パレード
「よし、ちゃんと聖女の格好で来たな。」
腕を組んで仁王立ちをしたアルは、満足そうにうんうんと頷いている。
アルの引き継ぎが無事終わり、今日、私達は魔王封印の旅に出発する。
その際に国民に聖女のお披露目を兼ねた、出発のパレードが行われる事になった。
城から王都の門までの道を、聖女が馬車に乗り国民に顔見せをする。
勇者のアルや同行者のエマ、それに騎士団の面々に付き添われてのパレードは沢山の人に見送られての出発になる。
その後の旅に差し支えないように、騎士の格好で参加しようと考えていた私に、アルが服装を昨日確認してこってり絞られた。
国民は騎士を見たいんじゃない、聖女が見たいんだと言われ今日は聖女の格好で来るように言われた。
「コウって聖女様の時、本当に綺麗だよね。」
エマがうっとりとした視線を向けて私に言う。
「ありがとう、エマ。」
ニッコリと笑ってお礼を言うと、エマは少し照れたように笑った。
「本当に綺麗だね。
皆んな、コウの聖女様姿に喜ぶと思うよ。」
ふわりと笑顔のままそう言ったセオンに、私も笑顔を返す。
「セオンもありがとう。」
皆が口々に褒めてくれるのが、なんだか恥ずかしい。
熱くなってしまった頬を冷やすように手団扇で扇ぐと、アルと目が合った。
「アルも何か言ってあげればいいのに。」
エマがアルに向かってそう言うと、アルは私から目を逸らした。
「俺は降臨式時に言ったからいいんだ。」
「...なにそれ。
今日のコウに何か言ってあげなって言ってんの!」
アルの態度にエマが呆れたようにしている。
「そうですよ、せっかく綺麗な格好してるのに何も言わないなんて失礼ですよ。」
エマに加勢したセオンの言葉に、アルはグッと息を飲んだ。
「それに今日は聖女の格好で来いって言ったの、アルじゃん。」
エマはアルの背中をグイグイと押すと、アルを私の目の前まで連れて来た。
再びアルと目が合うが、顔を赤くしたアルはすぐに目を逸らしてしまう。
「その...綺麗だ、コウ。」
そっぽを向いたまま絞り出すようにアルはそう言った。
「あの...あっありがとうございます。」
何故だろう。
皆んなが綺麗だと言ってくれているのに、アルの言葉が特別に感じるのは。
アルの言葉にドキドキと心臓が早まる。
アルに言われた言葉を思い出すだけで、口元が緩んでしまった。
「ほら、国民が待っているんだ。
早くするぞ。」
そう言ったアルは耳まで赤い。
そんな様子のアルに嬉しさを感じつつ、馬車に乗り込んだ。
オープンカーのように屋根のない馬車からは、沢山の国民の姿が見えた。
微笑みを浮かべながら、淑やかに手を振るとあちこちから聖女様!と声を掛けられる。
紙吹雪の代わりに沢山の花びらの光魔法が放たれ、街中が色とりどりに輝いた。
この日の為に、花びらの光魔法の魔力石が沢山売られていたのは知っていたが、こんなに綺麗な景色が見られるとは思ってもみなかった。
あちこちで花びらが弾け、キラキラと光の粒が降り注ぐ。
自分の為に、ここまで皆が祝ってくれるのが嬉しい。
私は手で弧を描くように振り、光魔法を放つ。
放たれた魔法が大きな虹に変わると、人々は歓声を上げた。
馬車の前を馬に乗って進んでいたアルがこちらを振り向く。
その表情は柔らかく、私の作った虹を喜んでるように見えた。
大歓声に包まれたパレードは、私達が王都の門を出た事で終わりを迎えた。
セオンや騎士達をはじめ、沢山の人々が手を振って送り出してくれた。
私達はそれに手を振って応える。
門から少し進むと、先程までの騒ぎが嘘のように静かになる。
それが少し寂しかったが、気持ちを切り替えてなくてはならない。
私は馬車からは降りると、アルの元へ近付いた。
「コウ、さっきは国民の声に応えてくれてありがとう。」
「私がしたかったからしただけだよ。
私も皆んなにお祝いされて嬉しかったから、何かお礼がしたくて。」
そう言った私の頭をアルが撫でる。
子供っぽいかも知れないが、アルに頭を撫でられるのは好きだった。
「アル、この馬車はどうするの?」
「ああ、それなら王都に戻す事になっている。
流石にこの馬車に乗っては、旅がし辛いからな。」
どう見てもお祝いの時用の馬車に見えるこれは、荷物を積む事さえ出来ない。
それに私のアイテムボックス中には、前に聖剣を授かりに行った時の馬車が入っている。
中の荷物は積み直したが、馬車はそれ一台で十分だった。
「あの...アル、それと...」
「何だ?」
まだ何か言いたそうにしている私にアルが不思議そうな顔をする。
「私...着替えたいんだけど。」
私の言葉にアルは目を瞬かせ、その後ため息を吐く。
でも、私の申し出は仕方がないと思う。
この聖女の格好での旅は無理だ。
馬にさえ乗る事が出来ない。
パレードも終わったし、早々に騎士の服に着替えたい。
「わかった。
馬車を戻すついでに、門番の休憩に使ってる部屋で着替えて来い。」
盛大に見送られたのに、こんなにすぐに戻ってしまうとは。
門番達も何とも言えない表情だったが、せめて他の人達には気付かれないようにそっと着替えに戻ったのだった。




