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国外逃亡試みる

何がどうなってそうなった!?

私の中には疑問符だらけだ。

勝負を挑まれて戦った。勝った。それが聖女付き騎士予定の騎士だった。

事実はそれだけだ。

なのになぜ、聖女の為に戦った事になっている?

頭が真っ白になりそうだった。

でも、ここで真っ白になる訳にはいかない。

このまま聖女に流される訳には行かないのだ。


「せっ、聖女様、おやめください!」


私は抱きついてきた聖女を無理矢理引き剥がす。


「何故?コウ。あなたも私を好きなんでしょう?

 お香も効いて来るはず。我慢しなくていいんだよ?」


お香?我慢?

何を言われているのかさっぱりだ。

だが、聖女の誤解は解かなくてはいけない。


「聖女様...私は、私は女です。」


しーんと部屋が静まる。

目が点になるとはこの表情のことか、と思ってしまうような顔を聖女はしていた。


「お..んな?」


「聖女様、申し訳ありません。騙すつもりは無かったのです。

 ですが結果として騙す事になってしまいました。」


呆然とする聖女にただひたすら謝罪する。

と、聖女は突然大声を上げ始めた。


「私を騙していたのね!この裏切り者!

 男だと思って...顔がいいから助けてやったのに!」


聖女の大声を聞いて、人が集まって来る。


「聖女様!如何された!」


「コイツが...コイツが私を襲って来た!

 今すぐ殺して!」


聖女の言葉に周りが凍りつく。

聖女からの視線が痛いほど刺さる。

怒り、悪意、殺気。

その全てを含んでいた。


「貴様!聖女様になんて事を!」


駆けつけた兵士に怒鳴られる。


ああ、そうだった。

私には味方など居なかった。

ここで今まで殺されずに済んでいたのは聖女のお気に入りだったから。

その聖女にも殺せと言われてしまった。

もう自分を助けてくれる者などいないのだ。


兵士が剣を向けてくる。

ここに召喚されて、私は何度刃を向けられればいいのだろうか。

明確な殺意に恐怖はある。

だが、私は自分が戦える事を知ってしまった。

鞘付きのままの剣を構える、兵士の立つ扉の方へ走る。

流石に人を殺す度胸など私のはない。

鞘のままの刀で兵士を殴ると、私はそのまま部屋を出た。

今日も自分の中のイメージに体がピッタリと重なる。

やはりこれは偶然ではない、詳しい事はわからないが私の能力だ。

廊下にも騒ぎを聞きつけた兵士が何人か集まっていた。


「そいつは反逆者だ!殺せ!」


後ろから私に殴られた兵士が倒れたまま大声で叫ぶ。

目の前にいた兵士が剣に手を掛けたのが見えた。

その兵士が抜刺する前にみぞおちを剣の柄で殴る。

よろけた隙を見て横をすり抜けた。

長い廊下を走る。

後方から何人か追いかけて来ているのがわかった。

捕まる訳にはいかない。

捕まったら、問答無用で殺される。

必死に走った。

と、前からも兵士が走って来るのが見えた。

挟み撃ちにされてしまった。

でも、止まる訳にはいかない。

私は上体を低くすると、前から向かって来る兵士の足元めがけてスライディングした。

兵士はそのまま前のめりに転がる。

私はその間を通って前に進んだ。

後ろから追って来ていた兵士も、転がった兵士に足を取られ覆い被さるように転んだのが見えた。

ひたすらに走り続けると、ようやく出口が見える。

ここまで来るとまだ騒ぎを知らない兵士達は、何事かと周囲を見渡すだけだった。


「聖女様が襲われた。私は今その者を追っている。

 道を開けろ!」


私がそう言うと、兵士達は道を開け、更に扉まで開けてくれた。

城を出て城下町へと来た。

私は人気のない路地裏へと隠れた。


「アイテムボックス!」


アイテムボックスからキャリーバッグを取り出し、更にその中から女性キャラクターの衣装を出す。

人目がない事を確認してから、私は騎士の服から着替えた。

更に金色のウィッグを取り出して被る。

メイク道具を出して、簡単な化粧をする。

私は本当は友達に見せる予定だった、女性キャラクターの衣装に身を包んだ。

この衣装ならきっとこの世界でも浮く事はない。

令嬢のような姿の自分を小さな手鏡で一生懸命に確認した。

おかしなところはない、はず。

この服で、簡単だが女性らしいメイクもしている。

ちゃんと女性に見えるだろう。

...というか女なのだ。

キャリーバッグをアイテムボックスに仕舞うと、私はそっと路地裏から出た。


「居たか?!」


「なんとしても探せー!」


城の騎士や兵士達が城下町に出て来て私を探している声が聞こえる。

大丈夫...きっとバレない。

私はそう自分に言い聞かせて、静かに歩いた。


これからどうするべきか。

街中に私を探している騎士や兵士がいる。

この国に居るのは自分にとって危険だ。

だが、どうやって隣国へ行けばいいのか。

隣国は安全なのか。

私はこの世界を知らなすぎる。

歩いていると馬車が目に入った。

馬車なら行けるのだろうか?と思ったが当然の事ながら馬車など持っていない。

思案しつつその馬車を目で追っていると、平民のような格好をした何人かが乗り込んでいく。

日本でいう、バスのようなものだろうか。

自分もその馬車に乗ればと思ったが、令嬢の格好で乗り込むのは目立ってしまうだろう。

しばらく辺りを観察して居ると、どこかの令嬢らしき人物が先程の馬車より立派な馬車へ乗り込んだ。

すると御者が客車の令嬢に向かってどちらまでですか?と聞いていた。

これはおそらくタクシーのようなものではないだろうか?

その後も様子を見ていると、どうやら家紋の入った馬車は自家用車、何もかいていないものはタクシーだろうと思える。

私が何もかいていない馬車へ近づくと御者が扉を開けてくれた。


「どちらまでですか?」


「隣国へ行きたいのだけど。」


「隣国とおっしゃいますと、ベーマール王国でしょうか?」


「ええ。」


どうやら隣国はベーマール王国というらしい。

御者が馬に鞭を入れる音が聞こえると、馬車は静かに動き出した。

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