襲われた村
ザイドの案内で近くの村まで進んで行く。
「あそこだ、あそこの村に宿をとっている。」
ザイドはそう言って馬を進めるが、何か様子がおかしい。
アミーもそれを察知したらしく、低く唸ると馬達よりも早く駆け出した。
「村が魔物に襲われている!」
私は後ろで何事かと呆然としているアル達へ、大声でそう言った。
この世界の村や町は、全て塀や柵などで囲いをされている。
さらにそれに魔物除けの結界が張られているのだ。
その為、村や町が魔物に襲われる事はほとんどない。
しかし今回のように、結界が壊れたりするとこうして魔物に襲われてしまう村などが出てくる。
ここの村も結界の一部が壊れてしまったらしく、そこから魔物が入り込んでいた。
ワラワラと群れをなして村へ入って来る猿の魔物に、風魔法を放つ。
強い風に吹き飛ばされた猿の魔物に、アミーが噛み付いた。
強すぎる魔法で人や建物を傷付ける訳にはいかない。
私は魔力を調整しながら風魔法を放ち、村人と魔物の距離をとった。
「早く避難をするんだ!」
遅れてやって来たアルが、剣を振るいながら村人を誘導する。
ザイドも慌てた様子で村人を避難させていた。
「村の中だと戦い難いな。」
普段、風魔法を剣に纏わせているヨルトはそう呟いた。
前にヨルトは魔力を調整出来ないと言っていた。
いつも通り全力で魔力を使い剣を振るったら、村への影響が出てしまう。
ヨルトはそれを避ける為に、魔力を使わずに戦っていた。
「ヨルト危ない!」
普段のヨルトなら簡単に後ろを取られる事などなかっただろう。
しかし今は、慣れない魔力を使わない戦いを強いられている。
ヨルトの後ろには2匹の魔物が飛び掛かっていた。
「クッ。」
ヨルトが振り返り何とか1匹の魔物の額に剣を突き刺す。
だがもう1匹は間に合いそうにない。
私は氷魔法で杭を作ると、それを魔物に向かって飛ばした。
氷の杭は魔物の心臓を貫き、民家の壁へと向かっていく。
それを無理矢理風魔法で軌道を変え、地面に向けた。
魔物を貫きそれを縫い止めるように氷の杭は地面に深く刺さった。
地面に少々大きな穴が開いてしまったが、この位は大目に見て欲しい。
「すまない、助かった。」
ヨルトはそう言って剣を構え直す。
アルも中々魔法を使えないエマを庇いながら、戦っていた。
「普段なら大した事ないのに、村の中でこの数だと厄介だな。」
アルの言っている事は最もだ。
素早い猿の魔物を村を傷付けずに戦うのは、大変だった。
しかも数が多い。
「村人を避難させた、ワシも参戦するぞ!」
ザイドが背中に背負っていた斧を構えた。
大振りに振ったその斧に嫌な予感がする。
「ちょっとザイド、待っ...」
ザイドの斧は魔物を3匹程纏めて斬り捨てると、そのまま民家の壁へとぶち当たった。
ミシミシと壁は嫌な音を立てている。
斧を引き抜くとそこには大きな風穴が開いていた。
「ありゃ、やっちまった。」
...今までの私達の苦労が、水の泡になった瞬間だった。
5人とアミーで何とか魔物を倒す事が出来た。
最初の一撃以降、建物を壊さないように気を付けていたザイドだったが、結局3箇所の風穴を開けてしまった。
家の住人は口では大丈夫だと言っていたが、その口元が引き攣っていたのを見逃さなかった。
今回の戦いで、アルとヨルトがお互いを助け合うように協力していたのがとても嬉しい。
ライバルには変わらないのだろうが、仲間として意識しあえた事が今回の助け合いに繋がったのだと思う。
「ここの魔物除けの魔力石が壊れちゃったんだね。」
魔物達が入って来た場所を見て、エマが言った。
この村の結界は魔力石で張られていたようだ。
そのうちの一箇所が壊れてしまったことが、今回の原因らしい。
「じゃあ私が結界を貼り直すよ。」
一つが壊れてしまったという事は、他の魔力石も壊れてしまうかも知れない。
だったら最初から、魔力石を使わずに魔物除けの結界を張ってしまった方が安全だ。
私この村全てを囲うように、魔物除けの結界を張った。
「兄ちゃん、結界師だったのか。」
家の壁を破壊してしまった事を謝りに行っていたザイドが、戻って来るなり私に向かってそう言った。
「結界師?」
「教団にいる、結界を張る事に特化した人達の事だよ。
結界って張るのが難しいから、それ専用の人達がいるの。」
エマの言葉に納得した。
結界師という専門職がある位だ、中々使える人がいないという事だろう。
本来ならその結界師が全ての村や町へ行って、結界を張れるのがベストだがそれが難しい為、魔物除けの魔力石を使用しているのだ。
「ザイド、コウは結界師ではない。
聖女だ。」
アルがザイドへ私が聖女である事を伝えたが、ザイドの顔が訝しげに歪められる。
何を言っているんだといった視線をアルに送った後、私をマジマジと見つめた。
「勇者殿、流石にそれは騙されないぞ。」
ザイドはアルが自分を揶揄ったのだと結論付けて、笑ってみせた。
その様子に案の定エマは笑い、アルは苦笑いを浮かべた。
因みにヨルトは無表情のままだった。




