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聖女と聖獣

ベーマールの王都を出た私達が最初に向かったのは、小百合の住んでいた森の小屋だった。

ノーラの剣を小百合に早く渡してあげたくて、私がアルとエマに寄り道を頼んだのだ。

アルは私の思いを知っていたし、エマも昔の聖女の住んでいた所に興味があると言う事で了承してくれる。


今は私がアミーと狩りをしていた森の中だ。

勝手知ったる森の中を迷う事なく進んで行く。

結界を通ると、エマは何か納得した様子だった。


「見事な結界だね。

 流石、昔の聖女様。」


エマは関心した様にそう言って、くるりと辺りを見渡した。

その発言は流石魔道士といった所か。

アルもセオンも結界を通った時に違和感位は感じるが、ここまではっきりとはわからなかっただろう。

私も初めて通った時は違和感しか感じなかったので、同じ様なものだが。


「着いたよ。」


「...懐かしいな。」


小屋に到着すると、一時をここで過ごしたアルは変わらない小屋を見てそう言った。

私が去った後も何も変わらない。

まるで時間の経過がない様なこの小屋は、相変わらず暖かい雰囲気だった。


「ただいま。」


私は扉を開けると中へと進み、アルとエマもそれに続く。


「アミー!」


小屋の中でお座りの姿勢で、私の帰りを待っていてくれた様なアミーに駆け寄った。

ギュッと首に抱き付き、柔らかな毛並みに顔を埋める。

アミーもおかえりと言ったように、喉を鳴らした。


「...聖..獣?」


アミーを初めて見たエマは驚きの表情をしている。

しかしこれまでのアルやセオンと違って、魔物であるアミーに驚いている訳ではなさそうだ。


「え?」


エマの言葉が聴き慣れなくて、私は聞き返す。


「そのサーベルタイガー、聖獣だよ!」


はっきりとしたエマの声に聞き間違いではないとわかる。


「聖獣って、あの伝説のか?」


アルもいまいち信じられない様子でエマに確認をした。

エマはまだ自分でも信じられないらしく、ぎこちなく頷く。

そんな2人の様子など、どうでもいいようでアミーは私にスリスリと顔を擦り寄せた。




「あのね、聖獣になれるのって結構厳しい条件がある訳。」


ダイニングテーブルを囲み座った私達に、エマが説明する。

お茶を飲みながら、まったりと聞く話ではないかも知れないが、とりあえず落ち着いて話を聞く事を優先した。

日本での記憶のおかげで、何となくの知識はあるもののこの世界では聖獣など初めて聞く。

私もアルも黙ったままエマの言葉に耳を傾けた。


「まず聖獣は魔物が聖なる力を手に入れた姿なんだって。

 でもそもそも魔物が人に懐く事はないから難しいんだけど、その魔物に聖女が聖なる力を送り続けると聖獣になるって言われてるんだ。」


「聖なる力を送り続ける?

 それって聖魔法って事?

 でも小百合さんの日記にはアミーに数回、治癒魔法を使った位しか書いてなかったよ?」


「いや違うんだ、聖なる力ってのは愛情だって言われてる。

 聖女が魔物に愛情を注ぐなんて普通はないでしょ?

 だから聖獣は伝説の生き物なんだ。」


エマの言葉にアミーを見る。

アミーは小百合の愛情を沢山受けていた、それが証明されたようで嬉しかった。


「まさか聖獣に会えるとはな。

 コウもそうだが、ここに住んでいた昔の聖女にも驚かされてばかりだな。」


どうやら私の規格外は小百合譲りらしい。

呆れたように見えるアルだが、その目は優しかった。




アミーが聖獣だった事実に驚きはあったが、ここへ来た本来の目的は小百合にノーラの剣を渡す事だ。

私は台所の隅に置いてある、玉ねぎやにんじんの入った箱をよけると小さな扉を開いた。


「こんな所に隠し階段があったとは。」


前回来た時には気付かなかった階段の存在にアルは呟く。

私が階段を降りると、アルとエマも後ろから付いて来た。




「何ここ?すごく広い...」


地下に着いたエマがそう言って息を飲んだ。

広く明るいその場所は、とても地下とは思えない。

私もベーマールの王都に行ったから気付けたが、ここはこの世界では異質なものだった。

日本にいた時の感覚で、この場所を認識していたがこんな地下室はこの世界では存在しない。

ここは間違いなく小百合が作った場所だった。


「奥に小百合さんが眠ってる部屋があるから。」


言葉を失ったまま立ち尽くす2人に声を掛ける。

カツンカツンと3人分の足音が響くその場は、それ以外はとても静かだった。

ガラス扉を開け、小百合の元へ歩み寄る。


「これが昔の聖女様。

 なんか、ただ眠ってるだけみたい。」


エマが一人呟いた言葉に返事はない。

皆が黙って小百合を見つめていた。

私はアイテムボックスから、ノーラの剣を取り出す。


「小百合さん、ノーラさんの剣を持って来ました。

 小百合さんにお返ししますね。」


私はそう言って胸で組まれた小百合の手に、ノーラの剣を預けた。


すると、辺りが一気に白くなる。

眩しくて何も見えないが、怖さは無い。

アルもエマも驚いたようだったが、特に声は上げなかった。

何も見えないはずの視界に、小百合の気配を感じる。

そしてその横には、1人の男性が寄り添っていた。

ノーラ?

顔など知らない筈のノーラ姿が容易に想像できる。

そんな筈がないと思いながらも、その場には確かに小百合とノーラが居た。


『...ありがとう...』


そう言った女性の声が聞こえると、真っ白な光は消え周りが見えるようになる。

横たわったままの小百合の目尻には一筋の涙が浮かんでいた。


「小百合さん、喜んでくれたよね?」


「ああ。」


私の問い掛けにアルが答える。

その表情は少し興奮した様に、赤みが差していた。

私だけじゃない、この場にいたアルもエマも私と同じ体験をしたのだろう。

不思議な体験だったが、それを口に出す者は居ない。

皆がそれぞれ、心の中で今の出来事に思いを馳せていた。

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