顔を輝かせ、エマは思ったより大きな声でそう言った。

エマの声に、何事かと入り口に集まったヨルトと目が合う。

そこに遅れてやって来たザイドは目を見開くと、口をニンマリと歪ませた。


「ええのう、ええのう。」


顎髭をさすりながら私の姿を舐めるように見ている。

口元にイヤらしい笑みを浮かべる姿はまるでエロ親父ではないか。


「アルもヨルトも、コウ、すっごく綺麗だよね?」


エマは私の手を引き、部屋の中に入れると2人に言った。

アルもヨルトも赤い顔をしたまま、私と目を合わせようとしない。

そういう反応は余計に恥ずかしくなるからやめて欲しい。


「もう、アルもヨルトもそんな反応しか出来ないなら、コウの踊り子姿は見せてあげないんだから。」


そう言ってエマはベッドからシーツを取ると私の肩に掛けようとする。


「なっ、違うぞ、コウがあまりにも変わったから驚いただけだ。

 その...とても綺麗だと思うぞ。」


「そうだ、オレも驚いただけだ。

 それに、コウが眩し過ぎて直視出来ないんだ。」


アルに続いてヨルトまでがそんな事を言う。

それを言われたこっちも恥ずかしいが、言った本人達はもっと恥ずかしかったのだろう。

2人とも耳まで真っ赤だ。

それに普段、無表情のヨルトのこの表情は珍しい。

エマも2人の反応に満足そうだった。


「じゃあコウが踊り子として潜入するって事で大丈夫だね。」


そう言って笑うエマは策士だと思う。




「アルがゲインドルの所に挨拶に行って、献上品として踊り子のコウを差し出すって作戦。

 ゲインドル達がコウに気を取られているウチに、国王を救出するって訳。」


私の真正面座ったエマが作戦を話す。

ベッドへと腰掛けた私の両隣はアルとヨルトが座っていた。


デレデレと鼻の下を伸ばしたザイドが私の横に座ろうとしたのをアルとヨルトが阻止し、更に真正面に座ろうとしたザイドをエマが横に押しやった結果がこの配置となった。

ザイドは私の右斜め前に座り、少し不満そうにしている。

そんなザイドを無視して、作戦会議は続けられていた。


「そうだな、俺がコウを連れて行くのが自然だろう。」


アルも作戦に賛成のようだ。


「ちょっと待って、私だけじゃ踊れないよ。

 踊りは何とか出来るけど、曲がないと難しいでしょ?」


「確かにそうだな...」


私の意見にアルが悩み始める。

私なりに今回の踊り子作戦については考えてみた。


「エマが踊り子の格好で楽器を弾くのはどうかな?」


「僕?」


「踊り子が私だけだと、私に注目が集まっちゃうけど、エマも踊り子の格好をすれば注意は散漫すると思うんだ。

 踊りながら睡眠の魔法を掛けて眠らせるのがいいと思うんだけど、気付かれたら終わりだからね。

 少しでも成功率を上げる為に、エマも踊り子の格好で潜り込むの。」


「ちょ、ちょっと待って。

 僕楽器なんか弾けないし、それになんで僕なの?」


まさかの私の反撃にエマが慌てる。

自分まで踊り子服を着る事になるとは思っていなかったエマは、あせっていた。


「楽器は何とか出来るよ。

 踊り子の服が売ってたお店にリュートが売られていたから、それに魔法を掛ければ大丈夫。

 それに、このメンバーの中で踊り子の服なんか着れるのエマだけでしょ?」


私の言葉にエマは周りをグルリと見渡し、ため息を吐いた。

確かに自分しかいないと悟ったのだろう。


「コウ、僕がコウに踊り子の服を着るように仕向けたの、怒ってる?」


諦めたように呟いたエマに、私はただ笑顔を返した。

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