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ネムの国の同行者

ネムの国での聖女降臨式の日になった。

降臨式に参加するのはほぼ、昨夜の食事会に参加していた者達らしいのであまり緊張せずに済みそうだ。

今日のエスコートはヨルトが行うようだ。

各国での聖女のエスコートは、その国の同行者の仕事らしい。


私はアイテムボックスから聖女の衣装とメイク道具を取り出す。

ここでも私は自分の準備は自分で行うことにした。

ここにはコルセットを何がなんでも付けようとする侍女もいないので安心である。

実はあの侍女にコルセットを持たされたのだが、1人で付けられる筈もなく今はアイテムボックスの中に封印してある。

確かにお腹周りにゆとりが出来るのは魅力的だが、あんな苦しい物をわざわざ付けたいとは思えなかった。


前と同じようにメイクや髪のセットを終えて、衣装を身に付ける。

今回は降臨式の会場も畳の上なので、靴も履く必要がない。

私はベーマール王国で貰ったティアラを頭に乗せて、準備を終わらせた。




「コウ、ヨルトだ。

 準備は終わったか?」


襖の外から声を掛けられる。

引き戸をノックする筈もなく、外から直接掛けられた声に少しだけ驚いた。


「準備は済んだから、入っても大丈夫だよ。」


私の返事にゆっくりと襖が開かれる。

部屋の中に居る私の姿に、ヨルトが微妙に目を大きくさせた。

相変わらずの無表情だったが、その目が僅かに大きく開かれた事で驚いている事がわかる。

ヨルトにその表情をさせられた事に、ちょっと気分が良かった。


「...本当に女だったんだな。」


あまりにも失礼な事を真正面から言われ、ムッとする。

文句の一つでも言ってやろうと思ったが、ヨルトが言葉を続けた事でそれも出来なくなってしまった。


「やはり伝承通り、聖女は美しいな。」


真顔のままサラリとそんな事を言われると、こっちの方が恥ずかしくなってしまう。

聞き間違いかと思う位、何も変わらないヨルトの表情に聞き返そうかとも思ったが、もう一度同じ事を言われたらどうしたらいいかわからない。

結局私は何もいう事が出来ず、ただ黙ってしまった。


「まだ時間がある。

 少し話さないか?」


ヨルトはそう言って畳に腰を下ろすと、椅子に座った状態の私を見上げた。


「この世界で黒髪黒眼は聖女の証と言われている。」


「そうなんだ。ヨルトの髪も眼も黒っぽいけどね?」


「ここネムの国は、これまで多くの聖女が永住の地に選んできた。

 聖女の子孫達は黒に近い色の髪や眼を持って生まれてくる。

 だからこのネムの国では、黒に近い髪や眼の者が多い。

 オレの祖先にも聖女がいるから、オレの髪や眼もこの色になった。」


ヨルトは無表情だが無口ではないようだ。

話そうと言われたのに、無口な人だったらどうしようかと思っていたが心配は要らなかったらしい。


「本当の黒は美しいな。」


私の目を真っ直ぐに見つめてヨルトはそう言った。

ここまで真っ直ぐに見つめられた事などなく、どうも居心地が悪くなる。

私は照れを隠すようにヨルトから視線を外した。


「奥ゆかしいな。

 コウは元々、黒髪か?

 聖女様は不思議なもので、ここの世界に来た時は違う髪色でも段々と黒くなると言われている。」


「それはきっと、髪を染めていた人達だね。

 この世界で髪を染められなかったから、段々地毛に戻ったんだよ。」


「染める?」


「まあ簡単に言うと、髪に色を付けるって感じかな?」


まさか聖女達の髪色で、こんなに会話が続くとは思わなかったがヨルトには興味深い話たっだようだ。


「聖女様達の世界は不思議な事をする。」


私にしてみれば、魔法が使えるこの世界の方が不思議だがヨルトが言いたいこともわかる。

この世界のカラフルな髪色の人達からみたら、髪の色を変えるなど不思議な事なのだろう。


「ヨルトは次期頭首なんでしょ?

 って事はこの国の王子なの?」


私はふと湧いた疑問をヨルトに聞いてみた。

ヨルトは無表情だが、案外話しやすい。


「いや、ネムの国は王政ではないからな。

 オレは頭首の息子ではない。

 次期頭首は強い者がなる。」


「そうなんだ、通りでヨルトと頭首様あんまり似てないと思った。」


四角く厳つい顔の頭首とヨルトは全然似ていなかった。

無表情で切れ長の目のヨルトは、冷たい印象を受けるが厳つくはない。

輪郭からして違い過ぎる2人に、一国の主人には色々あるのだろうと触れずにいたが親子でないなら当たり前の話だ。


「オレの強さはネムの国が保証する。

 コウは安心して守られていてくれ。」


ヨルトの言葉に思わず苦笑する。

正直、守られるどころか私は最前線で戦っている。

ヨルトの想像上の聖女様は、これまでの聖女様同様か弱いイメージなのだろうと思った。

一緒に旅を始めればわかるが、ヨルトの聖女様像はきっと打ち砕かれる事になる。

それを思うとなんだ申し訳ない。


「...そっか、それは心強いね。」


ヨルトにはまだ聖女様に夢を抱かせてあげよう。

数日後には現実を知ってしまうのだが、私にはまだヨルトの聖女様像を壊す事が出来なかった。

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