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懐かしさを感じる国

アルの言った通り、アミーを連れて町や村に行くと徐々に人々の反応が変わってきた。

最初は魔物だ!と驚いていた人達にもアミーが聖獣だと浸透していくと、アミーの姿を見て勇者様達だ!と認識するようになった。

相変わらず私が聖女である事を知っている者いないが、一々驚かれる事もなくなったので良かったのだと思う。


そうこうしている内に、国境へと差し掛かった。

今回は正式な手続きを経て、国境を渡る事になる。

なんだかんだで正式に国境を渡るのが初めての私は、些か緊張していた。


「ようこそネムの国へ。」


なんの問題も起こらず、スムーズに国境を越えるられるとホッと胸を撫で下ろす。

その様子を横で見ていたエマに笑われてしまったが、私にとっては初めての正式な国境超えだ。

感慨深いものがある。

ここでもアミーの噂は広がっていたようで、魔物だと騒がれる事はなかった。




国境を越えて暫く進むと、日が暮れてきた。

近くにあった村に寄り、その村の中を見渡す。

私はそこに広がる風景に驚いた。

村全体が、昔の日本のような風景なのだ。

長屋というのだろうか、瓦屋根の横長の建物が連なっている。

障子などこの世界では見る事がないと思っていたが、目の前には当たり前のように並んでいた。


「これって...」


「懐かしいか?」


そう言ったアルの顔がいたずらが成功した子供のように笑っている。

服はこの世界の物を着ている人ばかりなので違和感はあるが、確かに懐かしいと思った。


「ネムの国はこれまでの聖女達が、一番多く残った国なんだ。

 その聖女達が過ごしやすいようにと、建物などは建てられたからな。」


「そうなんだ。」


私が生活していた日本とは違うが、安心感がある。

これでは異世界転移ではなく、タイムスリップしたようだ。

ぼんやりと街並みを見ていると、1人の男性が道に立ち塞がっている事に気付いた。


「勇者様でしょうか?」


その顔には緊張が見られる。


「そうだが。」


アルの返事に男性は息を吐いた。


「聖獣様を連れているという噂は本当だったのですね。

 村長が屋敷にお招きしたいそうです。

 お越し頂けますか?」


「わかった、伺おう。」


ここに来るまでの町や村でもそうだったが、勇者であり王子のアルは毎回こうしてお呼ばれされる。

あちらとしても呼ばない訳にはいかないのだろうが、私達としては普通に宿屋に泊まれればそれでよかった。

だがそういう訳にもいかない。

お呼ばれされた後は、必ずと言っていいほど屋敷に泊まる事になる。

アミーを連れている以上勇者だと早々に知られるし、そうなると気軽に宿屋に泊まる事さえ出来なかった。

今後もそれが変わる事はないだろう。

慣れるしかないのだが、正直、野宿の方が気が楽だったりする。

きちんとした布団で休めるので体は楽になるが、気疲れしてしまう。

まあこればかりはどうしようもない事だった。






ネムの国へ入って数日後、私達はネムの都へと到着した。

ネムの国は王政ではないらしく、王都ではなく都と呼ばれているらしい。

ここにはネムの国を治めている頭首様と同行者がいる。

他国の同行者がどんな人物なのか、楽しみと不安の両方が心を占めた。


「ようこそおいで下さいました、アルフォエル様。

 頭首様がお待ちです。」


都の門番がアルを見るとそう言って頭を下げた。

ここにもアミーの噂は広がっているようで、門番もアミーをチラッと見ただけで何も言わない。

私達は門番に案内されるまま、都の中を歩いた。



都の中もやはり昔の日本を思わせる建物が並んでいる。

しっかりガラスが入ったりと現代風なアレンジは加わっているが、日本らしさが感じられる。

こんな昔の日本が再現されているなんて、昔の聖女はいつの時代から召喚されたのだろうと考えてしまう。

ここでも人々の服装はこちらの世界の物を着ているようだ。

だが、ベーマールやデルヘンで見たような貴族の格好の人は見かけない。

どうやら貴族の格好では、畳での生活は難しかったらしい。

見かけるのは平民服の人達ばかりだった。

この都の貴族達はどんな格好をしているのだろうか?

そんな事を考えている内に、頭首のいる城までたどり着いてしまった。


城の門が開け放たれ、私達はその門を潜る。

そこには日本の城があった。

周りにいる恐らく騎士であろう人達は皆、武士のような袴を着ている。

ここの国の貴族達は袴姿のようだ。


「アルフォエル様、頭首様の元へご案内します。

 こちらで靴を脱いで下さい。」


城の中に入ると、門番の男は下がり入れ替わりで袴の男が現れる。

ネムの国では日本と同じく玄関で靴を脱ぐ。

これまで訪れたネムの国の町や村でも、玄関で靴を脱ぎ建物の中に入っていた。

だがそれはこの世界では珍しい。

その為、わざわざこうして靴を脱ぐように促されたのだろう。


廊下を歩いていると、懐かしい藺草の香りがした。

廊下に並ぶ襖の奥にはきっと、畳が広がっているのだろうと想像がつく。


「頭首様、アルフォエル様がご到着されました。」


城の奥まで進み、廊下の正面にある襖を前に袴の男は声を掛けた。


「入れ。」


中から返事が聞こえると、襖が開かれる。

その先には広い部屋に畳が広がっていた。

部屋の奥の一段高くなった高座の上に座った男がいる。


「アルフォエル殿、お待ちしておりましたぞ。」


肘置きから腕を下ろし、男は姿勢を正すとアルフォエルを見据えた。

どうやらこの男がネムの国の頭首のようだ。

私達は中へと案内されると、頭首の前に腰を下ろした。

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