表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/141

聖獣の扱い方

小百合の眠る地下室から、地上の小屋へと戻って来た。

アミーがスリスリと顔を擦り寄せてくるのが可愛くて、ヨシヨシと撫でてあげる。


私の我儘で寄り道をしてしまったが、この後は他国の同行者の元へ急がなくてはならない。


「アルもエマも付き合ってくれてありがとう。」


笑顔でお礼を言うと、2人も笑顔で頷いてくれる。


「じゃあ、行くか。」


アルが小屋から出て馬に跨る。


「これから、何処に向かうの?」


「ネムの国だ。この国の隣にある人族の国に行く。」


「そうか、わかった。」


私は隣に並んでいるアミーをギュッと抱き締めた。


「アミーまたね。」


そう言って馬の元へ向かう私をアミーが追いかける。


「?

 どうしたの?」


アミーは小さく鳴くと上体を低くする。

まるで乗れと言っているようだ。


「もしかして、一緒に行ってくれるの?」


アミーは喉を鳴らし肯定した。

正直、アミーが一緒に行ってくれるのは心強い。

だが、それを私の独断で決める事はできなかった。

どうしようかとアルとエマに視線を向ける。


「いいんじゃない?

 聖獣が一緒だなんて頼もしいじゃん。」


「アミーが人に害を為さないのは知ってるからな。

 問題無いんじゃないか?」


エマに続いてアルもアミーが同行する事を了承してくれる。


「アミー、これからよろしくね。」


エマはそう言って、アミーを撫でた。





アミーという予想外の仲間を得て、私達の旅は再開した。

アルとエマの乗る馬の速度にアミーが合わせて走る。

その様子が、アミーが2人を仲間だと認めているようで嬉しかった。


私が乗って来た馬を近くの町に預ける事になり、寄ることにした。

私が乗っていたアミーを見て、町の人達が騒然とし魔物だと騒ぎ出したが、なんとかアルが落ち着かせる。

アルがこの国の王子だと説明し、アミーが聖獣であり今は魔王封印の旅の途中であることを話した。

正直、この場で私が聖女である事を話さなかったのは正解だと思う。

騎士の格好の私が聖女だと言ったところで信じられない者の方が多いだろう。

一々説明するのも面倒なので、余計な事は言わない方がいい。

町の人達も王子であるアルの言う事の信憑性は高かったようで、騒ぎは何とか落ち着いた。

アミーが聖獣である事は理解したが、見た目が魔物のアミーには怖くて近付けなかったようで皆、遠目で見ている。

だがその目には、崇敬の意が感じられた。


皆が落ち着いた所に遅れるように、この領地を治めている伯爵が到着した。

額の汗をハンカチで拭いながら、一応の駆け足で到着した彼は、彼なりに急いで来たのだと思う。

なんのお達しもなく突然訪れたにも関わらず、伯爵は私達を屋敷に招いてくれた。

あれだけ騒がしくなってしまった町の中に、置き去りにする訳にもいかなかったのだろう。

私達はそれに甘えて屋敷にお邪魔する事にした。


「アルフォエル様が勇者になった事は、この町でも聞き及んでいます。

 まさか聖獣様を連れてらっしゃるとは思いませんでしたが。」


伯爵は人の良い笑顔をアルに向ける。

応接間に案内された私達を紅茶でもてなし、伯爵はアルの顔色を伺った。


「突然すまないな。

 町の者達も聖獣で驚かしてしまって悪い事をした。」


アルの言葉に伯爵は慌てたように手を振る。


「いえいえ、とんでもございません。

 ところで、この町にはどのようなご用件で寄られたのでしょう?」


伯爵の疑問は当然だ。

王都からさほど離れていないこの町に、出発したばかりであろう勇者が訪ねて来たのだから。

RPGのゲームのように全ての町や村に寄る事などない。

伯爵もまさかこの町に寄るとは思ってなかったのだろう。


「馬を預かって欲しくてな。

 一頭馬が余ってしまって、本来なら王都に戻したいところだが先を急がなくてならんしな。」


「さようでしたか。

 ではうちの者に王都まで届けさせましょう。」


「助かる。」


アルはそう言うと立ち上がった。


「もう行かれるのですか?」


「ああ、日も暮れてきたし宿を探さなくては。」


「それでしたら、この屋敷にお泊まり下さい。

 アルフォエル様を町の宿に泊める訳には行きませんので。」


確かに自国の王子と知っていながら、町の宿で他の旅人と同じ扱いなど出来ないだろう。

伯爵は近くのメイドに声をかけると、指示を出しこちらに向き直った。


「部屋と夕食の準備が出来るまで少々お待ち下さい。」


結局伯爵の屋敷に泊めてもらう事になり、私達は伯爵と談笑して時間を過ごした。




夕食を終えて部屋へ案内されたが、気になる事がありアルを呼び止める。


「アル、アミーの事なんだけど。」


「どうした?」


「今後もこうやって町の中に連れて来て良いのかなって。

 町の人達も怖がっちゃうし、町の外で待っててもらった方がいいかな?」


アミーが人を襲わない事はもちろん知っているが、不用意に人を怖がらせるのも気が引けた。

アミーには可哀想だが、私達が町にいる間は町の外にいてもらう事も選択肢としてあり得る。


「いや、アミーは今後も一緒に町や村に入って大丈夫だ。

 その内、俺が聖獣を連れている事も噂として広がるだろう。

 自国なら多少の騒ぎも収められるが、他国ではどうなるか分からない。

 他国に入る前に噂が広がるように、今後もアミーは一緒に居よう。」


アルの言葉にホッとする。

アルがアミーと一緒にいていいと言ってくれた事に安心した。

今は屋敷の庭で過ごしているが、アミーが少しでも近くにいてくれると私も嬉しい。

私は安心するとアルにおやすみと言い、部屋へと入った。



翌日の朝になり、庭にいるアミーの元に行った私達は驚かされる。

アミーの前には町の人々から捧げられたお供物が、山積みになっていた。

昨夜の私の心配は無用なものだったようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ