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襲われる馬車

デルヘン王国の王都を出ると、そこには平原が広がっていた。

遠くに森は見えるが、見える範囲には動物もいない。

馬車が通るせいでなんとなく道になっている位で、特に整備などはされていないようだ。

私はこの世界に来てからの時間をほぼ城で過ごしている。

聖女の付き添いで城下町へは数回行ったが、それだけだ。

情報が少ない。

この世界に魔物はいるのか。

盗賊や山賊はいるのか。

この馬車が襲われる心配はないのか不安だった。


魔法はあるだろうと予想している。

なんといっても、自分は召喚されたのだ。

それにアイテムボックスもある。

どの程度魔法が浸透しているかはわからないが魔法は存在するだろう。

後、異世界の定番といったら...魔王だろうか?

わからない事は多いが、何せ周りは敵だらけだった。

聞くことも叶わなかっただろう。


当面の心配はこの馬車の安全性といったところか。

だがそれもあまり心配は必要ないのかも知れない。

道には何本も馬車が通った後があるし、この馬車に乗せてもらい行き先を言っても御者は特に何も言っていなかった。

危険があったら御者も命に関わるのだから、止めたり断ったりするだろう。

他の心配事は馬車料金が足りるか。

それが一番の心配事かも知れない。


それから3時間程経ったであろうか?

馬車が止まった。

窓の外を見るとどうやら森の中らしい。

何故こんな所で止まるのだろう?

御者に確認しようと思うと同時に扉が開いた。


「貴族か、コイツは高く売れそうだな。」


そう言って扉を開けた男は不躾な視線を私に向けて来る。

日に焼けた黒い肌、手入れのされていない髪や髭。

黄ばんだ歯を見せながらニヤニヤといやらしい目で見て来る。


盗賊だ。

この馬車は盗賊に襲われてしまったのだ。

御者はどうしたのだろう。

まさか殺せれてしまったのか。

そう思ったが、盗賊の後ろにその姿を見つける。


「それに黒い瞳だ。これも珍しいから値段が上がるぞ。」


なる程。

私はまんまと嵌められたらしい。

この御者が盗賊の仲間のようだ。

わざわざ私を盗賊の所まで案内してくれたのだからそうとしか考えられない。

私は静かにアイテムボックスから剣を出した。

相手が何人かもわからない。

しかも城の時のように逃げられもしないだろう。


私は初めて人を殺すのか?


とてもではないがそんな覚悟は決められない。

だが、覚悟を決めないと殺されるのは自分。

すぐに殺されなかったとしても、いい死に方は出来ないだろう。


「なんだ?剣なんか構えやがって。やる気か?」


一番手前にいた男が剣を抜く。

と、その時外から叫び声が聞こえた。


「さっ...サーベルタイガーだ!」


その声と同時に馬車の外から次々と男の声が聞こえる。


「おっおい!さっさと殺せ!」


「こっちに来るなー!」


「ぎゃーーー!」


外で盗賊とサーベルタイガーが戦っているであろうことはわかるが、外がほとんど見えないこの状況では迂闊に外へ出る事も出来なかった。

扉を開けた男も仲間の加勢に行ったのだろう。

開けられたままの扉からは少しだけ外が見えた。

その僅かに見える外の景色を何かが横切る。

早すぎてよく見えなかったが、あれがサーベルタイガーだろうか。

盗賊達が全員やられたら、今度は自分があのサーベルタイガーと戦わなくてはいけない。

とても勝てる気はしなかった。

剣を持つ手が震える。

外から聞こえる声は明らかに少なくなっていた。

扉から僅かに見える外には盗賊の亡骸が転がっている。

初めて目の当たりにする人の死に更に恐怖心が煽られる。

鼓動が早くなり呼吸が浅くなるのが自分でもわかる。

額から滲み出た汗は頬を伝い顎から落ちた。

汗は出るのに震えが止まらない。

暑いのか寒いのかさえ自分でわからなかった。


外の音が止んだ。

もう誰の声も聞こえなかった。

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